火曜日, 12月 16, 2025
ホーム土浦【土浦駅前「本屋」座談会】㊤ 駅ビルと近隣で進む「本のまち」づくり

【土浦駅前「本屋」座談会】㊤ 駅ビルと近隣で進む「本のまち」づくり

土浦駅ビル・プレイアトレ土浦に5月末、体験型書店「天狼院書店」が出店し、県内一の規模の市立図書館、関東一の売り場面積がある古書店と、次世代の書店といわれる新刊書店が土浦駅前に集まった。本離れや書店の撤退がいわれる中、過去から未来までを見通せる「3つの知の発信拠点」が駅前に集まったことは注目される。土浦市は、人口減少や少子高齢化問題を抱える地方都市だ。本を扱う3業態が連携して土浦で何ができるかを、市立図書館の入沢弘子館長、つちうら古書倶楽部の佐々木嘉弘代表、天狼院書店の三浦崇典店主が語り合った。司会はNEWSつくば理事長の坂本栄。

図書館はまちづくりにも貢献

駅前に図書館と古書店と新刊書店ができました。同じ本を扱っていてもそれぞれ業態が違うので、横のつながりをつくり、(みんながうまくいく)ウィンウィンの関係ができないいかと思い、この座談会を企画しました。まず、お三方に自分のところの売り、これが自慢だということを話していただき、そのあと、3者でどういったコラボが考えられるか、アイデアを出してください。私はアマゾンの電子本と宅配を多用しているので、現物の本を扱う書店や図書館が、ネット書籍や本のネット注文をどう見ているのかにも、関心があります。その辺もうかがいたいと思います。最初に、それぞれの業態の特徴を教えてください。

入沢 土浦市立図書館は県内で3番目に古く、今年で創立95周年になります。延床面積は県立図書館を抜いて茨城県内で一番大きく、5120平方メートル。開館して1年7カ月ですが、これまでに91万人の方にお越しいただきました。この数は図書館業界の中ではかなり早いようで、来館者の多さで評価をいただいています。

全国的に見ても、図書館が古くなり建て替えを検討している自治体が多く、加えて地方都市の駅前が衰退しているという、共通の課題があります。それを解決するために、図書館でまちを活性化できないかと、駅前に図書館を移す自治体が多くなっています。土浦の図書館も、本来の公立図書館としての機能のほか、まちづくりに貢献するという使命が与えられています。私たちはいろいろな取り組みを考えながら、この両輪で図書館を運営しています。

古書倶楽部の購入と販売は10対1

続いて、つちうら古書倶楽部の佐々木さん、お店の特徴をお願いします。

佐々木 うちが普通の書店と違うところは、お客さんの蔵書の買い取りが大きい比重を占めていることです。バブル経済期は古本屋があちこちにあり、土浦にも5~6店ありましたが、ほとんどつぶれてしまいました。私のところのお客さんは、茨城県南のほか、東京や神奈川からも来ますが、本を整理したいという方が多いです。つまり、古本の買い取りが中心で、店で買ってくれるお客さんはガタ減りしています。

アマゾンなどの本の通販や、ネットに載らない戦前の本、特に江戸とか明治時代の古い本とかを扱うことで対抗しています。

買い取る古本と販売する古本は、どういった比率ですか。

佐々木 圧倒的に仕入れが多いですね。だいたい10対1です。古本屋の組合があって、買い取った本のうち、土浦で不用なものは東京の交換会に出します。茨城の場合は水戸にありますが、各都道府県にも古本市場があり、毎月交換会が開かれます。

うちの場合、34年前に自宅で古書店を始め、それから駅前のイトーヨーカドー土浦店(2013年閉店)の中を借りて5年やりました。ヨーカドーが撤退するとき、本をどこに移そうか悩んでいたら、顔見知りのビルオーナーから「うちに入ってください」と言われ、東京、神奈川、福島の古本屋仲間約20人に声を掛け、今の店を立ち上げました。駅前のここ「パティオビル」に移って7年目になります。

土浦の天狼院はオーソドックスな店

続いて、天狼院の三浦さんです。本業界では実物本の販売が落ちているのに、どうして新刊店を出す決断をしたのですか。

三浦 私のところは、池袋で2013年9月にオープンしたのが1店目。その時に掲げたのが「リーディングライフの提供」です。本だけでなく、その先の体験も提供する、次世代型書店をつくろうと立ち上げました。東京、京都、福岡の店はセレクトショップの形をしています。つまり(ジャンルを絞り込んだ)セレクトした本を置く店のことですが、僕はもともとそういう書店はやりたくなかった。時代に逆行していると言われますが、5月末に開いた土浦店のようなオーソドックスな書店をやりたかった。

