【コラム・高橋恵一】裏金問題や統一教会問題で安倍一強政治への批判を受けて衆院解散による総選挙の結果、自公与党が過半数を割り込んだ。与党少数だが、野党はバラバラなので、施策の優先度や重要課題についてよく議論し、協議内容を公開して世論の評価なども受けながら、バランスの取れた政策が推進できるのではと期待していた。
しかし、国民民主党は、労働組合を基盤とする、弱者側に立つ政党と理解しているが、キャスティングボートを握ったとして強気になり、選挙勝利の成果を、低賃金労働者(いわゆるパートさん)の手取りを増やす政策を主導し、103万円の壁を無くすというものだ。
彼女(パート)らは、月収10万円弱だが、年末の11月ごろには、それまでの収入が103万円に達してしまい、12月の就労を止めないと、所得税がかかる。さらに、賃金の年収が130万円を超すと社会保険に加入し、保険料を負担することになる。
また、この壁を超えると、夫の扶養家族控除が無くなり、会社からの扶養手当も無くなる場合もあり、就労日数を増やしても、かえって手取りが減ってしまうから、妻(パートさん)は、働く日数を制限してしまうという事情のようだ。しかし、壁を越えて増額する収入額は、新たに負担する所得税や社会保険料より多く、手元の残金の方が多いのだ。
国民が就労して国や自治体の必要な公共サービスの経費を能力に応じて負担するのは当然だし、社会保険への加入は老後の生活を保障する重要な制度だ。むしろ、扶養控除や扶養手当の継続が課題かもしれないが、減税と違って、雇用企業が決めることなので、政府は強制できないだろう。
低所得層の所得拡大が必須
冷静に評価すれば、103万円の壁の見直しは、目先の手取りが若干増えるように見えるが、壁を178万円にしても、パート労働者の賃金は大幅に増額することはないだろう。むしろ、パート労働者の低賃金を固定させてしまう恐れがある。壁の見直しで基礎控除の底上げをすれば、累進課税だから、負担軽減したい低所得者より、高額所得者の方が断然減税額が多くなるのだ。
検討課題は多いけれど、手取りを増やすために壁の見直しをやるとするなら、基礎控除の引き上げではなく、課税対象額の低い区分(194万9000円以下)の所得税率を5%から0%に変更すれば、高所得者の減税は生じない。
現在、我が国の課題の一つは、経済力の低下。以前はGDP(国民総所得)世界第2位だったのが、昨年には、ドイツに抜かれて第4位、1人当たりGDPは世界34位にまで落ち込んでしまった。GDPは名称の通り、国民ひとり一人の所得の合計額だ。従って、GDPの拡大には、国民、特に低所得層の所得拡大が必須だ。
非正規労働者の大半は女性で、市役所などの公的職場で働いている。政府が賃上げすれば改善する。政府がやらなければ実現しない。(地歴好きの土浦人)