《続・平熱日記》29 亥年に思う


【コラム・斉藤裕之】昨年暮れ、中学生が「先生、おせちって美味くないっすよねえ」って、つぶやいていたのを思い出します。「少年、君の意見は正しい。世間でいかにも『映える』宣伝を広告や映像で流しておったが、君はそのプロパガンダを疑い、自分の意見を信じることができた。確かにおせちはそんなに美味いもんではないと、私も思う」。

正月早々スーパーが開店し、そうでなくても文字通りコンビニのある今日、子供にとっておせちはやたら甘辛い褐色の、年寄り臭い食べ物であることは間違いありません。いや大人にとっても、昔のように正月中食い続けなくてもいいのであれば、2日目のお昼はそろそろ、街道筋のラーメンのジャンクな味が恋しくなるのが普通でしょう。

そうはいっても、手作りのおせちのお重とおつくりと雑煮が並ぶ元旦の食卓は、幸せな1年の始まりに相応しいものです。

イノシシは冬のご馳走 臭みもなく美味

さて今年は亥年。昨年暮れに八郷に引っ越した友人宅を晦日(みそか)に訪ねました。糸を染め紡ぐイクちゃんとひょうたんの作品を作っているカブちゃん。新しい住居は2人の夢をかなえてくれる理想の広さと環境。

別の見方をすれば、ほぼ限界集落というやつですが、この地を選んだ理由の1つは家族構成。2人のほかに大小合わせて数頭の犬。実は迷い犬を保護したのがきっかけで、増えてしまった犬たち。その犬たちの住処探しの結果でもあったのです。このエキセントリックな新住民は、意外にも集落の方々に歓迎されることになります。

住まいのあちこちにある足跡。そう、イノシシが日常的にそこら中を歩き回るというワイルドな環境に、犬たちは有能な抑止力。「イノシシ除けになんだよ」って。犬を散歩させて匂いを振りまくだけでも効果があるそうです。

実はイノシシは冬のご馳走です。臭みもなく脂のさっぱりした肉は美味。うちには、昨年弟から送られた1級品のイノシシのヒレ肉の塊が冷凍されていますが、夫婦2人ではなかなか解凍に至りません。

好奇心の強いカブちゃんは、早速、イノシシ猟に興味を示しています。しかし大変なのは、捕まえたイノシシのその後です。心優しいカブちゃんに、サバくという作業ができるのでしょうか。

うちにはイノシシの頭蓋骨が2つあります。デッサンのモチーフ用にと弟が送ってくれたものです。そのひとつは、恐らく立派な名のある主であったと思われます。獲物を探すために使い込まれ擦り減った大きな牙。敬意を表し、またよき年となるよう描いてみました。(画家)