ということは、土浦店は昔風の本屋ということですか。

三浦 オーソドックスです。60坪の店に、売れ筋の新刊、コミック、参考書、雑誌、文芸書、文庫、新書、実用書、児童書の売り場があります。もちろん、体験を提供するのは得意なので、記事の書き方を教える「ライティングゼミ」とか、写真の撮り方を教える「フォト部」などの企画も持ってきてはいますが…。

でも土浦でやりたかったのは、一般の新刊書店です。お金もかかるし、もうかりませんが、やるからには勝算はあります。目指しているのは、寿命100年時代に、そのまちの知を担う書店であること。もうけるのではなく、存続させること。これが土浦店のコンセプトです。

―参考までに、ほかの天狼院の店の形を具体的に教えてください。

三浦 京都祇園の店は町家を改装した40坪で、坪庭もあります。普段着姿の舞妓さんも来ます。外国人のお客さんも多く、売り上げの半分が外国人客で占めています。併設のカフェも人気です。本はセレクトしており、源氏物語の英訳版などインバウンド向けが売れています。スタッフには本好きを投入していて、京大の文学部出身者や本を書いている人もいます。

福岡の店は自習室カフェ、「いつまでいてもいい書店」です。クリエイターや勉強する人が1日中いて、カレーとか豚汁も売っています。

池袋は4店が散らばっているのですが、(書店ではない)カメラ技術を習得するスタジオや、ビジネス書専門の店もある。池袋は様々な発信基地、放送局みたいなイメージがあります。本店の東京天狼院は、部室のようなたまり場になっています。

その地のニーズに応え、その地その地で店の形が違うということですか。

三浦 すべてカスタムメードです。最初に掲げたコンセプトには「リーディングライフの提供」だけでなく、「iPS細胞のように自在に進化する」というのもあります。お客さんの欲望によって形が変わっていくということです。今の時代、どこに行っても同じというのは無理です。土浦は高校生が多いということなので、これに合わせて変化させていきます。現在は第1形態です。ゴジラみたいに第5形態までいきます(笑)。

高校生を活字中毒にしてしまおう

入沢 土浦は高校が多く、特別支援学校を入れると10校あります。昼間、土浦に来ている高校生は9000人ぐらいいる。駅前に図書館が新築移転して大きく変わったのは、高校生の利用カード(登録者)が旧館時代の82倍になったことです。図書館で勉強するだけでなく、移転前に比べると、6倍近く本を借りるようになりました。

三浦 ということは、僕らのミッションとしては、今の段階で「高校生を活字中毒にしてしまえばいい」ということですよね。(笑)

土浦店は高校生を念頭にカスタマイズした方がよさそうですね。

三浦 そうなると思います。土浦一高をはじめとして勉強熱心な高校生が多いと聞いています。難関大学専門の参考書も入れてほしいとご要望をいただき、なるほどと思いました。土浦店ではここを伸ばせばいい、ここを削ればいいというのが見えてきました。あらゆる方向に伸ばせる可能性がある。今は夢想段階です。

時代逆行と言われるかもしれませんが、土浦では本の配達も始めようかと思っています。今はネットで買うと言われていますが、自分の父親はネットを使わないとか、スマホを使わずガラ携でいいという世代が結構いますから。(つづく)

▶入沢弘子(いりさわ・ひろこ)=土浦市立図書館館長兼土浦市民ギャラリー副館長、土浦市広報マネジャー併任。1962年生まれ。

▶佐々木嘉弘(ささき・よしひろ)=つちうら古書倶楽部代表。茨城県古書籍商組合組合長。1954年生まれ。

▶三浦崇典(みうら・たかのり)=天狼院書店店主。ライター、編集者、劇団主宰、映画監督、大学講師。1977年生まれ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

