脱炭素社会に向け注目を集める熱電材料に、つくばの研究室生まれの技術が名乗りを上げている。GCEインスティチュート(本社・東京都中央区 、後藤博史社長)は3日、開発中の「合金ナノ粒子」の大量作製に成功と発表した。新エネルギー開発はじめ、電子部品や触媒などに活用をめざす企業への提供に本格的に乗り出す。
熱電材料は、熱から電気に直接エネルギーを変換する発電デバイス。熱電変換には温度差を利用するのが一般的だが、GCEが特許化した技術は、温熱源さえあれば(温度差を用意できなくとも)発電が可能という新しい原理のテクノロジーだ。
同社は2016年創業のつくば発ベンチャー。つくば研究支援センター(つくば市千現)の創業プラザに研究室を置いて、「合金ナノ粒子」の開発を進めてきた。ナノ(十億分の一)メートルサイズの粒子を熱電子の伝搬に利用する。
熱電材料から医療応用にも
研究室では、溶液に溶けた金属前駆体(金属塩)をレーザー照射により還元し、金属ナノ粒子を作製する。複数種類の金属前駆体が存在する場合に「合金ナノ粒子」となる。金、銀、銅、パラジウム、イリジウム、白金などの金属ナノ粒子が作られ、それらを混ぜ合わせた合金ナノ粒子が作製された。
GCEつくば研究所、中村貴宏主幹研究員(48)によれば、合金ナノ粒子は化学反応を用いず、「未修飾の、いわばすべすべの裸の状態で」作製されるという。企業など研究開発側が、後からさまざまな修飾を施しやすい素材となる。熱電材料以外にも、たとえば粒子に抗がん剤をくっつけて必要な部位に送り届けるドラッグデリバリーシステムなどへの利用も想定できる。「修飾」次第で水素貯蔵や様々な用途での活用が期待できるというわけだ。
このため、電子部品や触媒開発などにナノ粒子を求める企業は多方面に広がったが、作製プロセスの特殊性から大量生産が困難という課題があった。2021年4月時点では1時間あたり約1ミリグラム程度の生成効率しかなく、「修飾」を試したい企業の「耳かき一杯程度でいいから」とのニーズにも応えきれずにいた。
同社は今回、作製プロセスに改良を加え、合金ナノ粒子の生成量が1時間当たり約100ミリグラムとすることに成功した。21年4月に比べ100倍の量、耳かき一杯分(約100ミリグラム)に到達した格好だ。
同社では独自に「アンビエント発電」と呼ぶ熱電材料開発を進めており、加速させたい構え。発電所や工場での排熱や身の回りの環境熱を活用することで、燃料や電池が不要になるとしている。小型・薄型化、大面積化、積層化が原理的に可能といい、合金ナノ粒子を組み込んだ熱電素子も作っている。
これら未来技術を詰め込んで、10月19日から東京ビッグサイト南展示棟で開催の「産業交流展2022」に参加するつくば市のブースに出展の予定だ。(相澤冬樹)