【コラム 寺田和浩】歯科口腔外科という名称はあまりなじみがないかもしれませんが、口腔、顎、顔面、これらの周囲の疾患に対する治療を行う診療科です。埋伏歯(親知らず)、過剰歯などの抜歯、顎の骨折や歯の脱臼などの外傷による口腔外科疾患に対する治療を中心に、全身疾患を有する方の歯科治療も行っています。
また近年では、がん治療中や周術期(手術前後)の口腔内トラブルの治療や予防を行い、安心・安全に治療が継続できるよう病院内での口腔ケアを担当しています。
私たちの対象疾患
より具体的には、以下のような治療を担当しています。
・親知らずなどの抜歯
・外傷(顎の骨折、歯の脱臼など)
・炎症(顎骨炎、歯性感染症など)
・口腔粘膜疾患(口内炎、白板症、扁平苔癬=へんぺいたいせん=など)
・顎関節疾患(顎関節症、顎関節脱臼)
・唾液(だえき)腺疾患(唾石症、顎下腺・舌下腺・小唾液腺にできる疾患)
・のう胞(顎骨内や口腔内にできるのう胞)
・口腔腫瘍(口腔領域に発生する良性・悪性腫瘍)
・周術期口腔機能管理(周術期の口腔内トラブルの治療や予防)
周術期口腔機能管理
周術期における口腔の状況・環境により引き起こされる合併症やトラブルを予防し、がんなどの治療を滞りなく進めていくことを目的とし、かかりつけ歯科医院と連携しながら口腔機能管理を行います。
周術期の口腔機能管理の意義(図1)として、口腔内の細菌数減少による誤嚥性肺炎予防や薬剤性口腔粘膜炎の症状緩和、むし歯や歯周炎などの口腔内感染源除去による歯性感染および血行性感染の減少、自然脱落の可能性がある動揺歯を一時的に固定することによる誤飲の予防などがあります。

大事な口腔ケア
口の中には400~700種類の細菌が住んでいます。普段はあまり悪いことをしませんが、食後などは細菌がねばねばした物質を作り出し歯の表面にくっつきます。これを歯垢(プラーク)と言います。歯垢1ミリグラムの中に約10億個の細菌が住み着いていると言われていて、歯周病やむし歯の原因になると言われています。
また、口腔は「ごはんを食べる」だけではなく、喋るなど大切な役割を持っています。近年、誤嚥性肺炎(図2)の発症と口腔衛生状態との関連が示唆されるようになってから注目されるようになり、現在では肺炎の予防、ADL(日常生活動作)、QOL(生活の質)の向上に重要であると認識されています。

口腔ケアの具体例としては、検診、口腔清掃、義歯の手入れ、咀嚼・摂食・嚥下のリハビリ、歯肉や頬のマッサージ、口臭の改善、口腔乾燥症予防などがあり、セルフケアと専門的な口腔ケアで成り立っています。
口腔ケアは日常自分で行うセルフケアが非常に重要になります。しかし、セルフケアでは落ちきらない汚れもあるので、定期的に歯科医院で専門的な口腔ケアを行ってもらうのがお勧めです。

口の中に違和感があったら相談を
口の中を清潔に保つことは、いろいろなメリットがあります。かかりつけ歯科をつくって定期的に受診するようにしましょう。
筑波メディカルセンター病院の歯科口腔外科では、入院中や通院中の患者さんに対して周術期口腔機能管理、口腔ケア、応急的な歯科治療を実施しています。特に、当院は地域におけるがん診療の拠点病院であり、がん化学療法や放射線治療に伴う口内炎などの口腔トラブルに対応しています。口の中に不安や違和感がありましたらお気軽にご相談ください。(筑波メディカルセンター病院 歯科口腔外科)