木曜日, 5月 9, 2024
ホームコラム最高裁の裁判官は結局国の番人? 《邑から日本を見る》115

最高裁の裁判官は結局国の番人? 《邑から日本を見る》115

【コラム・先﨑千尋】東京電力福島第1原発事故で避難した住民らが、国に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は先月17日に「津波対策が講じられていても、事故が発生した可能性が相当ある」とし、国の賠償責任はないとする判断を示した。

この判決をテレビのニュースで聞き、新聞を読み、原告らの怒りと落胆、涙する姿を見て、最高裁の裁判官は国民の側に立つのではなく、国の番人なのではないか、と考え込んだ。

今回の判決は、福島、群馬、千葉、愛媛の各県で起こされ、福島、千葉、愛媛では高裁が国の責任を認め、群馬だけが国の責任を認めず、司法判断は割れていた。このため、最高裁が今回統一判断を示したもの。法務省によれば、今回の訴訟を含めて、国に対して賠償を求めたのは約30件あるという。

原発が立地する福島県からの避難者はピーク時には16万人を超え、この4月時点でも約3万人が避難生活を続けている。

判決の骨子は、「国が東電への規制権限を行使していれば、事故が起きなかったとは認められない。国が2002年に公表した地震予測の『長期評価』を前提とした津波対策を東電に命じても、津波の到来による大量の浸水は避けられなかった」など。今後の判決は、今回示された判例に沿って出されることになろう。

原発は典型的な「国策民営」の事業だ。国が方針を決め、民間企業の東電や関西電力などが発電所を持ち、運営する。福島の事故後に当時の東電の清水社長は「福島第1原発は、国に許可していただいている原発だ」と発言している。先日、北海道知床沖で観光船沈没事故を起こした知床観光の桂田社長も「許可していた国も悪い」と発言していた。それと同根か。

判決は、津波対策を講じていても事故は防げなかったとしている。そういう論理なら、東電にも責任がないということになるのではないか。一体、誰の責任だというのか。

国に忖度してこのような判決?

3・11の時、東海村にある日本原電東海第2発電所は、1週間前にポンプ周りの擁壁のかさ上げが終わり、重大事故にはならず、辛うじて助かった。防潮堤があっても津波の高さは想定を超え、事故は防げなかったという判断ではなく、東海第2でもわかるように、事故が発生しないような対策を講じることはできたはずだ。

私たち国民の生命や財産を守るために国は責任を果たしたと言えるのだろうか。判決は、どのような対策を講じれば事故を防げたのか何も示していない。

原発推進政策は、これまでも、そしてこれからも、国のエネルギー基本政策に位置づけられている。最高裁が原発国賠訴訟(福島原子力発電所事故に伴う国家賠償請求訴訟)で国の法的責任を認めれば、原発推進政策の見直しが求められる。今回の裁判官は、下級審の事実認定を踏まえず、先に結論ありきとした。

最高裁の人事は内閣が決める。今回の判決は、国策の誤りを認めず、被害を受けた住民の救済を考えず、国に忖度(そんたく)してこのような判決を下したとしか思えない。救いは、4人の裁判官のうちの1人の三浦守裁判官が、判決文で30ページに及ぶ反対意見を述べていることだ。(元瓜連町長)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

消費生活センターに関わって3年《ハチドリ暮らし》37

【コラム・山口京子】消費生活センターと関わるようになって3年近くたちます。ここは、消費生活全般についての問い合わせや苦情を扱う行政を支援する窓口です。消費者トラブルが起きた場合、事業者と消費者の情報や交渉力の格差を踏まえ、情報提供や交渉に当たって助言などを行います。 他にも、消費者教育、食品ロス削減、エコを意識した暮らし方など、消費者市民社会の構築に取り組んでいます。 消費者とは、生活のほぼ全般について、商品やサービスを購入する者というイメージでしょうか? 以前は「消費者」という言葉を意識することなく、そもそも商品を購入するとはどういうことかも、暮らしについても、しっかり考えたことがありませんでした。 しかし最近になって、「今の暮らし方、ライフスタイルを当たり前だととらえるのは危険かもしれない」と思うようになりました。今の便利な暮らしは、どういう仕組み・前提・条件で成り立っているのか? それらが変更されたり、機能しなくなったときにはどうなるのか? これからの変化は、どういったことが予想されそうか? … 心配性なので不安が募ります。 「根っこ」にある三つの依存症 そして、今の暮らしの「根っこ」には三つの依存症があると感じるようになりました。石油依存、お金依存、電化依存です。 石油に代表される化石燃料に依存して、簡単で便利な社会になったけれど、それらがもたらす副作用というか、外部不経済というか、環境汚染というか―生態系や人体にどう影響を及ぼすのでしょうか? 今はスイッチ一つで電気もガスも水道も至れり尽くせりですが、60年前はそうではありませんでした。自動車運転免許を取得してから、走行した距離と消費したガソリンと排出した二酸化炭素の量はどれくらいなのか? 車を1台作るのに、どのような資源とエネルギーと技術がいるのか? 思いを寄せたこともありませんでした。 これから晴耕雨読でいけたらと… 大半の消費者は働いてお金を得て、そのお金で商品を購入して、生活をやりくりします。実質賃金が下がっている状況で暮らしぶりが厳しくなり、投資やお金もうけの宣伝が目立ちます。経済の金融化が進行する中、製造業や農林水産業など、暮らしの足元を支える産業が危なくなっているのは、大きな問題だと思うのですが…。 暮らしを便利にする電気の力はすごいと感嘆するばかりです。道具が電気やコンピューターとつながって、自動の仕組みがハイスピードで広がり続けています。インターネットがない暮らしは想像できなくなっています。電化とテクノロジーの進化は何にをもたらすのでしょう。 自分のこれからの暮らしは、晴耕雨読でいけたらと願うのですが…。(消費生活アドバイザー)

