早大政経・土屋ゼミ・インタビュー14

月曜は大学の日

斎藤:新聞への寄稿だけでなく、古巣・時事も手伝っているそうですが。

坂本:時事の方は地域アドバイザーです。これは、先に触れた「常陽懇話会」―事務局が新聞社内にありましたので旧社破綻に伴い解散―会員の約3分の1を、時事の同様の組織「内外情勢調査会」に紹介したことが縁になりました。

内情は全国組織ですが、県内には茨城支部(水戸・日立中心)と県南支部(つくば・土浦中心)の2支部があります。地域新聞の社長・会長・顧問を10年やっていましたから、地元の政治家、経営者、首長とは懇意にしておりました。その財産を活用、古巣の地域業務を手伝っているわけです。

また、2015年春から、茨城キリスト教大という日立市の大学で教えるようになりました。4年前にオープンした経営学部の講師をやってくれないかと、知り合いの理事から誘われ、毎週月曜日の午後、2コマ―国際経済と社会科学―教えています。

昔風の講義ではなく、生徒が興味を持つよう、ナマの話も入れてということでしたので、記者時代の知識、新聞経営の経験をブレンドしています。生徒とのコンタクトだけでなく、若い先生といろいろな話をするのは楽しいですね。日立の飲み屋もいくつか開拓しました。(笑)

官主導→民主導

藤本:最後に大きな話になるのですが、戦後日本の経済ジャーナリズムの問題点は。

坂本:取材33年のうち、前半は高度成長、後半はバブル崩壊でした。前半の日本経済は、官主導と言っていいと思います。後半は、金利自由化や規制緩和に象徴されるように、民主導、市場重視になりました。

官主導時代の取材対象は、通産省、大蔵省、日銀などが代表的なところです。民主導になると、自動車、電機、流通といった産業界、企業の商品開発とか業績、株式・為替・金融といった市場に、取材の力点が移りました。

成長期はどうして官主導だったのか。会社に蓄積がなく、おカネがないから、国が産業界におカネを重点配分する必要があったからです。ところがバブルのころから、企業にも蓄えができ、国の指図をいちいち受けない方がやりやすい―そういう景色に変わりました。

その移行期は、80年代後半から90年前半でしょうか。でも、日本の経済ジャーナリズムは、官主導ノスタルジアから抜け切れていない。もっと、企業・市場志向になる必要があると思います。

米国を見ると、企業の合併とか投資の記事、つまり民の記事が多い。FRBの記事も結構ありますが、これは企業がマーケットを気にしているからです。日本では、役所がこう考えているといった記事がまだ多いような気がします。

英米メディアの目

藤本:グローバル化が進む中、経済ジャーナリズムの役割は。

坂本:今、日本の企業がどんどん外に出ています。こういった企業の動きに比べると、メディアはドメスティックです。市場は「日本の読者」、商品は「日本語の媒体」ですから、仕方ないといえば仕方ないでしょう。

でも日経は、英国の経済紙「FINANCIAL TIMES」を買収、市場や商品を拡げる決断をしました。推測ですが、グローバル視野でメディアビジネスを展開しないと、取材対象でもあり読者でもある、企業のニーズを満たせないと判断したのでしょう。

日経を有料電子版で読んでいますが、「FINANCIAL TIMES」の邦訳記事は有益です。情報の質だけでなく、日本メディアとは違った視点で物事を見ているからです。「THE WALL STREET JOURNAL」の電子版も読んでいますが、米のビジネス界、エスタブリッシュメントの視点を知るのに役立ちます。(続く)

(インタビュー主担当:藤本耕輔 副担当:齋藤周也、日時:2015年12月4日、場所:東京都新宿区・早稲田キャンパス)

【NEWSつくば理事長・坂本栄】