【コラム・相沢冬樹】2005年の夏、つくば市東部の農村集落、吉瀬(きせ)に、古民家再生に取り組むグループが立ち上がった。Co-民家再生団という。吉瀬在住の根本健一さんの呼び掛けに集まったのは、集落に拠点を置く地域コンサルタントの経営者と研究員、若手日本画家、古布収集家、そして2人の筑波大学院生、合わせて7人の陣容。挑むのは無人のまま長年放置された廃屋同然の古民家、「月出(みかづき)庵」と名づけ、掃除と草むしりに明け暮れる再生プログラムに乗り出したのだった。

この取り組みから10年余り、2人の大学院生は今、仙台と鹿児島の大学で仕事に就いている。東北工業大学工学部建築学科講師、不破正仁さん(42)と鹿児島大学工学部建築学科准教授、小山雄資さん(37)。2人は、当時の鮮烈な体験が忘れがたく、今回共著で1冊の本をまとめあげた。『民家再生のはじめかた~そうじから紡がれるものがたり』(人と住まい文庫、2018年)である。

「そして、掃除がはじまった。まずは、建物に入れるかどうかだ。たくましげなオヤジたちがその建物の雨戸と思しき小さな戸をガシガシと開ける。押しても引いても動かない雨戸は、まず下のほうを蹴り上げながら上部をものすごい勢いでたたいていく。それでも動かない場合は鴨居をジャッキアップする。そうして戸がはずれ、部屋に光が差し込み始めるのである」(本書)

着手は酷暑の7月、ごみやガラクタ、建物内に生えた樹木やカビを除去する作業は悪戦苦闘の連続となった。さらに炎天下での草むしり、木枯らしの中での落ち葉掃きが続けられた。こうしたハードウェアとしての建物の再生を通じて、グループ内の考え方や地域との人間関係などのソフトウェアが整理される。居住まいを正した農村住宅は、イベント会場や農村カフェなどの企画が催されるコミュニケーション空間になっていく。

「そうじ」は継続の処方

本書は記録と記憶のドキュメンタリーである。建物の隅々に刻まれたモノとコトを一つひとつ取り出しては、体験的に思い入れを語っていく。月出庵での取り組みは3年間だったが、Co-民家再生団の活動は土浦市虫掛など周辺の農村集落にも及んだ。必ずしも文化財的な価値が見出される建物ばかりではなかったが、どんな場所でも徹底して「そうじ」にこだわることで見えてくる景色があった。

「そうじは、遺産を発見する機会であるにとどまらず、継続的な営みとして建物の価値を発見・創出していくプロセスに位置づけられるのである」(本書)

一連の取り組みはやがて大学研究室の後輩たちに引き継がれ、各地に実践例を残していくことになる。「月出庵」自体も、再び民家再生の拠点として、新しい担い手にバトンタッチされようとしている。それはまた、別の「ものがたり」のはじまりである。(ブロガー)

▽「民家再生のはじめかた~そうじから紡がれるものがたり」(A5判48㌻、税込み1,080円、西山夘三記念すまい・まちづくり文庫刊)問い合わせ:電話0774-73-5701  http://www.n-bunko.org/