土曜日, 10月 4, 2025
ホームつくば大学生のための「家出マニュアル」プロジェクト 筑波大生が企画、5月noteに公開へ

大学生のための「家出マニュアル」プロジェクト 筑波大生が企画、5月noteに公開へ

【田中めぐみ】虐待サバイバーの体験談を募集し、大学生のための「家出マニュアル」を作るプロジェクトを進めている学生がいる。筑波大学人間学群で社会福祉について学ぶ3年生の山口和紀さん(20)。体験談は5月にウェブサービスnoteに有料公開予定で、売り上げは執筆者に還元するという。

家出は虐待からの自主避難

山口さんは大学1年の時に、親からの虐待を生き延びたサバイバーたちが書いた手紙を収めた本『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(Create Media編)を読んだ。同世代が手紙を寄せていることにショックを受け、ツイッターで本の感想をつぶやいたところ、この本の企画をしたライターの今一生(こんいっしょう)さんから返事をもらい、児童虐待防止をテーマとした講演会を企画した。昨年5月の2日間、コワーキングスペース「Tsukuba Place Lab」(つくば市天久保)に今さんを招いて「子ども虐待防止講演会」を開催した。

講演会で参加者の話に耳を傾ける今さん=昨年5月、コワーキングスペース「Tsukuba Place Lab」(つくば市天久保)

講演会には筑波大学の学生らを中心に2日間でのべ41人が参加。虐待問題について様々な議論が行われ、実際に虐待を受け、生きるために家出をした体験を語った人もいた。家出しなかったら死んでいたという話を聞き、山口さんはそれまでの価値観がひっくり返された気がしたという。「家出」という言葉には「してはいけないこと」「悪いこと」というイメージがあったが、体験者の話を直接聞き、「家出」は被虐待者の自主避難であることを知ったと話す。

また今年3月、ある地方大学に通う大学生が自らの虐待体験をつづって、インターネットにアップした記事を目にした。この大学生も「家出」することによって生き延びていた。2人の壮絶な体験から、「家出」がなければ死んでいたかもしれないサバイバーの実態を知り、山口さんは何かをしなければならないという気持ちにさせられたという。

5人の家出体験記を募集

被虐待者の家出には、ある種の技術が必要になるが、社会的に家出が推奨されることは少なく、支援する団体も多くない。具体的なやり方を教えてくれるところが無いため、家出成功者の体験談をモデルケースとして参考にするしかない。

そこで山口さんは、実際に家出に成功した大学生の体験談を集めた「家出マニュアル」を作ろうとプロジェクトを立ち上げた。目標は100人の体験談を集めることだが、まずはツイッターで呼びかけ5人を募集したという。

家出の定義は、「生活拠点を親元以外に移し、自分一人で生活を成り立たせていること」。親に内緒にしているかどうかは厳密には問わず、親に反対されている中強行する場合も家出に含める。虐待親の元で育った人、家出の経験がある人、2019年4月時点で大学生または大学院生であることを条件として募集したところ、すぐに5人の枠が埋まった。体験記を寄せてくれた5人には原稿料を渡したいと山口さんが自腹を切った。

少ない大学生への支援

なぜ大学生を対象にしたか、山口さんは「大学生は10代と20代、未成年と成年の間だから」という。18歳未満は児童相談所など公的支援が受けられるが、18、19歳への支援は薄い。また、20歳になれば賃貸契約などの契約行為に親の同意がいらなくなり、自分で決められることも多いが、未成年の内は親の同意が必要だ。女性の場合はDV(ドメスティック・バイオレンス)シェルターや支援を行うNPOなどもあるが、地方には少ないという。また、男性の場合の支援は必ず就労を前提としており、学生への支援は無いに等しいと話す。

「家出マニュアル」を作る目的は、一つは当事者のため、もう一つは「大学生の虐待」という問題に社会の目を向けることだと山口さん。このプロジェクトが問題提起とし、支援を増やしていきたいという。山口さんの専門は社会福祉で、自分の体験談を語ることは劣等感や屈辱感を低減することにつながり、癒しにもなることを学んだそうだ。「このプロジェクトによって教会のように困っている人たちが集まれる場所を作りたい。困っている人たちがつながり、助け合うコミュニティを作りたい」と目標を語った。

