木曜日, 4月 3, 2025
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愛しのベジタブル《短いおはなし》37

【ノベル・伊東葎花】

僕はひどいあがり症だ。
人前で話すだけで顔はまっ青、足はガクガク。
そんな僕が、留学先の高校の演劇大会で主役に抜てきされてしまった。

「先生、無理デス。ボク留学生ダシ、日本語モ下手デス」

「大丈夫だよ。セリフ少ないから」

「緊張シテ、上手ク出来マセン」

「客を全員野菜だと思えばいい。ほら、かぼちゃとか白菜とか」
「無理デス。ダッテ人間ダモン」

「じゃあ、人が野菜に見えるおまじない、教えてやろうか」
「オマジナイ?」

「先生の後に続いて唱えてみなさい」

先生は高らかに声を張り上げて「ラブリー・ベジタブル」と呪文を唱えた。
僕も真似して、同じように唱えた。

「ラブリー・ベジタブル、ラブリー・ベジタブル」

すると、目の前の先生が突然ピーマンになった。
小道具を運ぶ女子はダイコン、演出の男子はゴボウ。

「スゴイデス、先生」

「よし、じゃあ頑張れ」

おかげで舞台は大成功だった。何しろ客席はカボチャやサツマイモやニンジンたち。
少しもあがらない。僕たちのクラスは最優秀賞をもらった。
ところが、舞台を降りてもずっと、呪文が解けない。
ホームステイ先のおばさんはキュウリ、おじさんはジャガイモ。

「今日の舞台よかったわよ。おばさん感激しちゃった」

「なかなか堂々とした演技だったぞ」

「アリガトウ」と言いながら、キュウリとジャガイモに言われても…と思った。

翌日も魔法は解けない。
先生は相変わらずピーマンのまま。ピーマンの授業は中身がない。
となりの席の山田君は玉ネギ。見ているだけで涙が出る。
いちばん人気のエリカちゃんはトマト。
学級委員は頭でっかちのカリフラワー。
みんな野菜だから楽に話せる。ぜんぜん緊張しない。

だけど困ったことに、野菜が食べられなくなってしまった。
ホームステイ先の家族はベジタリアンだから、食卓は野菜料理ばかり。

「ジャガイモをすりつぶしたスープよ」

と言われると、おじさんの顔を見てしまう。
キュウリのサラダはおばさんが身を削っているようで切なくなる。
耐えられなくなって、故郷のママに連絡した。

「ママ、このままじゃ僕、栄養失調になっちゃうよ」

「まあ可哀想。だから留学なんて反対だったのよ。すぐに帰ってきなさい」

そんなわけで僕は、志半ばで故郷に帰ることになった。

「故郷に帰っても、私たちの顔を忘れないでね」

クラスメートは言うけれど、人間だったころの顔はもはや憶えていない。
それでも別れは悲しいもので、涙をこらえて宇宙船に乗り込んだ。
故郷の『ナスビ星雲第3惑星ナガナス星』に向けて全速力だ。
ああ、地球人との交流って、難しいけど楽しかった。

地球の教室では…

「ナスビ君、帰っちゃったね」

「演劇大会のゾンビ役は最高だったな。メイクしなくても顔が紫だから」

「茄子(なす)を見るたびにナスビ君を思い出すわ」

ホームステイ先では…

「ナスビくんが帰ったから、心置きなくナスが食べられるわね」

「うん。やっと焼き茄子(なす)が食える」

(作家)

【お詫び】26日午前6時に掲載した短編小説「恐竜の星」を差し替えました。「恐竜の星」は2024年7月24日付で掲載したものでした。関係者にお詫びの上、差し替えます。

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