原爆被害の証言を聞き取り、一枚の絵にする-。広島の高校生による、被爆者の記憶を継承する取り組みをもとにした舞台劇「あの夏の絵」(福山啓子作・演出)が12月16日、つくばカピオホール(つくば市竹園)で開かれる。これを前に、同作品を手がけた福山啓子さんによるトークイベントが30日、つくば市内のせせらぎクリニックで行われた。会場では、つくば市出身のギタリスト、稗田隼人さんによる演奏と福山さんとの対談も行われ、市内外から約30人が足を運んだ。
福山さんは2014年、原爆の被害を描いた絵に圧倒された。その絵は、広島市立基町高校創造表現コースの生徒たちによる作品だった。2007年から同校は、広島平和資料館による原爆の記憶を継承するプロジェクトに参加し、毎年、約9カ月にわたり被爆者と生徒が対話を繰り返しながら、被爆の記憶を一枚の絵にすることを続けている。福山さんは、この絵画作品との出会いがきっかけとなり、何度も広島へ足を運び「あの夏の絵」を完成させた。作品は2015年に初演されている。30日は、描かれた絵をスクリーンに投影しながら、生徒と被爆者のやりとりなど、作品の背景を福山さんが解説した。
広島で出会ったある生徒は、それまで蓋をしていた自分の記憶を掘り起こす被爆者の話に耳を傾けながら、亡くなった一人ひとりの人生を想像する過程で「描いていた遺体が人間になっていった」と福山さんに語った。「残酷さが足りない」と言われた生徒は、平和教育ではわからない、想像を絶することが起きていたことを知った。別の生徒は「かわいそうだから」という言葉を聞き、大八車に乗せられた遺体の絵に、当初はなかった布団を描き入れた。こうした行為を福山さんは「それぞれの思いが重なってできた作品。供養の意味もある」と説明する。取材を通じて「(生徒と被爆者が)一緒になって作る絵」だと実感した。
「若い人に見てもらいたい」中高生100人を招待
「あの夏の絵」には、広島で出会った高校生をモチーフとした3人が登場する。異なる立場で被爆者と向き合い絵を描くなかで成長していく若者の姿を描いた。福山さんは「高校生の皆さんにも、色々なことを感じてもらえるんじゃないかと思っている」と呼びかける。
主催するのは、つくば市内で活動する複数の市民団体による「『あの夏の絵』を観る会」。代表の穂積妙子さん(73)は、「亡くなる方も増えている中で、戦争体験の継承は難しくなっている。思いもかけない形で戦争が始まったこういう時期だからこそ、若い人に見てもらいたい。伝わることがあるはず」と話す。
若者への参加を呼びかける同会では、先着100人の中学・高校生を無料で招待するために、15万円を目標に寄付を募っている。目標金額を超えた場合は、招待枠の拡大も検討している。(柴田大輔)
◆舞台劇「あの夏の絵」 12月16日(金)午後7時からつくばカピオホール。チケットは一般3000円、大学生以下1500円。問い合わせ、申し込みは、つくば子ども劇場(電話029-852-9134、メール:298kodomogekijo@gmail.com)へ。