日本発の印刷技術「リソグラフ」に特化した印刷所、えんすい舎(小林佑生店長)が4月、つくば市天久保にオープンして半年が経った。障害者の就労を支援する多機能型事業所、千年一日珈琲焙煎(コーヒーばいせん)所(大坪茂人代表)が運営する。近年、欧米ではリソグラフの生み出す独特の「味」が人気を呼んで、国内でも再評価されている。20日には、えんすい舎で地域住民を対象としたワークショップが予定されている。店長の小林佑生さん(39)は「リソグラフは人の手が入る部分が大きく、表現の幅広さが特徴。楽しさを皆さんに伝えたい」と参加を呼びかける。
欧米から「逆輸入」再評価される印刷技術
リソグラフは、家庭用の簡易印刷機「プリントゴッコ」を手掛けた理想化学工業(本社・東京)が1980年に開発した事務用印刷機で、国内では主に学校などで、それまでのガリ版印刷に置き換わり普及した。
画像を読み取り複製するコピー機やインクジェット印刷とは違い、データ化した図案を色ごとに分けて版を作り、一色ずつ色を重ねていくのが特徴だ。
小林さんによれば「版画のイメージ。色が多いと印刷時のズレやカスレも出る。それを目視で調整するのも面白い」そう。「使える用紙も幅広い。和紙など薄いものから厚紙など、他のプリンターでは使えない紙が使用できる。濃度と色の重なり具合、用紙との相性、この広い選択肢がリソグラフの奥深さ。ものを作る感覚がより強い」
日本で生まれた印刷技術を表現手段と捉えたのが欧米のアーティストたちだ。リソグラフによるアートブックや雑誌、音楽家のフライヤー(チラシ)など、その特性が広く活用されるようになる。日本でも2000年以降、各地に専門の印刷所ができはじめ、今年10月に東京都現代美術館で開かれた、国内外の芸術家や出版社による「TOKYO ART BOOK FAIR(東京アートブックフェア)」では特設コーナーが設けられるなど、その魅力が再評価されている。
障害の有無によらず楽しめる場所を
えんすい舎では、現在3人の障害者が、就労支援を活用し健常者と共に勤務しているなど、障害者の就労を支援している。運営する千年一日珈琲焙煎所は、天久保地区にあるコーヒー豆の焙煎所とカフェ、印刷所の3つの店舗で障害者を雇用し、「障害をもつ人たちが、街なかのお店であたりまえに働く風景」を作ることを目指している。
「障害の有無に関わらず、誰もが物作りを通じて同じ場所を共有し、楽しむことができれば」と小林さんは印刷所の目的を話す。開催されるワークショップも、多様な人との「場の共有」のためのアクションの一つ。これまでに開催した「絵しりとり」「新聞製作」では、幼稚園児から70代まで、地域に暮らす幅広い世代が楽しんだ。今回は、目をつぶった人が、周囲の参加者の声かけに従い一枚の絵を描く「ブラインドドローイング」に挑戦する。「スイカ割りの要領。みんなで一枚の絵を作りリソグラフで完成させる。後で作品集にしたいと思っています」

えんすい舎では、Tシャツなどの布に直接印刷できるシルクスクリーン印刷にも対応しており、リソグラフと共に店舗スタッフのサポートを得ながら、自分で印刷作業をすことができる。必要な道具とスペースが準備されている。
■ワークショップ「ブラインド・ドローイング」 20日(日)午後1時~6時、えんすい舎(つくば市天久保1丁目)。参加費は税込み1500円。6人程度の参加を予定(事前予約制)。イベントへの申し込みはメールで。詳細は公式インスタグラムへ。