【コラム・奥井登美子】「どんぐり山」は、2003年に霞ケ浦の水の浄化を願って、かすみがうら市の加茂に、皆で、どんぐりを蒔(ま)いた森である。1500本のクヌギ苗を植えたが、森林総合研究所の指導で、次の年には間引いて500本にした、
しかし、下草刈りが大変だった。東京の台東区の人達にも手伝ってもらって草刈りをした。ご近所の農家の人たちから、農薬を使うことを勧められたが、使わなかったのは、カブト虫など森の昆虫たちに期待したからである。農薬を使わなかったおかげで、いろいろな昆虫が発生し、2007年にはオオムラサキがクヌギの甘い汁を求めてやってくるようになった。
オオムラサキはエノキの木にタマゴを生み、4回も変身して冬を越し、かわいい角を掲げた幼虫が、その後2回も変身してチョウになる。昔は、エノキが一里塚として方々に残っていたらしいが、エノキの木も少なくなってしまった。エノキの木を、どこで、どう、ほかの木と区別してタマゴを生むのか、よくわからない。幼虫はエノキの葉だけを食べて大きくなる。
雄のチョウの、紫色のだんだら模様の色の美しさは、個性的で、芸術的。さすが、日本を象徴する国蝶(こくちょう)だと、納得する。
山の観察会では虫をムシしない
2008年から昆虫観察会が始まった。子供たちを集めてどんぐり山で昆虫を手でつかまえる。木にしがみつくカブトムシを、木からはがして、暴れる虫をゲットするときの、手の感覚と気持ちの高まりは味わった人しかわからない。パソコンやゲームで遊んでばかりの今の子供たちに、自然の虫と木の皮膚感覚を味わってほしいのだ。
観察会での私は救急の係。2~3日前に現地に行って、森の下見をしておく。マムシとヤマカガシはいるかいないか確認。マムシはそっとしておくと逃げてくれるけれど、ヤマカガシは個性的なヘビで、木の上にいたので突いたら、顔に飛びついてきたりする。
ハチも、子供たちが刺されたら困るので確認。さわらないように注意する。注意しているのに刺されてしまう子もいる。
山へ行く時に欠かせないのが冷たい滅菌水。私は日本薬局方の精製水を冷やして救急箱に入れておく。虫に刺されたら、すぐにジャブジャブ洗って、泥を流し、虫の刺口の液を、ぎゅうぎゅう洗ってしまう。そこに強ステロイドのクリーム、または液をすり込む。
軟こうは効くまで時間がかかるので、救急には向かない。1時間ぐらいたって、まだ赤くて腫れていたら、もう一度ステロイドを塗って、様子をみる。山の観察会には虫をムシしない救急係が必要なのだと思う。(随筆家、薬剤師)