産業技術総合研究所(産総研)計量標準総合センターは12日、つくば市梅園のつくばセンター中央事業所で保管している国の重要文化財「メートル原器」と「キログラム原器」の封印を解き、初めて同日公開を行った。
「世界計量記念日」の5月20日に、メートル条約が締結されてちょうど150年となることから、計量標準の象徴である2つの原器を通じ同条約の果たしてきた役割を紹介したいと報道陣向けに公開した。
メートル条約は1975年5月20日、当時17カ国の間で締結された。日本は1885年(明治18年)に加盟、今年4月現在、加盟国は64カ国、準加盟国は37カ国となっている。国によって長さや体積、質量などがまちまちだと貿易や製品製造などの障壁となることから、各国で一致した計量標準を定めようとした取り決め。
メートル条約の下、1890年にメートル原器とキログラム原器が加盟国に配布された。日本はこのとき両原器の配布を受けた初期の加盟国の一つ。メートル原器はフランスで30本製作されたもののうちNo.22を、キログラム原器は40個作られた複製のNo.6を、それぞれ受領した。共に白金イリジウム合金製、経年変化や熱膨張係数が少ない素材で作られた。
原器は、例えば都道府県等の保有する測定器との校正を行う際などに用いられるが、40年に一度フランスに里帰りして定期検査を受ける。普段は室温や湿度、防塵管理の厳格な場所で保管されている。日本では戦時中、都内から石岡市(柿岡)の地磁気観測所に「疎開」して戦災を避けようとした歴史もある。
「現物がそこにある意味」
国際的な計量標準は国際単位系(SI)が体系化され、最新の科技術をベースにした定義の改定が進んだ。「原器」を計量標準に用いたのは、長さ(メートル)と質量(キログラム)だけ。
メートルは元々子午線の長さを基準に定められたが、メートル原器が出来てからは原器に刻まれた2本の目盛線の中心間の、温度0℃のときの距離との定義が約70年間使われた。1960年になって、クリプトン光の波長を基準とする距離に改定され、1983年からは一定の時間に光が真空中を進む距離による定義になっている。

一方、キログラム原器は2019年までの約130年間、質量の基準としての役割を担ってきたが、原子1個の質量に関連する物理定数「プランク定数」に基づく定数に変わった。産総研の計量標準総合センターの研究グループが、シリコン単結晶球体を用いて高精度なプランク定数の測定に成功したことで、改定に大きな役割を果たしている。
こうして役目を終えたメートル原器は2012年に、キログラム原器は2022年に、それぞれ国の重要文化財に指定された。計量標準で「原器」の考え方はとらなくなったものの、特にキログラム原器は完全に引退したわけではない。非常に優秀な分銅として、現在でも産業の現場などで役立っているという。
このためキログラム原器の保管はとりわけ厳重で、つくばセンター中央事業所の地階の厳重な扉のなかに保管され、塵芥を避け、湿度は0%に保たれている。12日はこの施錠を解いての公開となった。庫内にはキログラム原器のほか、副原器、尺貫法時代の貫原器2点の合わせて4点(いずれも重要文化財)が公開された。
計量標準総合センターの臼田孝センター長は「物理量と違って現物がそこにある意味は大きい。150年変わらず維持してくれた関係者がいたわけで、その象徴としての原器を今後とも大切にしていきたい」と語っている。(相澤冬樹)