自然と等身大で向き合う遊び仕事(4)《デザインを考える》27

【コラム・三橋俊雄】今回取り上げる「遊び仕事」は、京都府宮津市由良地区に伝わる「にごりすくい」と「手長エビ漁」についてです。 にごりすくい 由良川は、大雨で濁ると水中の酸素が不足し、魚たちはふらついて川のよどみに集まります。そこを「タモ」と呼ばれる大きな網で上流から下流へすくい、ぐるりと岸へ寄せて捕える漁法があります。アユもコイもウナギも一度に捕れるため、「これほど面白い漁はない」と評されたものです。 昭和30〜40年頃までは広く行われていましたが、現在では大雨時の危険性から禁止されている地域もあります。タモは、杉の枝を巧みに曲げ、直径数ミリのしなやかな枝先を両側から重ね合わせて糸で縛り、輪を作ったものです(図1)。柄の長さは約4メートル。網の部分には絹糸が用いられ、女性たちが編み上げ、毎年柿渋に浸して干すことで補強していたとのこと。 手長エビ漁 網を使った漁法では、サナギや身欠きニシンを餌に糸でつり下げ、手長エビをおびき出します。エビが姿を現したところを、直径20センチほどの細長い小さな網で捕えます。エビは驚くと後方へ逃げようとするため、その習性を利用し、背後からそっと網を差し入れて捕えます。 一方、「モンドリ」を用いた漁は、由良川で6月から12月にかけて行われます。モンドリにサナギを入れて円錐形のふたをし、10カ所ほどに沈めて紐(ひも)の一端を川辺の石に結び固定します(図2)。2日ほどたったら、Y字型の枝先にひっかけて仕掛けを引き上げます。一つのモンドリに7〜8尾、合わせて80尾ほど捕れることもあります。 捕れた手長エビは高級食材ですが、売るのではなく、天ぷらにして家族や友人に振る舞われます。私も学生たちとともに、何度もその味を楽しませていただきました。 地域の伝統的生活文化を継承 これこそが「遊び仕事」の世界です。自然に分け入り、プリミティブな道具を用いて相手と同じ土俵で獲物を追う。これまでの体験で培ったスキルを駆使し、身体感覚を総動員して得られた成果は、自らの喜びとなるだけでなく、仲間内での誇りや自慢にもつながります。さらに、その成果をお裾分けすることによって、また新たな喜びが生まれていきます。 すなわち、「遊び仕事」とは、①人間行動の本質である「遊び」を通じて、自らが自然との関係を結ぶ第一歩であり、②自然と人間が等身大で向き合える貴重な共生の場でもあります。さらに、③「遊び仕事」を通じて身近な自然や生活文化の豊かさを再認識することができ、地域の伝統的生活文化の継承・保全、そして地域の活性化にもつながります。 翻って、今日の私たちは情報化やバーチャル社会のただ中にあります。だからこそ、「遊び仕事」の経験は、④自然との「生身の」付き合い方を体験できる、大切な学びの場ともなるのはないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)

