【コラム・坂本栄】つくば市長の五十嵐さんが、期間を限って発行されたミニ無料新聞に市長としての名誉を傷付けられたと、その発行人を名誉毀損(きそん)で裁判所に訴えました。1期目の市政を批判されて面白くなかったのでしょうが、五十嵐さんには、関連する記事に対し自分の後援会紙などで反論する機会があったのに、言論に対し言論で対抗しないで司法の場に持ち込むとは…と、思わず笑いました。

言論による名誉毀損には言論で対抗すべき

五十嵐さんの訴えは、昨秋の市長選挙の前(6月~8月)、ミニ新聞の記事(計3号中の22箇所)によって、市長としての評価を傷付けられたから、その損害(130万円)を賠償せよという内容です。訴えられたのは、元つくば市議で「つくば市民の声新聞」発行人の亀山大二郎さん。提訴の概要や亀山さんのコメントは、本サイトの記事(2月17日掲載)をご覧ください。

この無料紙第1号については、本コラム「紙爆弾戦開始 つくば市長選」(昨年7月20日掲載)でも取り上げ、「五十嵐市長の2大失政(運動公園問題の後処理の不手際、つくば駅前ビル再生計画の失敗)などのリポートを掲載、現市長にマイナス点を付けました」と紹介しました。「権力の監視」を編集方針の柱の一つに掲げる本サイトとしても、シンパシー(共感)を覚えたからです。

提訴の話が耳に入ったとき、知り合いの弁護士に名誉毀損のポイントを解説してもらいました。彼によると、「言論による名誉毀損にはまず言論で対抗すべき」という法理論があるそうです。これには「相手に対し対等で反論が可能であれば」との前提が付くそうですが、五十嵐さんは、後援会紙、SNS、記者説明などで反論できたわけですから、発信力は対等どころか、ミニ新聞よりも優位にありました。

そこで、五十嵐さん後援会紙「Activity Report」7~10月発行分(計4号)をチェックしたところ、内容は市長1期目の自慢話ばかりで、「つくば市民の声新聞」への反論は見当たりませんでした。選挙運動中は反論せず、選挙が終わってから裁判所に駆け込むとは、市長=政治家らしくない行動です。

公約は「返還」でなく「返還交渉」だった?

名誉を毀損されたという記事は、先に引用した2大失政のほか、五十嵐市政下で市職員が増え人件費が拡大している(行政改革が不十分)、県からもらえるはずの補助金なしで給食センターを建てた(市が全部負担)、地元業者優先の不自然な発注が目立つ(入札制度への疑問)―などの内容で、とても勉強になりました。

訴状を読むと、五十嵐さんは記事の表現を問題にしています。例えば運動公園問題については、ミニ新聞の記事では用地をURに返還すると公約したと書いているが、公約したのは「返還」でなく「返還交渉」だった、と。交渉がうまくいかなかったから返還できなかった、でも交渉はしたのだから公約は守った、だから記事は間違いであり名誉毀損に当たる―といった論理構成です。この理屈も笑えます。

逆に、笑って済まされない箇所もあります。「歪(ゆが)んだ情報により一旦結果(選挙結果)が生じれば、一時的とは言え地方自治体の体制を混乱に陥れることになりかねない重大な結果を招く…」とのくだりです。こういった表現の自由を封じるような論述は、どこかの非民主国の言論規制を想起させます。(経済ジャーナリスト)