日曜日, 11月 23, 2025
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2種類の演算加速装置で性能アップ 筑波大学10代目のスパコンCygnus登場

【相澤冬樹】性格の異なる演算加速装置を2種類組み合わせた、世界で初めてのスーパーコンピューターが26日、筑波大学計算科学研究センター(つくば市天王台、梅村雅之センター長)で報道陣にお披露目された。4月から運用を開始するCygnus(シグナス)は、同センターにとって10代目のスパコン。会見で梅村センター長は「世界最速でも純国産でもないけれど、限界の見え始めたスパコンの開発競争に新たな方向性を提案するものだ」と胸を張った。

スパコンは、多くのコンピューターをつなげて、並列処理により高速の演算を実行するシステムで、1台1台をノードという。Cygnusは各計算ノードに、CPU(中央処理装置)に加え、計算処理を行う半導体チップのGPUを搭載、さらに一部のノードにはプログラマーが現場で論理回路を再構成できる集積回路FPGAを組み込んだ。いずれも市販品だが、2種の演算加速装置を合体させた例は世界初という。

一般にスパコンは、GPUの集積度を上げることで処理性能の高速さを競ってきた。巨大データの処理は得意だが、計算を進める際に分岐条件が出現するケースなどで性能が十分に発揮できず、実効スピードが落ちる弱点があった。FPGAはプログラムを書くのが大変だが柔軟性があり、接続すると装置内の高速通信も可能になる。GPUとFPGA、それぞれの特徴を組み合わて、性能の最適化が図るのが開発の狙いだった。

医療や気象研究に4月から運用開始

同研究センターは2016年度から3カ年、本体に約8億4000万円を投じてCygnusを完成させた。合わせて160基のCPU、320基のGPU、64基のFPGAで構成される。運用期間は6年の予定。「処理スピードだけなら他に早いものはいくらでもあるが、柔軟性を生かして高い演算性能と効率的な並列処理を持たせた。今後に新たな方向性を提供するものだ」(梅村センター長)という。

Cygnusのネーミングは、星座のはくちょう座に由来する。本体2台のノードは、それぞれはくちょう座のアルファ星デネブとベータ星アルビレオになぞらえられ、2種の演算加速装置を合体したノードは二重星アルビレオにちなんでいる。

スパコンを使った計算科学は、数値シミュレーションによるイメージング(可視化・映像化)に用いられることが多い。宇宙進化の謎に迫るなど、基礎物理での利用が盛んだが、近年は睡眠診断や手術ナビなど医療分野での応用に期待が広がっている。4月から約1カ月の試験期間を経て、5月に全国共同利用プログラムとして本格稼働する。すでに公募による19年度分の利用受付は終わっており、70件が採択された。気象やAIなどの研究テーマが決まっている。

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自動運転バス「レベル4」27年度実現へ つくば市で3回目の実証実験開始

