【鈴木宏子】200人を超える死者を出した西日本豪雨から3週間が経った。地元の土浦、つくば市などを流れる桜川の水害対策は今どうなっているのか。常総市などに甚大な被害をもたらした2015年の鬼怒川水害を教訓に、桜川の対策は3年間でどこまで進んだのか。
桜川を管理する県によると、鬼怒川水害などを教訓に昨年9月、桜川の洪水浸水想定区域が大幅に見直され、想定区域は見直し前の1.75倍に大幅に拡大された。洪水発生前に住民を確実に避難させ逃げ遅れをなくすための具体的な対策の検討は始まったばかりだ。
昨年見直されたのは霞ケ浦に流れ込む河口から桜橋(土浦市田戸部とつくば市栗原)までの下流10キロ区間のみ。10キロより上流については、まだ堤防が整備されていない箇所があるなど未整備のため、見直しまでに至ってないという。
見直し前は30年に一度の48時間246ミリの降雨を想定していたが、見直し後は、考えうる最大の雨量として、3倍の48時間746ミリを想定した。7月の西日本豪雨では高知、徳島、岐阜、長野県内など8カ所で746ミリを超える総雨量を実際に記録しており、起こりえない数値ではない。
見直し前の下流10キロの浸水想定区域は16平方キロ。見直し後は、1.75倍の28平方キロに広がった。中心市街地一帯が浸水想定区域になる土浦市は、見直し前は、常磐線の線路の東側は浸水が想定されてなかったが、見直し後は線路も東側も浸水すると想定されている。市役所、消防本部、警察署も浸水想定区域内に立地する。水の深さも見直され、見直し前は2階に避難すれば助かるという想定の深さだったが、見直し後は2階天井付近まで浸水すると想定された区域もある。
下流の暫定整備は完了
見直しに伴ってハード面の整備はさらに強化されないのだろうか。県によると桜川は、霞ケ浦圏河川整備計画に基づいて下流10キロ区間の堤防整備や川底の掘削などの暫定計画はすでに完了しており、ハード面をさらに整備する予定は当面ない。今後おおむね30年間でさらに川底を掘削し流量を現在の1.6倍にするという将来計画はあるが、現時点でいつになるか具体的見通しは立たないという。
河口から10キロより上流に堤防が未整備の区間があるため、県は現在、築堤のための用地買収を進めたり、樹木が茂って流れを妨げている箇所は樹木を伐採などしている。ただしハード面の事業費は年間数千万規模だという。
「逃げ遅れなくす」はこれから
15年の鬼怒川水害のほか、16年に岩手県の高齢者施設で入居者が逃げ遅れた台風被害を教訓に、国は減災のための治水対策を見直した。桜川の洪水想定区域の見直しも、国の水防災意識社会の再構築に向けた緊急行動計画などを受けて動き始めた。
桜川では昨年1月に関係市、県、気象庁による県管理河川県南(土浦)ブロック減災対策協議会を設置し見直しが進んでいる。「逃げ遅れによる人的被害をなくす」「地域社会機能の継続性を確保のする」の二つを21年度まで5年間で達成することを目標に据える。ハード面では堤防が未整備の上流区域の早急な堤防整備、ソフト面では地域住民との情報共有や福祉施設入所者の確実な避難をどう実現させるかなどが課題とされる。
昨年の洪水想定区域の見直しを受けて土浦市は、今年度当初予算に洪水ハザードマップの見直し約380万円を計上、今年度中に新たなマップを策定し、全戸に配布する予定だ。見直し前のマップは、浸水想定区域に1万4013世帯、3万5794人が住むとされ、洪水時の避難所として24カ所を指定した。見直し後の世帯数や人口がどうなるかは現時点で未定だ。市役所が浸水した場合、現在、市保健センターがある下高津に災害対策本部機能を移動するという。避難所まで距離があることも課題だ。
一方つくば市は、見直された洪水想定区域に基づいて今年3月までに新たな災害ハザードマップを策定し全戸に配布した。住民の逃げ遅れをなくすなど対策はこれからになる。