【コラム・坂本栄】車のトランクを整理していたら、段ボール箱の奥から「いがらし立青 つくば市長選 出馬表明 記者発表資料」(2016年8月2日)が出てきました。A4判1枚の発表文では、筆頭公約に「運動公園問題の完全解決」を掲げ、具体的には「予定地は就任後直ちにURと返還交渉を行う」「陸上競技場は適切な場所・規模・方法で確保する」と書かれていました。

今回のコラムでは、五十嵐さんの看板公約ともいえる、この運動公園問題を検証します。具体的公約「陸上競技場…確保」については、本サイトの記事「陸上競技場基本構想会議が初会合」(7月31日掲載)をご覧ください。青字部をクリックすると、問題の経緯・現状・予定がレポートされています。

記事によると、基本構想会議が7月末に開かれ、11月上旬開く予定の会議で、陸上競技場の場所や規模などを詰めることになったそうです。これには、五十嵐さんはこの4年間一体何をやっていたのか、11月上旬って市長選(10月25日)が終わってからではないかと、思わず笑ってしまいました。

といって、何もしなかったわけではありません。廃校になった高校の跡地に、中学生の公式競技ができるレベルの陸上競技場を造る案はありました。しかし、立地、規模、規格などで構想会議の支持は得られず、市はこの案について「一つの事例研究」と弁解したそうです。4年も経つのに、どこにどんな競技場を造るのか、何も決まっていないということです。

「運動公園問題の完全解決」は完全未解決

具体的公約「予定地…返還交渉」については、市長就任後に無理であることが分かりました。市とUR(都市整備機構)の契約書には、既契約に瑕疵(かし)がなければ過去に遡(さかのぼ)って契約を変えることはできないと、記されていたのです。

それなのに、出馬の際には「就任後直ちにURと返還交渉を行う」と宣言していました。「1丁目1番地」の公約に掲げながら、再交渉が可能かどうか、市の担当課に聞くとか、情報公開を求めるといった基本動作をしなかったようです。結果、「予定地…返還交渉」は実現可能性ほぼゼロの公約になり、先の市長選を大きく歪めました。

具体的公約「陸上競技場…確保」にちょっと戻ります。市議の多くは、市が民間に売却しようとしている運動公園予定地に、陸上競技場を持ってきたらどうかと提案しています。この案は五十嵐さんの具体的公約「予定地…返還交渉」と矛盾しますから、市長への忖度(そんたく)も生み、構想会議の議論はかなり歪んだものになるでしょう。

これまでの検証で、五十嵐さんの看板公約「運動公園問題の完全解決」が完全未解決であることが明らかになりました。また、調査不足の公約で市長選が歪められたこと、さらに、陸上競技場検討作業が歪められるであろうことも明らかになりました。これら選挙と行政プロセス(流れ)での歪みは、市政に対する信頼を損ないます。目玉公約は実行されなかっただけでなく、重い後遺症も残したわけです。(経済ジャーナリスト)