文化的基盤が厚いまち土浦
―歩いて1~2分のところに、3つの本を扱う店・施設が集まっています。そこは駅ビル内とその近隣ということもあり、市内の高校に通う学生がたくさん行き来します。土浦は昔の県南の中心で、知的好奇心が高い方が住んでいる。こういった好環境で本を扱うわけですが、それぞれの立ち位置から3者コラボのアイデアを出してください。
入沢 土浦は古いまちで文化的基盤が厚く、文化人がたくさん出ているまちで、市民もそれを誇りに思っています。本を通じてみんなをつなぎたい。若い子は勢いのある近隣の市に目をとられ、土浦は古くて衰退していると思ってしまいますが、土浦は文化基盤があることに誇りを持ってほしい。
古書店 いまは「本の骨董店」
―この座談会を機に、本の3業態の「回廊」のイメージをつくりたい。どうつながり、どうつなげるか、意見を聞かせてください。
佐々木 入沢さんのお話のように、土浦には地元の作家がかなりいらっしゃる。高田保(1895~1952、随筆『ブラリひょうたん』など)とか。うちは、そういった人の手紙とか直筆とか短冊とかを集めています。6月に開催した「第15回古本まつり」で、長塚節(1879~1915、常総市出身、小説『土』など)の手紙などを集め、カタログにしてお客さんに送ったところ、長塚節関係の本をごっそり買った方もいました。私の仕事はそういうことなのですが、それを知っていただく方法が意外とないんです。
―つちうら古書倶楽部は、古本屋というよりも骨董屋のイメージですね。
佐々木 本の骨董品屋です。直筆の書簡とか、戦前の子どもの本や古地図とか、そういうものを集めてカタログをつくり、何十年も温めてきた全国の約2000件のお客さんに送っています。
―こういう古本屋さんの取り組みは、天狼院さんの営業とは対立しないですね。
三浦 対立しないし、コラボできるところです。いま私は大学で教えていて、大学の先生とコラボして論文ゼミをやっていますが、「役に立たなくていいからテーマを見つけて調べよう」というゼミもあります。まずは古書店のカタログを見て、論文の題材を探そうということをやってもいい。
駅ビル・アトレに泊まり論文書き
―学生のゼミの教材としては、古書店は宝の山ですね。
三浦 古書店には作家の手紙とか一次資料もある。それを使った論文の書き方は体験型の「論文ゼミ」で教えます。土浦は東京から近いので、大学の先生に来てもらえますから。もう一つ、天狼院には「小説家養成ゼミ」もあるので、小説の題材を探しに古書店に行きましょうということもやれる。この間、うちのゼミから松本清張賞が出たんです。
大きな古本屋さん、図書館が近くにあるのはメリットで、もう東京から学生と先生に来てもらうしかないですね。僕らは「旅部」という旅行ゼミもやっています。全国から学生を集めて熱海とかに行くんですが、それを土浦にも持ってこようと思っています。
駅ビル「プレイアトレ」に来年オープンするホテルに彼らを缶詰にして、一次資料を調べて論文をつくるとか。僕らはどこでも缶詰になって、集中して書くことをやっているんです。市立図書館の閉架図書を使って調べることもできます。
缶詰をやってリフレッシュしたいと思ったら、自転車で霞ケ浦を回っていけばいいんじゃないですか。戦国武将の気持ちになりたいときは城跡とか行ってもいい。(笑)

入沢 アトレはサイクリストの拠点ですが、天狼院さんが入られて、そのあたりに特化していくことは考えているんですか。アトレが企画する「散走」ツアーがあって、いろいろなところに行っていますが。
三浦 これまで文科系中心で体を使うことをやっていなかったので、そろそろやりたいと思っています。カメラを携えて行くみたいなこともやりたいですね。何でもやります。手間がかかってもやります。
土浦市内10高校の「学祭」も応援
―天狼院さんが「土浦という素材」を掘り起こすことに期待しています。
三浦 出店するということはそのまちに学ぶところが多い。京都とか福岡とかもそうですが、何年もかけて学んで、ようやくフィットしていくみたいなところがあります。
―ゼミなどの企画で、土浦に学生を連れてくるのはいつごろになりますか。
三浦 土浦店の第2形態は秋を見込んでいるので、そのあたりから見えてくると思います。スタッフもどんどん入ってきているので、秋になるんじゃないかと思います。例えば「ライティングゼミ」ですが、毎週、2000字の記事を提出するという課題があります。そこでの問題はネタ切れになることですが、土浦でゼミを開けば、図書館でも古書店でも宝さがしができる。ネタだらけじゃないですか。
―新刊本屋さんというより、知的な企画をどんどん持ち込むんですね。
三浦 あとは、9000人の高校生がいること、高校が10校あることですよね。工業高校も進学校もあるということは、ここは日本の高校の縮図ですよね。東京に近い地方都市でもある。ここの高校生を活字中毒にできれば、日本全体を活字中毒にできる可能性があるということですね。(笑)
入沢 土浦の特徴は高校生が多いことなので、去年から10校の高校生を集めて「学祭(がくさい)」という催しを駅前でやっているんです。今年は8月3日に開き、各学校自慢の部活披露や、学校案内の展示や相談、美術作品展示などを行います。ビブリオバトルも盛んで、去年も学校対抗で盛り上がりました。
周辺自治体の親子さんも来て、土浦はいいところねとか、土浦の学校に行かせようとか、そういう効果が生まれる。OBやOGもやって来て、後輩を応援しようとか。初回の去年は2000人ぐらい集まりましたが、今年は2万人を目指しています。
三浦 学祭なら僕らもいろいろ応援できますよ。学祭のパンフや雑誌をつくるために、写真や文章から、デザイン・レイアウトまで。高校生用の講座もできます。僕ら、全国を回る「コンテンツサーカス団」だと思っていて、コンテンツをショーにしているんです。(つづく)
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