金曜日, 5月 10, 2024
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初発膠芽腫患者対象に治験スタート 筑波大学のがん治療法BNCT

加速器で発生した中性子を照射してがん細胞を破壊する治療法、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の開発を進める筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)が、難治性脳腫瘍の膠芽腫(こうがしゅ)に対する治験を開始した。現在、大学付属病院(原晃院長)の患者対象に候補者を絞り込んでおり、加速器のある東海村に設置した治療施設で3月にも臨床試験が開始される。初発膠芽腫患者を対象にした医師主導の治験は世界初という。

筑波大学は初発膠芽腫を対象とした国内第Ⅰ相医師主導臨床試験に関する治験計画を提出。日本医療研究開発機構(AMED)の「橋渡し研究プログラム」課題として採択され、23年度から3年間、8000万円が予算化された。治験登録の手続きは1月までに完了した。

脳と脊髄の神経膠細胞から発生する腫瘍のうち、最も悪性のものが膠芽腫(グリオブラストーマ)で、5年生存率が10%程度と極めて低いがんとされる。手術と放射線・化学療法の組み合わせでも多くが再発し、治療が困難とされ、有効な治療法が望まれている。日本国内での脳腫瘍の発生頻度は年間に約2万人、そのうち10%強が膠芽腫とされている。

今回の治験では、すべてを切り取れないような難しい部位に悪性腫瘍のある患者を対象に、BNCTの安全性などを検証する。効果を的確にとらえられるよう、放射線治療歴がない患者を対象とした試験となる。通常の放射線治療では放射線量で60グレイの照射が行われるが、BNCTと組み合わせることで40グレイにまで抑えられ、治療時間の短縮により、患者の負担も軽減されるという。

第Ⅰ相(安全性試験)の後、第Ⅱ相(治療の有効性治験)を実施して効果が認められれば、医療機器の承認を経て、保険診療へとつながっていく期待がある。第Ⅰ相では12人から最大18人、第Ⅱ相では30人程度の症例を得る想定で、結果が出るまでに3年程度を要すると見ている。

大量の中性子も低エネルギーで安全性確保

BNCTは、がん組織にのみ集積する性質のホウ素薬剤を投与し、加速器で発生させた中性子を患部に向けて照射すると、中性子とホウ素が反応し核反応を起こし、がん細胞を破壊する原理に基づく。放射線治療の一種だが、細胞単位で治療が可能で、皮膚や周囲の正常細胞は影響を受けにくいという利点がある。

筑波大では長年、付属病院の陽子線医学利用研究センターでBNCTの研究に取り組んできた。2011年3月以前は中性子の発生源に、東海村にあった実験用原子炉が用いられたが、東日本大震災で被災しストップ。これを機に実用化に向け病院にも設置できるよう、小型化と安全性を求めての装置開発が進められた。

照射装置は2013年、いばらき中性子医療研究センター(東海村白方)内に設置、15年に中性子の発生を確認した。高エネルギー加速器研究機構(KEK)と共同開発の加速器は長さ約8メートルとコンパクト、設置面積は40平方メートルに満たない。エネルギー8メガ電子ボルト、平均電流約2ミリアンペアで陽子を加速し、厚さ0.5ミリのベリリウムに照射して中性子を得る。中性子ビームは別室に導かれ、生体に照射される。

21年から治験薬開発のステラファーマなどと実証機(iBNCT001)による非臨床試験を行ってきた。陽子線医学利用研究センターの熊田博明准教授によれば「大量の中性子を発生させながらもエネルギーは低く抑える」ビームのコントロールに苦心した。エネルギーを低くすることで施設の放射化を避けられるという。(相澤冬樹)

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できるだけ申請しないよう管理職が指導 つくば市は9日、市社会福祉課職員の残業代(時間外勤務手当て)と特殊勤務手当てに未払いがあったとして、未払い分が請求できる過去3年間にさかのぼって今後、支給すると発表した。未払いの人数や金額が全体でどのくらいになるかは現時点で不明。残業代未払いが発生した要因は、できるだけ申請しないよう管理職が不適切な指導を行っていたため、職員が申請しにくい状況になっていたとしている。 不適切な指導をした管理職に対しては今後、規定に基づいて処分を実施する。一方、監督責任を重く受け止め、五十嵐立青市長が給料を2カ月間10%減給とするほか、飯野哲雄、松本玲子副市長2人が1カ月間10%減給するとし、近く議会に提案する。さらに今後、同様の未払いがないか全庁的に調査するとしている。 残業代については昨年9月、特殊勤務手当については今年2月、いずれも同課職員から未払いがあるとの指摘があり判明した。 市社会福祉課によると、残業代未払いについては職員の指摘を受けて同課で調査、ヒヤリングを実施し、各職員に申請するよう促した。現在、申請に基づきコンピュータシステムへのログイン状況などから突合作業を実施しているが、未払いの人数と金額は調査中で、確定次第、公表するとしている。 一方、未払いの特殊勤務手当は、生活保護の業務に従事した職員に1日275円支給する手当。指摘を受け、今年3月、同課で調査を実施したところ、同業務についての解釈が各職員で異なっていたことが分かった。法令に基づき支給基準を明確化した上で同課職員に過去3年分の未申請分を申請するよう促したところ、今年5月、人数と金額が判明。2020年度(21年1~3月のみ)は12人に1万5950円、21年度は14人に9万6250円、22年度は15人に16万2525円、23年度は16人に9万5700円が未払いで、3年間で延べ57人、37万425円になる。年度によって支給対象職員の7割から9割近くに未払いがあった。 原因は、2020年4月に市職員特殊勤務手当条例の改正があり、改正前は支払い対象職員に定額の手当てが支給されていたが、改正後は、日割りで申請する方式に変更になったことにより、管理職によって判断が違ってしまったとしている。手当を支給する対象業務を明文化した文書などは作成されていなかった。 市人事課は、未払い分についてはいずれも内容の精査が終わり次第、速やかに追加支給をするとしているが、支払い時期は現時点で分からないとしている。 未払いについて五十嵐立青市長は同日「これまでも全庁的に時間外勤務については必ず申請すること、管理職には部下に時間外勤務をさせる場合は必ず事前に業務命令を行った上で、内容について状況を監督すること等、繰り返し指導してきたが、このような事案を発生させてしまったことを反省しています」とし、「今後このようなことが決して無いよう適切な労務管理体制を確立すべく改善に向け取り組みます」などとするコメントを発表した。 【訂正10日午後1時45分】6段落目、特殊勤務手当未払の原因に関して「2020年4月に社会福祉法の改正があり」は「…市職員特殊勤務手当条例の改正…」の誤りです。訂正しました。

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