【コラム・坂本栄】市委託事業の事業者公募で新参者が選ばれ、これまで従事していた古参者が外された。ところがこの事業の利用者たちが、慣れ親しんだ事業者でないと困ると、市に抗議。困った市は予算を倍増し、古参者に事業を継続させながら、新参者にも類似の事業を開始させた。市は「三方良し」で問題を処理。利用者も古参者も新参者も皆ハッピー!
2~3カ月前、つくば市でこんなことが起きました。一見「善政」に思えるかもしれませんが、このおかしな決着に強い違和感を覚えています。詳しい経緯は「運営事業者の継続を求め陳情 不登校の学習支援拠点…保護者会」(1月20日掲載)、「新年度も運営事業者継続へ…つくば市が追加提案」(3月3日掲載)をご覧ください。
揺らぐ「調達の仕組み」への信頼
違和感その1は、提案型公募の選定結果を市が自ら覆したことです。事業委託者に新参者を選んだのは、古参者よりもサービスが優れていると判定したはずなのに、新参者を不安に思う利用者に対し、そのサービス内容を説明したのでしょうか? 新参者のサービスが提案内容よりも劣る場合は、新参者との契約を解除して委託先を古参者に戻すから、心配しないで大丈夫ですよ、と説得したのでしょうか?
事業提案型にしても価格入札型にしても、モノやサービスの調達(プロキュアメント)は公的機関にとって大事な仕事です。選定作業が正しく行われたとしての話ですが、それに落ちた事業者が簡単に復活するようでは、調達の仕組みに対する信頼が揺らぎます。
違和感その2は、正式に選ばれた新参者からの反発を恐れたのか、ほぼ同額の予算を付けて、新参者にも類似の事業を委託したことです。その結果、市がこの事業に支出する予算は当初予定のほぼ倍になりました。それが2千万円強でも「アリの一穴」となり、「善政」は安易な財政運営につながります。
違和感その3は、市の正式決定であっても、受益者が強く文句を言えば、「善政」が期待できるという前例が出来たことです。これにより、正式な手順はあくまでも仮のものという印象を多くの市民は持つでしょう。事業者も公式な手順を軽視するようになり、市政の混乱は避けられません。
「3方良し」でなく「3方悪し」
調達制度への信頼低下。場当たり的な予算付け。手順軽視の行政迷走。つくば市の「善政」は、よく考えると「悪政」と言えるでしょう。新参者・古参者・利用者への「3方良し」は、調達制度・財政措置・行政手順に対する信頼を損なう「3方悪し」ではないでしょうか。
以上は、選定が正しかったことを前提にした議論です。選定がいい加減なものだったとすれば、利用者が文句を言うのは当然です。新年度に入りましたので、利用者は新参者と古参者のサービスを比べてみてください。新参者のサービスが古参者より劣るようでしたら、誤った判断をした市担当部局の責任が問われます。(経済ジャーナリスト)