「支える人が守られる環境を」児童相談所元職員 飯島章大さん講演会 21日 土浦

「誰かを支えたいと願う人こそ、大切にされる職場であってほしい」—。千葉県の児童相談所・一時保護所で勤務していた元職員の飯島章太さん(32)はこう訴える。 飯島さんは、過酷な労働環境で体調を崩し退職を余儀なくされたとして、千葉県に未払い賃金や慰謝料の支払いを求めて提訴している。21日、土浦市川口の古書店「生存書房」で、飯島さんの講演会「労働としてのケアを考える~千葉児童相談所裁判が問うこと」(茨城不安定労働組合主催)が開かれる。「心身が守られない職場環境のしわ寄せが、本来守られるべき子どもたちに及んでいる」と語る。 精神疾患の長期療養 3倍 飯島さんが、千葉県 市川児童相談所の一時保護所で児童指導員として勤務を始めたのは2019年4月。虐待などで家庭に居られなくなった子どもを保護し、生活支援や自立に向けたサポートを行う役割だった。現場では、定員の倍となる約40人が入所し、多い日は一人で20人の子どもを見なければならなかった。 職員不足の中、休憩はほとんど取れなかった。午前8時半から午後5時15分までの日勤では、学習支援、食事や掃除のサポート、レクリエーションなどに対応した。精神的に不安定な子どもも多く、けんかや事故など不意のトラブルにも注意を払わなければならない。不慣れな職場で十分な研修もないまま、先輩の仕事を「見よう見まね」で覚えていった。残業も頻繁で、行動観察記録や学習プリントの確認などの事務作業を終える頃には、午後8時を過ぎることも多かった。 月に4~6回の宿直勤務は、2人の職員で40人を担当した。約21時間勤務の上、残業もあった。子どもたちの就寝後は、翌日の会議や行事の準備、子ども一人ずつの記録作成に追われた。緊急一時保護の受け入れや体調不良の子どもへの対応で、仮眠時間は廊下に布団を敷いて待機し、「横になれても眠れたことはほとんどなかった」と振り返る。 こうした勤務の中で飯島さんはうつ病を発症。休職と復職を繰り返し、2021年11月に退職することになる。翌22年7月、千葉県を相手取り総額1200万円の損害賠償を求め千葉地裁に訴訟を起こした。 「自分の経験を個人的な問題で終わらせたくなかった」と飯島さんは話す。千葉県では2020年度、児童相談所の専門職員の精神疾患による長期療養取得率は、他の県職員の3倍以上にのぼり、その約半数が20代だった。体調を崩したのは、決して飯島さん個人の問題ではなかった。 子どもを管理する葛藤 勤務する中で飯島さんが最もつらかったのは、「子どもを支えたい」という思いで選んだ職場で、いつしか子どもを「管理する側」に回ってしまったことだった。飯島さんは、大学2年から6年以上、子どもの電話相談ボランティアを続けていた。修士論文のテーマにもしたこの経験を生かし、「子どもの側に立ち、丁寧に話を聞き、支えになれる仕事」として選んだのが児童相談所だった。 しかし実際の現場では、思い描いた仕事はできなかった。子どもたちは多数の細かいルールに縛られていたからだ。ティッシュ1枚を使うにも職員の許可が必要とされ、起床時間まで布団から出てはならず、食事は完食が原則で、残すには許可と謝罪が必要とされた。根拠があいまいな規則に従わないと、強く叱責される子どももいた。集団生活を送る上で規律は必要とはいえ、「刑務所みたい」とつぶやく子どもを目の当たりにし、「家庭で傷ついた子どもを、さらに傷つけてしまっているのではないか」と葛藤した。しかし激務の中で、抱いた違和感はまひしていったという。 「本当は一人ひとりの話を丁寧に聞き、その子の背景を理解しながら支援につなげたかった。学生時代にしていた電話相談の延長線のような仕事がしたかったんだと思う」と飯島さん。学生時代に積み重ねてきた経験が無価値になっていくことに追い詰められていく。ふと我に返った時、自分を信じられなくなる恐怖に襲われた。そして、心身は限界を迎えた。 応援してくれる人は必ずいる 訴訟では7人の弁護士が弁護団「じそう弁護団ちば」を結成し飯島さんを支えている。千葉地裁は、飯島さんが、人員不足や多忙により十分な研修がないまま現場に配属されたこと、休憩や仮眠時間にも作業があったことなどが「安全配慮義務違反」にあたると認め、県に50万円の支払いを命じた。県は即日控訴し、東京高裁での控訴審は10月9日に結審。現在、和解協議が進められている。 飯島さんは「紆余曲折の中でも、今こうして生きてこられたのは、多くの人の支えがあったから」と語る。一方で、「児童相談所に対して世間からは厳しい声も多い。職場では、社会に味方がいるのかと不安になる職員もいた。でも裁判を通じて、応援してくれる人は必ずいると実感できた」と振り返る。 今回の講演会に向けて「今も不安を抱えながら現場で働く職員はたくさんいる中で、120%の力で働く職員に『頑張って』とは言えないが、こういう仕事を選び、子どもたちのために働く人がいることを多くの人に知ってほしい。社会の中で、児童相談所が抱える問題に関心が広がり、職場環境が改善されることで職員が安心して働けるようになれば、それが何より子どものためにつながる」と語る。(柴田大輔) ◆飯島章太さんの講演会「労働としてのケアを考える~千葉児童相談所裁判が問うこと」は21日(日)午後2時から、土浦市川口2-2-12、古書店「生存書房」で開催。参加費無料。参加申し込みは専用サイト、またはメールibarakifuantei@gmail.com(茨城不安定労働組合)、電話050-1808-8525(生存書房)へ。

外国人排斥の風潮に強い危機感 市民団体「牛久入管を考える会」が報告会

法務省の東日本入国管理センター(牛久市久野町)に収容されている外国人の処遇改善に取り組む市民団体「牛久入管収容所問題を考える会」(つくば市、田中喜美子代表)の年間活動報告会が14日、つくば市役所コミュニティ棟で開かれ、昨今の外国人排斥の風潮に強い危機感が示された。 牛久にある同入管センターは、在留資格のない外国人や難民申請中の外国人を収容している。考える会は、収容されている外国人との面会活動などを通して処遇改善などを要望している。 記念講演をしたノンフィクションライターの安田浩一さんは、SNS上でまん延する外国人への偏見を助長する様々なデマについて「デタラメが差別につながり、差別と偏見のその先にあるのは殺戮(さつりく)」だと、102年前の関東大震災での朝鮮人虐殺を例に挙げ強く非難した。 その上で、モスク建設やインターナショナルスクール開設反対運動、移民反対デモが各地で行われる一方、製造業や農業の現場などで多くの外国人労働力に依存している現状に触れ「私たちは好むと好まざると外国人と関わっている」と述べた。 考える会の田中代表は、選挙運動を通じて複数の政党や候補者が公然と外国人排斥を掲げ、政府が「違法外国人ゼロキャンペーン」を展開していることについて「国策として外国人排斥が始まった」と厳しく批判した。 活動報告会には市民や外国人ら約80人が参加した。 東日本入管センターの2025年の被収容者数は現在、毎月約40人から60人前後で推移しているなどの報告があった。2024年6月、入管施設に収容しない代わりに、監理人の管理下で一定の制約を受けながら社会生活を送り退去強制手続きを進める「監理措置制度」が始まって以降は大きく減っている。一方、今年6月以降は被収容者が強制送還される事例が増えているという。 登壇した「監理措置」の中国籍の男性は、入管施設内での生活について「入管職員とコミュニケーションを取ればいじめられなかった。ただ、自由は無かった」と振り返る一方で、「監理措置制度」の下で、入管施設の外で一定の制約を受けながら社会生活を送る現在の状況を「入管の中には塀がある。(入管の)外にも塀がある」と述べた。(崎山勝功)