円安・ドル高と日本銀行《雑記録》59

【コラム・瀧田薫】ここ1年、 極端な円安が続いている。4月29日、ドル・円相場は1ドル=158円をつけた。2023年4月ごろには130円だったから、1年間で30円近い円安・ドル高になったことになる。 この円安、アベノミクスによる円安誘導(日銀による異次元金融緩和)がもたらした結果であることは明らかで、円安自体について驚きはない。ただ世界銀行算定の購買力平価ベースのレートでは、1米ドルはおよそ100円だから、それと比べれば5割以上の行き過ぎた円安であり、国民生活の観点からすれば、到底容認できるものではない。 ところで、日銀はこの3月、黒田元総裁の後を継いだ植田新総裁がマイナス金利政策から離脱し、安倍元首相と黒田氏が主導してきた異次元金融緩和政策に終止符を打った。実に11年ぶりのことである。 ところが、4月26日、この大きな政策変更に付箋が付く。植田氏は記者会見で「足元の円安進行が物価上昇率に大きな影響は与えていない」と言い、「将来無視できない影響が出れば政策判断の材料とする」とした。つまり、異次元金融緩和策からの離脱に際し、急ハンドルは切らない、あるいは切れないという宣言である。 これは事実上、緩和的な金融環境を当面持続するということになるから、投機筋がこれをチャンスとみることは必定である。だが、植田氏はあえてこのリスクを受け入れた。円安是正のためには利上げが必要なことは分かっていても、利上げできない理由がある。 積極的な情報発信を期待 利上げが住宅ローンにどう跳ね返るか、また、長期金利の上昇を抑えるために購入してきた大量の国債にどう影響するか、予断を許さない。つまり、黒田元総裁から受け継いだ負の遺産から離脱する際に伴う、副作用への警戒を優先してのことである。そうなると、円安対策としては為替介入ぐらいしかなくなることになる。 もちろん、為替介入の効果が続くのはごく短期間でしかないし、異常な円安を是正する抜本的な対策からはほど遠いが、投機筋に対して何もしないわけにもいかないということだろう。 とにかく、異次元金融緩和の後始末だけでも大変なのに、超低金利に慣れ切った政府与党は裏金問題で迷走し、首相はほとんどレームダック化している。そんな状況下、植田新総裁には貧乏くじを引いたと後悔している表情はないし愚痴もない。現実を見据え、出来ること、出来ないことをはっきり区別するリアリズムに徹する、芯の強い人物なのだろう。 植田新総裁の就任によって、漂流を続けてきた日銀そして日本経済の先行きにようやく指針めいたものが設定されつつある。今後の日銀には、市場との丁寧な対話や日銀の外から寄せられる提言に対応した積極的な情報発信を期待したい。 それにしても、「異次元緩和の教訓は、金融政策だけで経済を復活させることは難しいという事実だ」という日本経済新聞の社説(3月9日付)が掲載されるまでに、10年以上の年月が必要だったことになる。(茨城キリスト教大学名誉教授)

常総学院が2連覇 春季高校野球県大会

第76回春季関東地区高校野球県大会は6日、土浦市川口のJ:COMスタジアム土浦で決勝戦が行われ、常総学院が2年連続の優勝を果たした。決勝の相手は昨年の秋季大会と同じ鹿島学園。常総学院は投手4人の継投により相手の追撃をかわし逃げ切った。両校は18日から群馬県で開催される関東大会に出場する。 第76回春季関東地区高校野球茨城県大会 決勝(6日、J:COMスタジアム土浦)常総 102010000 4鹿島 100000200 3 常総は初回、3番・池田翔吾の中前打と、4番・武田勇哉の左翼線二塁打で1点を先制。その裏に同点とされるが、2回に8番・杉山陽大の左翼線二塁打と1番・丸山隼人のセーフティスクイズで2点を勝ち越した。4回には丸山がバントヒットで出塁後、牽制悪送球で二進し、三盗を仕掛けたところで相手投手が暴投。労せず1点を追加した。 「小技をからめて相手にダメージを与えるという、自分たちの目指す野球ができた。特に1回2死から得点できたことは大きい」と島田直也監督。勝ち越しの殊勲打を放った杉山は「相手の左投手のインコースへの直球を狙っていた。なかなか来なかったが追い込まれてもファールで粘り、来た球を一発で仕留めることができた」と振り返った。 投手陣は先発の平隼磨が2回1/3を投げて4安打1失点、3回に死球2つを出して満塁となったところで降板。「追い込んでからの投球ができなかった。自分の力を出しきれず悔しい」と反省の弁。その後は2番手の鍛冶壮志が6回までを3安打無失点で抑えた。「ピンチの場面でしっかりコースに投げきることができた。自分はストライク率の高さが武器。ただし4、5回は厳しくいこうとして狙いすぎ、球が荒れてしまった」と鍛冶の振り返り。 7回は3番手の大川慧が投げて3安打2失点。8、9回は小林芯汰が無安打で締めた。「5回以降は相手の粘りの野球が厳しかったが、しっかり守りきることができた。小林の投球は想定通りだったが、それに続く投手の活躍を求めている。夏に向けて調整したい」と島田監督。 関東大会で常総は19日の初戦、千葉県2位の中央学院と対戦する。「相手は選抜大会でベスト4に勝ち進んだ実力あるチーム。だが自分たちだってちょっとの間に成長を続けている。良い相手に思い切りぶつかって、しっかりと勝ちに行く」と若林佑真主将は意気込む。(池田充雄)   

