《好人余聞》14 「和菓子屋というより気楽に地元のまんじゅう屋と呼んでほしい」 和菓子職人 伊藤潔さん

伊藤潔さん

【コラム・オダギ秀】人生という旅の途中で出会った人たち、みんな素敵な人たちでした。その方々に伺った話を、覚え書きのようにつづりたいと思っています。

こんな菓子を作る菓子職人に、ぜひ会いたいと思った。

菓子好きの人には、珍しい菓子ではない。氷のような砂糖の皮膜で寒天の柔らかな感触を包んだ菓子と言えば、ああ知ってるよ、と言いそうだ。

だが、これは違うと、ボクは思った。

薄い氷をパリっと割ると、その下には清涼な水が、春の訪れを待っているようだった。だがそこには、まだ春が近いとは言えない、過ぎ去った季節を懐かしんでいるような控えめな甘さがある。この控えめは、横瀬夜雨の気持ちなのかも知れない。そこに、ほんのりと福来(ふくれ)みかんの香りが漂うから、つくば山麓に汗した思い出が、やさしく包んでくれるのだ。

和菓子・福来氷(ふくれごおり)

菓子の名を福来氷(ふくれごおり)と言う。つくば市の菓子処いとう、福来氷を作る和菓子職人伊藤潔さんにお会いした。

「いつから菓子を作り始めたか、という意識がないんです」

ボクが尋ねると、伊藤さんは首を傾げて笑った。

「物心ついた時から、父の傍でやってましたから、小学校に上がるころには、もう和菓子作りの基本的なことは全部出来ちゃったんです」

だからだろう、潔さんは、お父さんの和菓子店を継ぐのが夢だった。でも、商売を上手くやろうなんて気は、さらさらなかったようだ。

「ただただ美味しいものを作りたかったんです」

寒天ゼリーを砂糖の薄氷で包んだ「福来氷」

それも地元のものを生かして、という思いは強かったようだ。潔さんのお父さんは、筑波山の風情と横瀬夜雨の詩に憧れてつくば市に店を構えた、というから、地元に寄せる思いは、親譲りなのかも知れない。

「福来氷」は、爽やかな寒天ゼリーを、パリパリッと砕ける砂糖の薄氷で包んだ菓子。なかに、香り高い福来みかんの砕片が入っている。

福来(ふくれ)ミカンは、つくば山麓で栽培されている直径3㌢ほどの、爽やかな香りのミカン。日本原産、橘の一種らしい。ミカン栽培の北限と言われる土地で育った、小さな小さなミカンだ。

目立たず控えめに、隅々まできちんと仕上げている菓子は、伊藤さんの心の旅を表しているような気がする。

「目立つの苦手なんです。和菓子店と言われるよりも、気楽に、地元のまんじゅう屋って呼ばれたいんです」

伊藤さんは、福来みかんをいとおしそうに手にすると、恥ずかしげに笑った。(写真家)

▷伊藤潔さんのお店・御菓子処いとう

茨城県つくば市並木3-26-17

電話029-851-0281 FAX 029-851-3028

営業:午前9時〜午後5時30分 定休:月曜、日曜(第3日曜は営業)