【コラム・相沢冬樹】生を「き」と読むか「なま」と読むかで、生醤油(しょうゆ)の正体は違ってくると解説するテレビ番組があったそうだ。塩以外の調味料を添加しないものを生(き)醤油といい、火入れ(加熱処理)をしないのを生(なま)醤油というらしい。製法の進化で最近の醤油は鮮度を保って出荷できるようになった。

そんな話題が出たのは、そば店に張り出された掲示を見たからだ。「お持ち帰り用 生そば(二八・田舎)あります!」。読みがなは振ってない。この場合、「き」と読むか「なま」と読むか。相伴のそばっ食いは「生(き)そばは本来混じりけのないそばをいうから、二八は含まれないはずだ」とうんちくを語る。相棒は「二八どころか小麦粉ばかりの立ち食いそば店だって生そばのノレンをかけている」と反論する。

手打ちそばの1日体験教室が16日、小町の館(土浦市小野)で開かれていたのでのぞいてみた。年越しそばの時節柄、地元の熟練者で組織する鵜合之衆(うごうのしゅう、小野マサル代表)が手ほどきをする絶好の機会で、教室参加歴20回以上の中級者から全くの初心者までが集まってきた。そば打ち経験10年以上のベテランの師匠たちがほぼマンツーマンで指導する。材料は地元産常陸秋そばがベース。そば玉をこね、麺(めん)棒で延ばし、大ぶりの麺切包丁で、細身のそばを仕上げていく。江戸流というらしい。

独特の道具立てに目を奪われながら、手元を追う僕は初歩の質問ばかりを繰り出して師匠たちを困らせた。回答は「二八ならば、なまでよろしかろう」。生(なま)そばというのは乾麺との区別で、ゆですぎないようにという意味を含んでいる。

教室で取り組んだ二八の場合、そば粉400㌘に小麦粉100㌘で水は最大250㍉㍑が標準。水を加えて700㌘強になったソフトボール大の玉を手でこねて、のし棒に何度も巻き付けて円形に延ばしてから角型に広げていく。「四ツ出し」という作業。厚さというより、薄さ1.5㍉程度に延ばした後、折り畳んでそば包丁で1.5㍉幅に切っていく。断面は1.5㍉角の正方形になる。これで、細くともコシをきっちり感じるのど越しのそばに仕上がるのである。

1人前の分量にもよるが1回の手打ちで約8食分ができる。師匠の1人は、この先大みそかまでに30㌔ほどのそばを打ってご近所などに配るというから、生半可では務まらない。今年は収穫時期に台風被害を受けたことで、そば粉がキロ1500円以上にも急騰してこたえているそうだが、10年以上続く習慣を止められない。生真面目なのだ。

「き」と「なま」が出そろったところで、打ち立てをユズたっぷりのけんちんそばにしていただいた。これにて頓首(とんしゅ)謹言(きんげん)、「土着通信部」はひとまずお休みをいただく。(ブロガー)