「選択的夫婦別姓の実現を」「望まない改姓ゼロに」―つくば駅前で21日夕方、横断幕やプラカードなどを掲げて立つ10人の姿があった。自分の名前で生きることに悩み、事実婚や旧姓使用をする当事者らだ。
つくば市や牛久市などに住む20代から60代の研究者や会社員らで、誰もが息苦しさを感じず自分らしく生きられるジェンダー平等社会を目指して活動する「一般社団法人あすには」(東京都新宿区、井田奈穂代表)のメンバー。つくば駅前での行動は5月7日に続いて2回目となる。
今国会で選択的夫婦別姓の実現が期待された中、4月23日から毎週水曜日、国会前でプラカードなどを掲げてきた。地元でも行動しようと、県内に住むメンバー同士が声を掛け合い、つくば駅前で行動を起こした。19日になって国会情勢が変わり今国会での結論は先送りとなりそうだが、諦めず行動を続ける。
第3次訴訟の原告
そのうちの一人、宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究者の新田久美さん(59)=仮名=は、選択的夫婦別姓の実現を求めて東京地裁に提訴している第3次訴訟の原告だ。別姓導入の機運が高まっていた約30年前、夫と事実婚をした。しかし社会の壁に突き当り計5回、書類上の結婚と離婚を5回繰り返してきた。大手電機メーカーに勤めていたころ、事実婚では社宅に入ることができなかったため結婚届を出し、その後、自身のパスポートの名前を同一にするため離婚届を出した。子供が生まれると、戸籍上、子供が非嫡出子となったことを知った夫の母親から泣かれ、再び結婚届を出した。その後事実婚に戻したが、マイホームを購入しようとして事実婚ではペアローンが組めず、結婚届を出した。現在は事実婚だ。
仕事柄、海外出張が多い。セキュリティレベルが高いNASA(米航空宇宙局)などの施設に入る際はパスポートの提示を求められ、研究者として使用している名前とパスポートの名前が異なると入ることができない。これまで60件くらいの特許を取得しているが結婚時と事実婚時の二つの名前で登録され、同一人物のものだと分からない。
選択的夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は、婚姻の自由を保障する憲法24条に違反するなどとして2024年に起こした第3次訴訟は、「あすには」の井田代表から声が掛かり、夫婦で原告になった。
待って30年
「あすには」は、2018年に始まった選択的夫婦別姓・全国陳情アクションが前身で、これまで地方議会で意見書採択を求める請願活動をしたり、国会議員に陳情活動などをしてきた。県内では2019年のつくば市議会をスタートに取手、牛久、龍ケ崎、鹿嶋市議会などで請願が採択され、地方議会から国に選択的夫婦別姓導入を求める意見書が出されてきた。
茨城での活動を引っ張ってきたのは牛久市の団体職員、小泉祐里さん(56)だ。21日は事実婚の夫と共につくば駅前で横断幕やプラカードを掲げた。
小泉さんは選択的夫婦別姓導入の機運が高まっていた31年前、「すぐに導入されるはずだから結婚届を出すのを少し待とう」と1994年、夫と事実婚をした。しかし待っても待っても変わることはなかった。「待っているだけではなく、何かしなくてはいけない」と全国陳情アクションに加わり、県内の市町村議会や県議会に働き掛けたり、県出身の国会議員に陳情活動などをしてきた。
今国会での情勢の変化に対して小泉さんは「私たちは今国会での導入を諦めてない。会期末まで頑張りたい」と話し「万が一、今国会で先送りされたとしても、市町村議会や国会議員への働き掛けを続けていきたい」と話す。(鈴木宏子)