➡「家出マニュアルプロジェクト」のnoteページ

執筆者を増やすための寄付支援もできる

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

推測と事実の違いが… 《続・気軽にSOS》165

【コラム・浅井和幸】会社の業績が悪くボーナスが支給されないため、ボーナスを当てにして組んだローンが払えないとアタフタする。相手がとても喜んでくれると思ってプレゼントしたのに、思ったより喜んでもらえなかった。計画していたよりも仕事が進まず、やる気も出ない。 これらのように、自分の予想や計画よりも物事が順調に進まず、嫌な思いをすることはよくあることだと思います。自分が推測するほど物事がよい結果を生まないとき、あなたはどのように考えるでしょうか? 行動できるでしょうか? ローンを払えない自分は悪くないと会社のせいにしたり、プレゼントを喜ばない友人の性格を疑ったり、たまたまかかってきた電話のせいにしたりと、他責思考になるでしょうか? それとも、自分は何て能力のない奴だと、自責の念に駆られるでしょうか? 他責でも自責でも、その瞬間や過去に対して評価をしている状況です。うまくいかないことは、何か悪い原因があるのかと考えるのは、間違いではないかもしれませんが、そこにとどまるだけでは何も解決に向かいません。 解決をするには、解決をするための要素を集める必要があります。仕事が終わらないことを自分や他人のせいにしてネガティブな気持ちに浸っていても、仕事が終わるわけではありません。普段からやる気のスイッチが簡単に見つけられる人でない限り、そのスイッチを探し回っても時間がたつばかりです。 悪い出来事の責任論を続けていても、何かを達成するところへ近づくことはありません。それよりも、実際にどのように仕事を進めるかを考え、実行することの方が優先事項となるでしょう。 いくつかの可能性への対策を用意 人は推測したことが実際に起こらないと、パニックになります。そのパニック状態を起こして、どのような対策をとるかで人物の優秀性を測るテストもあるようです。 優秀な人間はパニックになる状況でも最善策を実行できると言われても、そう簡単に優秀な人間にはなれません。推測を一つに絞らずに、三つぐらいは考える癖をつけましょう。物事が順調にいく未来もあるし、うまくいかないこともあるかもしれない、さらに全く予想もしない別の現実が待っているかもしれない―と考える習慣があれば、いくつかの可能性への対策や心構えを持つことができるでしょう。 いつもうまくいく未来しか思い描けない人の特徴は、傲慢(ごうまん)な振る舞いに現れます。他人への批判ばかりが先行する。自分は完璧な人間であると思い込んで、敵を多く作ってしまう。もしかしたら、傲慢でいなければいけないほど、何かしらのコンプレックスを隠し持っている。コンプレックスを見ないふりをしていないと、不安で不安で仕方がないのかもしれませんね。(精神保健福祉士)

場所を誤認し救急隊の到着10分遅延 つくば市消防

つくば市消防本部は3日、消防指令センターが119番通報を受けた際、通信指令員が救急要請場所を誤認し、救急隊及び消防隊の到着が10分遅延してしまったと発表した。傷病者らは商業施設の従業員用駐車場で到着を待っていたが、通信指令員が詳しい場所の確認を適切に行わず、お客様用駐車場の方だと思い込み、救急車と消防車をお客様用駐車場に向かわせてしまったという。 市消防本部消防指令課によると、2日午前9時18分ごろ、同市下平塚から、商業施設付近で高齢の女性が倒れていると119番通報があった。中央消防署から救急車1台と消防車1台が駆け付け、10分後の9時28分、商業施設のお客様用駐車場に到着したが、傷病者を確認できなかった。 隊員から連絡を受けた通信指令員は、通報者に電話を架けるなどしたが、つながらない状態だった。現場に到着した隊員らが、車を降りて周囲を探すなどしたところ、商業施設にいた別の人から、近くに倒れている人がいることを聞き、さらに10分後の9時38分、現場に到着し、女性を救急車で病院に搬送した。 通信指令員は本来、気が動転している通報者と冷静にやりとりし、適切な情報を聞き出し、消防隊や救急隊に出動指令などを出すのが仕事。市消防本部は、通報を受けた通信指令員が、商業施設の駐車場をお客様用の駐車場だと思い込み、通報者に詳しく状況を聞かなかったのが原因だとしている。 青木孝徳消防長は「このたびは本人並びにご家族に多大なるご迷惑をお掛けし心からお詫びします。市民の生命、財産を守る立場である消防本部として、今後同様の事案が発生しないよう、指令員への再教育を徹底し、体制の強化を図ってまいります」などとするコメントを発表した。