ロボッツ来季もB1で 今季最終戦を終える

男子プロバスケットボールBリーグ1部(B1)の茨城ロボッツは4日と5日、水戸市緑町のアダストリアみとアリーナで宇都宮ブレックスと対戦、4日は59-100、5日は64-88で連敗を喫した。茨城の最終成績は12勝48敗で東地区8位。B2降格をまぬがれ、来季もB1で戦うことが決まった。 2023-24 B1リーグ戦(5月5日、アダストリアみとアリーナ)茨城ロボッツ 64-88 宇都宮ブレックス茨 城|21|11|13|19|=64宇都宮|17|26|21|24|=88 「今季最後のホームゲームであり、選手のためにもブースターの皆さんのためにも、どうしても勝ちたい試合だった。だが宇都宮は本当に素晴らしいチームで、思うような結果を出すことはできなかった」と、茨城のリチャード・グレスマンヘッドコーチ(HC)。 昨日の大敗を受け、この日はアウトサイドで勝負をかけた。「相手は中へ収縮する守備をしてくる。そこで今日は積極的に3点シュートを打っていこうと考えた。守備のときも、相手にとにかく3点シュートを打たせることがわれわれのポイントだった」とグレスマンHC。試合の立ち上がりはこれがうまくいった。相手が3本のシュートを外す間に、茨城はルーク・メイが2本、中村功平が1本の3点シュートを決め、9-0の大差を付けてゲームをスタートさせることができた。 だが驚くべきは宇都宮の修正力だった。その後は3点シュートを精度よく決められ、第2クオーター半ばに逆転。逆に茨城は、思うように得点が伸びなくなる。「宇都宮はヘルプの寄りが速いので、寄ったところでキックアウトして、外のノーマークの選手がシュートを打つという作戦だった。だが相手の速くて洗練された守備に、ノーマークにさせてもらえなかった」と中村功平はいう。 前半は両チームともハーフコートで、じっくりとパスを回す攻撃が多く、後半は状況を打開するべく、茨城が乱戦を仕掛けた。だがこれは宇都宮の思うつぼだった。ビッグラインナップではインサイドをしっかりと固め、スモールラインナップでは鋭いドライブで得点を重ねる相手に、ますます茨城は身動きがとれなくなっていった。 こうして連敗で今季を終えた茨城だが、他地区のチームがさらに成績下位だったため(信州ブレイブウォリアーズ=10勝50敗、富山グラウジーズ=4勝56敗)、B2降格は免れることができた。 「昨年12月に私がHCとして復帰したときチームは2勝28敗で、いつあきらめてしまっても仕方のないような状況だった。それでも選手たちが本当に頑張って、B1継続という目標を成し遂げることができた。二度とこのようなシーズンを送らないためにも、ここから多くのことを学び、ロボッツのスタンダードを上げる必要があると思う」とグレスマンHC。 Bプレミアの要件達成見込み この日の入場者数は5055人で、立見席まで人が鈴なりとなった。この結果、今季のホームゲーム平均入場者数は4619人を達成。2026年から始まる新リーグ「B.LEAGUE PREMIER(Bプレミア)」参入要件の一つ、平均入場者数4000人以上を、大きく上回ることができた。 残る2つの要件は、売上高12億円以上と、ホームアリーナ基準の充足。このうち売上高については、詳細は6月の今季決算を待つことになるが、ほぼ達成されそうな見込みという。施設基準についても、アリーナ改修予算が水戸市議会で議決されたため一定の目処がついた。このため早ければ今年12月のBリーグ理事会で、Bプレミア参入が決定する可能性がある。 西村大介代表は「皆さんにはご心配をおかけしたが、最後は無事B1継続を達成することができ、胸を撫で下ろすシーズンとなった。来季はロボッツ10周年という節目の年でもあり、あと2年で始まるBプレミアを見据え、更なる進化をするシーズンにしなくてはならない」と話している。(池田充雄)