【橋立多美】近年、柔軟剤や洗濯洗剤、制汗スプレーなど、強い香りの製品による健康被害が社会問題になってきた。空気中に漂う有害な化学物質の香り成分にさらされることから、「公害」をもじって「香害」(※メモ)と呼ばれる。中でも化学物質過敏症の子どもにとって、一日の大半を大勢と一緒に過ごす学校や保育園の香害は新たな脅威となっている。
「匂って嫌」
つくば市在住のA子さん(36)が娘のB子ちゃんの異変に気付いたのは2年前、市立保育園に入園したときだった。いつも1人遊びをするため「変わっている子」と言われた。それは幼くて言葉で伝えられなかっただけで、年中クラスになると「ママ、着替えを入れるタンスや、お昼寝ホール、タオルを吊り下げている所が匂って嫌」と理由を説明してくれた。A子さんは「友だちと遊びたくても衣服の匂いがきつくて近寄れなかったんだと思う」と話す。
家ではなんともなく、何が原因か情報を集めて化学物質過敏症だと分かった。半年かけて保育園と話し合った。「香りは好みの問題で慣れれば…」という方針だった園も次第に理解をしてくれ、B子ちゃんの着替えはタンスからかごに、タオル掛けはみんなのタオルと離れた場所に移動してくれた。また、園便りで「香りの強い柔軟剤などの使用の自粛」を呼びかけてくれた。
園の理解は進んだが行事で保護者が保育園に集まると目や鼻をかゆがる、気分が悪くなるなどの症状がでる。帰宅して熱を出したこともある。運動会は園庭に出られず、1人保育室で過ごした。体調不良で登園できない日が多くなり、仕事を辞める覚悟で今年2月に退所届けを出そうとしたが「もう少し様子をみましょう」と園に説得された。
月曜日は香りが強い
4月に年長になったB子ちゃん。A子さんに「保育園に行きたい」とせがむようになった。登園しているが、園児たちの布団が敷かれるホールは洗剤などの香りが充満し、B子ちゃんには耐えられないことから、昼寝時間は家に連れ帰る。仕事をやりくりして保育園と家とを2往復する生活を送っている。週末に布団を持ち帰ってシーツなどを洗濯するため、とりわけ月曜は香りが強くなるという。
A子さんの不安にさらに追い打ちをかけるのが来春の就学だ。小学校内の病弱・身体虚弱特別支援学級を希望するが、市から化学物質過敏症の診断書を求められている。しかし専門の外来は近くにない上、B子ちゃんは診療所や病院の待合室にいると具合が悪くなり、虫歯の治療もできないという。
こうした香害への切実な声を看過できないと、つくば・市民ネットワークの小森谷佐弥香議員が昨年6月、市議会で市の対応について質問した。(つづく)
※メモ「香害」
衣類の柔軟剤などの香りが「不快」を超え、吐き気や頭痛、ぜんそくなどの症状をもたらす。国民生活センターによると、約10年前に香りの強い海外製の柔軟剤がブームになったことをきっかけに、芳香性を強調した製品が増加。その頃から、柔軟剤の香りによる体の不調を訴える相談が増加傾向にあるという。