海外出張 市長はビジネスクラスまで 全会一致で修正案可決

つくば市議会 つくば市議会9月定例会最終日の3日本会議が開かれた。海外出張の際の航空運賃について、市長はファーストクラスまで利用できるとなっている市長提案の市職員旅費条例改正案に対し(9月17日付)、小森谷さやか市議(市民ネット)から修正案が出され、全会一致で修正案が可決された。修正条例は、現行の市旅費条例と同様、市長の航空運賃はビジネスクラスまでとなる。来年4月から施行される。 宿泊費についても修正する。市長提案の条例改正案は宿泊費の基準を3段階の区分のうち一番上(首相等と同等の基準)としていたのを、小森谷市議提案の修正条例は上から2番目(指定職職員等と同等の基準)に修正する。例えばロンドンに宿泊する場合、条例改正案は1泊7万円が基準額だったが、修正条例は1泊4万8000円になる。ストックホルム(スウェーデン)での宿泊の場合は4万8000円が3万3000円になる。 併せて、小森谷市議と山中真弓市議(共産)からそれぞれ、東京都知事の海外出張に関する運用指針にならって、つくば市でも運用指針を策定するよう注文が付いた。これまでも一般質問で問題点を追及してきた山中市議は賛成討論で、五十嵐立青市長がコロナ禍後に再開した海外出張に対して「回数が多く、期間が長い」などと改めて批判、運用指針については東京都にならって①出張の目的を明確にし、事前に目的、出張概要、概算費用を公表する②航空券の手配は複数の事業者から提案を受け経費節減に努める③出張後は速やかに出張経費の項目ごとの内訳、数量を含む詳細な情報と、出張の成果を公表するーなどの指針をできるだけ早く策定するよう求めた。 来年4月からまた値上げ 下水道料金 一方、下水道使用料を平均18.1%引き上げる下水道条例改正案(9月2日付)は賛成多数で可決された。反対したのは山中真弓市議1人だけ。可決により、来年4月から20年ぶりに引き上げられる。同市では今年4月、水道料金が平均15%引き上げられたばかりで、2年連続で上下水道料金が引き上となる。 第三者委設置請願は不採択 生活保護行政 生活保護行政の不適正事務をめぐり、市が今年6月にまとめた「生活保護業務の不適正な事務処理に関する報告書」はひじょうに不十分で不誠実だなどとして、当時、生活保護業務を担当していた市職員が出していた第三者委員会による徹底的な調査を求める請願(9月26日付)は、賛成少数で不採択となった。請願に賛成し第三者委の設置を求めたのは山中真弓、川村直子(市民ネット)、酒井泉(新・つくば民主主義の会)、市原琢己(Nextつくば)、川田青星(市民ネット)の5市議。(鈴木宏子)

皆既月食と夏休みの自由研究《ことばのおはなし》86

【コラム・山口絹記】変な時間に寝てしまい夜中に目を覚ましてしまうことがある。さえてしまった眼で時間を確認すると、夜中の1時。しばらく寝られそうにもないが、目だけでも閉じておこうとしたところで、今夜は3年ぶりの皆既月食、とのスマホの通知が目に入った。 せっかくだし撮っておくか。ごそごそと立ち上がって、三脚とカメラに望遠レンズをセットする。望遠レンズといっても、せいぜい子どもの運動会用のレンズだが、最近のカメラは性能が良いので、トリミングすればそこそこな写真が撮れてしまう。 寝ている妻にも声をかけてみると、「子どもたちに見せようか」と言うので、月が欠けてきたら起こそう、ということになった。 セッティングを確かめるために一度外に出て三脚をセットする。が、夜なのにまだ暑くて待機するのは諦めた。部屋に戻ってパソコンを立ち上げると、いたるところで月食LIVEの動画配信が行われていた。便利な時代である。快適な室内でちょうどよい頃合いをうかがって外に出ればよい。 観察される側になった私 はっきりと食が確認できるようになったタイミングで、妻と子どもたちと外に出た。子どもたちは食にはそこまで興味がないようで、珍しい夜のイベントに興奮したのかパタパタとあたりを走り回っている。 カメラの背面モニターで拡大した月を確認しながらピントを合わせる。食が最大となる瞬間は何度見ても美しい。何枚か撮影して顔を上げると、娘が月ではなくこちらを見ていた。 ふと、自分が小さい頃、夏休みの自由研究でアゲハチョウの観察をしたことを思い出した。サナギの状態のチョウを枝ごと持ち帰って羽化を観察する計画だったのだが、チョウの羽化は朝早いので、私はウトウトしていてほとんど記憶がない。カメラをやっていた伯父が羽化の瞬間を撮影していたのだが、チョウの羽化よりも、それを見て感動している伯父の姿の方が記憶に残っている。 家族が家に戻った後も撮影を続けながら、ああ、そうか、私も観察される側になったのかもしれないな、とふと思った(言語研究者)