【コラム・斉藤裕之】東京 夢の島からナイトクルージング。よほどのことがない限りこういったお誘いはお断りするが、次女の結婚を祝っての企画とあっては喜んではせ参じるしかない。
この催しを提案してくれたのは長女の義父母。つまり、次女からすれば姉の義理のお父さんお母さんということになる。一般的にこういう関係性の場合、それほど親しく付き合うことがないと思われるが、次女と姉の義父母はとても仲がよく、誕生日や年中行事を共にする。
さて、当日は桜が一気に咲いたと思ったら真冬の寒さ。しまいかけたダウンジャケットを引っ張り出して、新木場駅から夢の島マリーナへ。いや~、世の中にはお金持ちがこんなにいらっしゃるんですねえ。マリーナに並ぶ大小様々の豪華なヨットやクルーザーを見ての率直な感想。
ところが、ここで気になる情報が飛び込んでくる。詳細は抜きにして、食べ物付きのプランを予約したのだけれど、ちょっとした手違いがあったらしく、出航がやや遅れるとのこと。そこで通されたのは、このマリーナのオーナーズルーム。さすがにお金持ちのたまり場感。とりあえずそこで待機。
しかし、待てど暮らせど、出航の案内がない。小一時間が経ったころ、オーナーズルームの営業が終了したと告げられ、追い出されるようだ。船主に連絡を取るも音信不通。一同待ちくたびれるし腹は減るし、イライラが募ってきたころ、誰ともなく「これは詐欺にあったんじゃないか?」と、つぶやいた。
というか、こうなったら新木場まで戻って、居酒屋で一杯やるかと動き出そうとしたそのとき…船長現る。
夜の東京の明るさに驚いた
多分、何とかして食べ物を手配していたのだろうと推測されたが、船長の言い訳は天候の回復を待っていたとか。それにしても、ここは一言言わずにはいられないと誰もが思っていたところに、義母の「めでたい日だから…」という慈悲深い一言で、なんとか平静を保つ。
ともあれ、無事に出航。とにかく寒い夜だったが、3歳の孫は初めての経験に大満足。雨も上がって、東京の夜景、そしてライトアップされた満開の桜が、次女夫妻の門出を祝っているかのよう。もちろん、新婚の2人も感慨ひとしおの様子。
一方、夜の東京の明るさに改めて驚いた。ウォーターフロントに林立するタワーマンションのきらびやかなこと。次々に現れる橋や東京タワー、スカイツリーも煌々(こうこう)と輝いている。世間で米が高いとかガソリンや電気代が値上げとかで騒いでいるのが、うそのようにさえ感じられる。
2日前まで、山口の山の中で、夜が明ける前の暗闇の中をパクと散歩していたことを思い出して、余計に別の国のことのようにも思えた。
帰りは、みんなと別れて独り東京駅に向かう電車に乗った。結構遅い時間になっていたが、夢の国からの客で電車は満員だった。(画家)