不適切な生活保護行政 告発者を表彰したら?《吾妻カガミ》213

【コラム・坂本栄】つくば市の不適切な生活保護行政について「今年内にも(関係職員・管理職への)処分が出るのか」と市長に聞いたところ、「年内でなく年度内」とのことでした。同行政の部署にいた職員が不適切事案の具体例を内部告発し、市が発表したのが2024年春。そして市が調査報告書をまとめたのが2025年夏。問題表面化から関係者処分まで2年もかかるとは悠長な話です。 職員酷使、業務怠慢、ミス隠し 内部告発の詳細については市職員の請願書(市の公益通報受理が遅れたので市議会に請願)を読んでください。あらましは192「…市政の実態」に書きましたが、さわりを紹介すると▽問題点を指摘したら管理職が隠蔽してしまった▽やってはいけない現金支給が行われていた▽業務上の不正を指摘すると職場で「村八分」にされた―といったことが起きていたそうです。 市の調査報告書を読むと、生活保護行政の様相がよく分かります。209「不適切のデパート…」で超要約したように、▽時間外勤務や特殊勤務の手当てがきちんと払われていなかった▽生活保護者への過払いを埋める会計処理(国庫への請求)を怠っていた▽県の監査に対し「現金給付はしていない」と口裏を合わせていた―など、杜撰(ずさん)な行政の実態が報告されています。 生活保護は国民へのセーフティネットであり、憲法でも「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)が保障されています。こういった基本中の基本の行政なのに、単純ミス(支給基準の誤判断)だけでなく、職員酷使(関連手当ての未払い)、業務怠慢(国庫への請求見送り)、ミス隠し(県監査への虚偽報告)が横行していたとは驚きでした。 担当職員・管理職、市幹部への処分がどうなるか、要注目です。処分は仕事上の責任を明確にして再発抑止を図るものですが、これとセットで、不適切事案を暴露することで業務正常化に貢献した告発職員を表彰したらどうでしょう? 内部告発をプラス面に生かして役所を活性化させれば、市民サービスも向上します。実現すれば、役所マネージメントの新しいモデルになると思います。 究極の不適切生活保護対策は? 請願書と調査報告を読むと、つくば市では管理職クラスの仕事振りに問題が多いことが分かります。その箇所にアンダーラインを引きながら、つくば市と土浦市の合併を図り、「新つくば市」を中核市(当時の人口要件は30万以上)にしようとしていた前市長の非公式発言を思い出しました。 合併協議が進んでいたころ、前市長はある懇親の席で、6町村合併で誕生したつくば市の職員を市政経験が豊富な土浦市の職員に教育してもらいたい―といった趣旨のことを話していました。2市合併の目標として中核市実現を掲げながら、土浦市の豊富な行政経験をつくば市の職員に学ばせ、市の行政レベルをアップしたいとの思惑もあったようです。 つくば市民の反対で合併は実現しませんでしたが、「不適切行政」改善策は他にも考えられます。組織引き締めのために関係職員・管理職・市幹部を処分するはその一つであり、内部告発に踏み切った職員を表彰して役所内を刺激するのも一策でしょう。 究極の不適切行政対策は、生活保護業務そのものを県に返上してしまうことです。行政力に限りがある村役場や町役場は生活保護の実務を県に任せています。つくば市が業務返上という奇策(町村並み市政宣言)に出れば、全国の耳目を集めるでしょう。来年の自治体ニュースの上位に入ることは間違いありません。冗談はこのぐらいにして(内部告発奨励は真面目)、皆さま、よいお年をお迎えください。(経済ジャーナリスト) <注> 青字部をクリックすると関係文書やコラムが読めます。