【コラム・沼田誠】「学校に行かないなんて恥ずかしい」。そんな空気は今でも根強いものがあります。しかし、不登校は今や特別な話ではありません。2023年度の文科省調査によれば、全国の不登校生徒は34万6482人、茨城県だけでも7987人もいます。不登校への取組は各地で行われており、つくば市、水戸市でも進められています。ただ、その向き合い方には違いがあるようです。
つくば市の基本的な立場は「不登校は問題行動ではない」(市教育委員会の「不登校に関する児童生徒支援の在り方」、2023年)。登校を目的とせず、子どもの安心と社会的自立を重視する姿勢が明確に示されています。例えば、公設民営フリースクール「むすびつくば」では、子どもが自分のペースで過ごすことを第一に、学校に戻ることを無理には求めていません。また、不登校生徒支援事業として、市内に居住する利用者の保護者に月2万円の補助も行っています。
一方、水戸市では、校内フリースクールの整備を重視しています。2024年度には市内の全中学校に設置し、25年度はモデル校として小学校6校にも設置しました。市長記者会見(5月30日)では、今後、全小学校に拡大する方針も示しました。ここでは「自分に合った多様な居場所を選択できる環境を整える」と表明しつつも、「これまで登校できなかった生徒が登校できるようになった」との発言にもあるように、「学校に行くこと」が前提とされているように思えます。
つまり、つくば市は「学校外の学びもOK」とする市民社会的視点からのアプローチ、水戸市は「学校という制度の中で可能な限り包摂する」というアプローチと言えるのかも知れません。
「多様性重視」「教室に戻す」
この違いはどこから生じたか? 「多様性」に対する地域の経験値の差ではないかと思います。
例えば、駐日ジョージア大使で元つくば市民のティラムズ・レジャバさんの講演(2021年11月)では、「つくば市の先生は外国人児童・生徒が受け入れられるように多大な努力を払っている」と話していたことが印象に残っています。一方、水戸では、冒頭の引用にもあるように、不登校の子どもの親たちから「子どもが学校に行かないと、身内や周囲の目が気になる」という話をよく聞いていました。
これらを踏まえると、両市とも「子どもたちが安心して学び続けられる」ことを起点に施策を組み立てていますが、つくば市は「学校・教室に行かない」ことも多様性のひとつとして選択肢に含める一方、水戸市は保護者の意向を重視して「理由はどうであれ学校に行く」「教室に戻れる」仕組みを整えようとしているのではないでしょうか。
私たちは、「学校」というものを問い直すべき時が来ているのかもしれません。「教室でじっと座って先生の話を聞く」という行為は、近代工業社会が「工場労働者に必要な習慣」として制度化したもので、人類の歴史的にはそれほど昔のことではありません。つまり「不自然なこと」なのです。そこにうまくはまらない子どもがいたとしても、それは子どもが間違っているのではなく、「型」の方に問題があるのではないか。そんな想像力を持ってもいいのではないかと思います。(元水戸市みとの魅力発信課長)