【コラム・沼田誠】かつて水戸市役所で平和事業を担当していたことがあります。当時は、水戸空襲など戦争を体験した語り部と若者をつなげる「ぴ〜すプロジェクト」、平和作文コンクール、折り鶴プロジェクトを組み合わせた小中学生平和大使の広島派遣、さらに平和記念館を拠点とした展示・資料保存を三本柱に据えた、市民参加型の事業を展開していました。現在も、基本的にはこの枠組みで続いています。
しかし、担当していた際、「平和事業が8月の定番行事になってしまっていて、参加者が受け身になっていないか」「高齢化する語り部に依存し続けてよいのか」という疑問を抱いていました。参考になる事例を調べる中で、アウシュビッツでは現在ガイドに直接の体験者はいないこと、唯一の日本人ガイドを務める中谷剛さんが、過去の悲劇を現代社会に引き寄せて考えるべき、と主張されていることを知り、こうした企画ができないか、上司とも議論していました。
その後転職してしまったので、私の手でこのような企画を実現することはできませんでした。しかし、少しずつ平和をどう伝え、主体的に考えていくのか、ということについて、水戸市役所内で議論が進んでいることを感じています。8月26日に戦場カメラマンの渡部陽一さんの講演が水戸で企画されているのはその一例でしょう。
隣接する土浦市でも、市民団体が主導する「原爆と人間展」や講演会を行政と協力して展開し、若い世代を巻き込んでいると聞きます。土浦市立博物館が発行する「戦争の記憶マップ」も手元にありますが、戦争について学ぶ教材としてとても優れていると思います。
つくばは規模も内容も控えめ
では、つくば市の平和への取り組みはどうでしょうか。
五十嵐市長は8月15日のFacebookで「今日8月15日は平和の尊さをあらためて心に刻む日です」と訴え、市内中学生を「青少年ピースフォーラム」へ派遣していることを紹介しながら、「核武装が安上がり」といった議論を批判し、「歴史に学び、未来への責任をもって共有」すべき、と強調されています。
その姿勢は、戦災の有無を超えて平和であることを軽視しないという強い意思を示していると思います。
一方、つくば市として行う平和事業は、青少年ピースフォーラムの派遣やパネル展にとどまり、水戸市や土浦市と比べ、規模も内容も控えめに映ります。これは、地域の中で戦争中に直接大きな被害を受けなかった、という歴史的事情が影響しているのかもしれません。しかし、同時に、「科学のまち」として多様な外国人が暮らし、国際的な課題と接点を持つ都市だからこそ、慰霊や回顧にとどまらない、独自の立ち位置での平和に向けての発信ができるのではないでしょうか。
つくば市の可能性のひとつとして、五十嵐市長の発信が単なる追悼の言葉に終わらず、未来志向の取り組みへと発展していくことを期待したいと思います。(元水戸市みとの魅力発信課長)