土曜日, 4月 12, 2025
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久しぶりのベトナムで思ったこと《文京町便り》21

【コラム・原田博夫】9月中旬、ハノイ市のベトナム社会科学院(VASS、国家機関)を訪れた。日越関係樹立50周年記念の会議・シンポジウムへの参加が主目的だった。この会議の主催は、ベトナム社会科学院、国際交流機構(JICA)、日本財団(JF)、専修大学だったが、駐ベトナム日本大使の山田滝雄氏や専修大の理事長・学長から祝辞が披露された。

40周年記念会議の際にも、当時私が主宰していた研究プロジェクト・専修大社会関係資本<ソーシャル・キャピタル>研究センター(2009年度~13年度)とVASSが研究交流協定を結んでいた関係で来訪しているので、10年越しの訪問になる。

会議以外にも現地事情の視察が組まれ、その一環でイオンモールを訪ねた。訪問先はハノイ中心部から南に車で15分程度の郊外で、周辺は田園地帯である。ここの基本的なレイアウトは日本各地のそれと同様で、横長3階建て・1階左右の一方に大型スーパーを配置し、中間部に衣料品などの各種テナント、2階にはレストラン・飲食店、3階にはエンタメ系店舗が入居している。

来店客はこの横長のモールを周回移動し、購買意欲のおもむくままに消費する仕掛けである。対象客層としては、この10年間で30%から70%に急増している同国の中間層、とりわけファミリー・若者・カップルに焦点を当てているようだ。

増えるイオンモール郊外店舗

店長(ベトナム人)・副店長(日本人)の話によると、地元コミュニティとの連携・意識改革を重視していて、ゴミは出し・捨てるもの(ベトナム人一般のこれまでの意識・行動)ではなく回収・処分の対象にし、清潔さを旨としたトイレなどに加えて、モール全体のグリーン化を促進する観点から、駐車・駐輪(バイク)場からモールへのルートには植栽を配置し、今後はEV設備も設置予定(充電時間がかかっても、その間、モール内に誘導できる)、屋上にはソーラーパネルも設置予定、とのこと。

同国でのイオンモールは、2013年1月にホーチミン市でスタートし現時点では6カ所だが、25年までには16に拡大する予定(30年までには30カ所も)とのこと。意欲的な取り組みに感心した上での私の懸念は、東南アジア各国での混雑した道路際に立ち並んでいる個人商店・飲食店と、こうしたイオンモールの集客力は両立するのか後者に席巻されるのか、という点だ。

かつての日本の中小都市でも、大型シッピングセンターが登場する前の地元商店街はそれなりににぎわいを見せていたが、規制を主眼にしていた大規模小売店舗法(1973年10月公布、74年3月施行)が廃止され、「まちづくり3法」の一環としての大規模小売店舗立地法(98年6月公布、2000年6月施行)以降は、さらなる来訪者の減少からシャッター街となり、さらには店舗それ自体が立ち退き・コインパーキングに変貌している。

今や日本の地方圏では、旧市街地内の伝統的な生活産業の店舗はほとんど姿を消し、代わって、郊外に大規模な駐車スペースを確保したショッピングセンター(イオンモールはその代表例)が立地して、人々の日常生活を支えている。

東南アジアの街の魅力は小規模な商店・飲食店の多様性と活力にあると私は感じるのだが、その馴染(なじ)みやすさ・逞(たくま)しさ・したたかさは、イオンモールの新規性・清潔さ・魅力を跳ね返すのだろうか、それに屈してしまうのだろうか。(専修大学名誉教授)

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残念だった県教育長の3月議会答弁《竹林亭日乗》27

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霞ケ浦用水のパイプラインはずれ水が流出 川の土手が一部崩落 つくば市北条