つくば市で21日、公道を使った自動運転バスの走行テストを行う実証実験が始まった。ルートは、つくば駅から筑波大学構内を循環する約10キロの既存のバス路線で、所要時間は約40分。一般の乗客を乗せて1日4便の運行を来年1月23日まで続ける予定だ。同市は2027年度に、運転手不在の状態で、特定の条件下で完全な自動運転が可能となる「レベル4」の実現を目指している。 この実験は、昨年と今年1月に続いて3回目となる。今回はこれまでと同様、状況に応じて運転手が操作を行う「レベル2」での実施となる。 今回は、国の補助金を活用して関東鉄道が自動運転バス車両を新たに購入し、同社のバス路線「筑波大学循環」内のすべてのバス停に停車するなど、新たな取り組みも加わった。また、今年8月にはつくば市を代表として、筑波大学、関東鉄道、KDDIが「つくば自動運転社会実装推進事業コンソーシアム」を設立。民間5社の協力も得て実施されている。 今回使用されている車両は、名古屋市のベンチャー企業ティアフォーによる自動運転EVバス「ミニバス 2.0」。最高時速は70キロ、定員は28人だが、自動運転時は時速35キロ、定員16人で走行する。走行時には8台のカメラと13台のレーザーセンサーが周囲の状況を分析し、事前に設定した走行ルートに従って自動安全システムが交差点やカーブでの停止・発進、加減速などを行う。緊急時には乗車する運転士が手動運転で対応する。この日は通信トラブルが発生し、バス停での停車・発車時などで手動操作に切り替え運行した。 つくば市科学技術戦略課の中島央樹さんは、今回の実証実験について「国は、全国で自動運転サービスの実装を2025年度に50カ所、27年度に100カ所以上とする目標を掲げている。つくば市もこれに合わせ、27年10月に完全に運転手がいないレベル4の実装を目指している」とし、「昨年は6カ所のバス停のみ停車したが、今回は、路線バスと同じ動きをすることを目指し、29カ所すべてに停まるようにした。以前はつくばセンターのロータリー外側から発車していたものを、内側からの出発に変更した」と説明し、「つくば市に限らず、中心部と周辺地域の移動格差が課題となっている。つくばは車が主な移動手段で、交通渋滞や事故が問題になっているほか、交通事業者では運転手不足による減便などの課題もある。自動運転バスの運行を通じて公共交通を地域に根付かせ、こうした課題の解決につなげていきたい」と目標を語った。 同市は今年度当初予算で、国の国庫支出金を財源に、自動運転バスの購入費、自動運転地図作製費、レベル4通信費など約1億3400万円と、自動運転バス年間維持費約1370万円の計1億4770万円を計上した。今年度は実証実験とレベル4許認可申請、26年度は実証実験、27年は定常運行を目指している。(柴田大輔) https://youtu.be/FfSoeYhtxLI ◆乗車料金は無料。QRコードで希望の時間を事前予約する。事前予約がない場合は先着順となり、定員に達した場合は乗車できないことがある。詳しくはつくば市ホームページへ。

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旧家住宅が登録有形文化財に つくば市栗原 家族が保存・活用方法を模索

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高所作業車から2人が転落 つくば市並木大橋

アームが車線はみだし大型トラックと接触 20日午後0時5分ごろ、つくば市並木4丁目、学園東大通りに架かる並木大橋で、作業員2人が高所作業車のアームの先端に設置されたゴンドラに乗って作業中、アームが隣の車線にはみ出し、走行してきた大型トラックの荷台に接触、ゴンドラに乗っていた20代と30代の男性作業員2人が4~5メートル下に転落した。2人は救急車で病院に運ばれたが、30代男性は重体、20代男性は重傷を負った。2人共、意識はあるという。 つくば市道路整備課によると、工事は同市が発注した橋梁長寿命化補修工事。この日は、東大通りの片側2車線の道路のうち、荒川沖方面に向かう、並木地区の住宅街側の1車線を通行止めにしていた。作業員2人はアームの先端のゴンドラに乗って、橋の底部のコンクリートひび割れの補修作業を実施、ひび割れ箇所に注射器のような注入器具を取り付けて薬剤を注入し、取り付けた注入器具を回収する作業をしていた際、注入器具を回収するためアームを隣の車線の上に動かしたところ、走行してきた大型トラックの荷台にアームが接触した。 転落した作業員2人はいずれも下請け会社の作業員だった。 同課によると、本来、アームを隣の車線の上に動かす際は、隣の車線も一時通行止めにすべきだったが、規制しなかったという。市によると、なぜ車線を規制しないままアームを動かしたかなどの原因は現時点で不明としている。 この事故で、アームが動かなくなり高所作業者の撤収に時間がかかったなどから、荒川沖方面に向かう片側2車線がいずれも、同日午後6時15分まで約6時間にわたり通行止めになった。路線バスと高速バスのバス停3カ所も利用できなくなった。 並木大橋の橋梁補修工事は6月3日に始まり、来年1月30日まで実施される予定。再発防止策として市は同日、元請け業者に対し、工事現場の規制方法の再確認や交通誘導員及び現場作業員に対する安全対策の再教育を指示した。さらに現在、市の工事を受注している全事業者に対し、安全対策に関する指導を徹底するとしている。