市発注の河川改修工事中 つくば市北条、八幡(はちまん)川の川岸で7日午後1時ごろ、工事受注業者が同市発注の河川改修工事を行っていたところ、土の中に埋まっていた霞ケ浦用水の農業用パイプラインの接続部分がはずれ、パイプラインの中にたまっていた水が流出して、川の土手の斜面の一部が長さ約10メートル、高さ3~4メートルにわたって崩落した。9日、同市が発表した。 霞ケ浦用水は霞ケ浦から水を取水し、農業用水などを県南西に供給している。事故があったパイプラインは霞ケ浦用水土地改良区が管理し、筑波土地改良区が用水を利用して、同市北条と小田地区に農業用水を供給している。事故時は田植え前だったため水は供給されておらず、今月21日から田んぼに水を張るため通水する予定だった。現場では9日からパイプラインの復旧工事が始まり、21日の通水開始までには復旧する見込みという。 八幡川は桜川の支流。市道路整備課によると、八幡川では昨年9月から今年6月までの工期で、川の氾濫を防ぐため川幅を広げる工事を行っていた。7日は同市北条、大池公園野球場近くの右岸で、川の土手の土を斜めに削ってコンクリートブロックを敷設する工事を行っていたところ、川岸の土手の土の中に埋まっていた霞ケ浦用水のパイプラインの接続部分がはずれ、水が流出した。流出した水の量は不明。 埋設されているパイプライン近くの土を削ったことから、パイプラインにかかっていた土の圧力が減り、接続部分がはずれたとみられるという。パイプラインの埋設位置について市と工事業者はあらかじめ把握しており、市は、なぜはずれたのかについて原因を調べるとしている。川の改修工事の再開は現時点で未定という。 崩落した八幡川の土手に隣接している大池公園野球場について、市は7日から、野球場の利用を制限している。安全が確認され次第、早急に利用を再開できるようにする。 再発防止策として市は、市と受注業者の双方で周辺状況を把握し安全管理を徹底した上で、施工にあたっては細心の注意を払って作業を進めるとし、市発注工事を受注している全業者に注意喚起を徹底するとしている。

湖岸線日本一 霞ケ浦沿岸15市町村の魅力を一堂に 土浦市職員がイラスト展

若田部哲さん 土浦市職員、若田部哲さん(49)のイラスト展「日本一の湖の ほとりにある 街の話」が8日から、土浦駅前の土浦市民ギャラリーで開かれている。土浦市やつくば市など湖岸線の長さ日本一の霞ケ浦沿岸と筑波山周辺15市町村の名所や特産品、祭りなど地域の魅力を、計150点のイラストで紹介している。 若田部さんはNEWSつくばのコラム欄で2022年7月から毎月1回、「日本一の湖のほとりにある街の話」と題して、霞ケ浦沿岸地域の魅力をイラストと記事で紹介し今年3月までに計32回連載している。今回はNEWSつくばに掲載されたイラストも含め一堂に展示している。 展示作品は、稲敷市の大杉神社、阿見町の予科練平和記念館、つくば市のペデストリアンデッキ(遊歩道)など。大杉神社はかつて、巨大な杉の木が霞ケ浦のどこからでも見えて航路標識の役割を果たしたと言われていることから、空を覆うように杉の木を描いている。予科練は「戦争を経験した方々がおり、今という平和な時代がある」という同館学芸員の言葉をイラストに添えている。ペデストリアンデッキは松見公園、つくばセンタービル、洞峰公園それぞれの風景を描いている。大学時代に都市計画を学んだ経験からペデストリアンデッキは、「歩く」という人間の基本的な行為を安全に楽しめて人と人が交わるところという思いを込めている。 休日などに土浦市内や霞ケ浦周辺を巡り、実際に足を運んで、現地で話を聞いて感じた魅力を、各市町村それぞれ10点ずつ紹介している。いずれも色鮮やかな版画のような作品で、現地で撮った写真をもとに手描きで輪郭線を描き、パソコンに取り込んで着色している。イラストの大きさはいずれも縦横18センチ×27センチ、色合いはグレーをベースに、いずれも2色の濃淡で表現している。グレーは全作品に統一して用い、15市町村のつながりを感じられるようになっている。 若田部さんは筑波大大学院芸術研究科修了後、建築設計事務所に勤務し、2009年に土浦市職員になった。これまで土浦市内の昭和レトロな老舗を紹介するイラストと記事を常陽新聞(2017年に休刊)に連載などしてきた。霞ケ浦沿岸地域に着目したのは2017年に滋賀県の琵琶湖のほとりで開催された全国市町村職員研修会に参加したことがきっかけ。各地の自治体職員に霞ケ浦を紹介したところ、琵琶湖に次いで2番目の大きさなのに霞ケ浦を知らない職員が多かった。アピールするなら日本一のものと考え、霞ケ浦の湖岸線の長さが日本一であることから「日本一の湖のほとりにある街の話」と題するホームページを2019年に開設した。すでに300点以上のイラストを描き、発信している。 若田部さんは「自身が住む街を振り返ることはなかなかなかったり、見過ごしている場所もあると思うので、こんな場所があるということをご覧いただければ」と話し、「イラストで巡る霞ケ浦、筑波山の旅という展示なので、改めて行ってみたいというところがあったらぜひ実際に訪れていただければ」と語る。(鈴木宏子) ◆イラスト展「日本一の湖の ほとりにある 街の話」は8日(火)~20日(日)、土浦市大和町1-1 アルカス土浦1階 土浦市民ギャラリーで開催。入場無料。若田部さんのホームぺージはこちら。NEWSつくばのコラムはこちら。