医療用の装着型ロボット、HAL(ハル)を開発、販売する筑波大発ベンチャー「サイバーダイン」(つくば市学園南、社長・山海嘉之筑波大教授)と台湾の研究機関、大学など5者は4日、戦略的パートナーシップの提携を結んだ。同社が開発する、医療とロボット工学、情報技術などを融合したサイバニクス医療技術を台湾に展開すると共に、共同研究や教育プログラムなどを通じて次世代の専門家の育成やイノベーションの創出、社会実装につなげたいとする。
5者はサイバーダインと、山海社長が籍を置く筑波大学サイバニクス研究センターのほか、台湾バイオテクノロジー開発センター、輔仁大学、輔仁大学附属病院。サイバーダイン本社で調印式が開かれ、山海社長をはじめ、各機関の代表者らが出席した。
今後5者は共同で、バイオ・医療系テクノロジーとAI、ロボット、情報系テクノロジーを融合した技術を活用し、日台における医療・ヘルスケアサービスの向上を目指していくとし、脳神経・筋系の機能改善、機能再生を促進する装着型サイボーグ HALを用いた治療や、日常的にメディカル・ヘルスケアデータを収集・解析・AI処理する技術を台湾で展開し、社会実装を目指す。

サイバーダインは、筑波大サイバニクス研究センター長の山海教授が2004年に立ち上げたベンチャー企業で、同氏が開発した、人が体を動かそうとする際に脳が発する微弱な電気信号をセンターが読み取り動作を補助する動作支援ロボット HALを国内外に展開している。HALは、人間の皮膚につけたセンサーが感知する電気信号を、内蔵コンピューターが解析し、足や腰、腕などに着けた補助装置のモーターを作動させることで人の動作を助けるものだ。事故や病気、高齢などにより自力で動かすことができなくなった身体部位に対しする機能回復にもつながるという。
社会課題解決策、新たな輸出産業に
同社は近年、開発した技術の海外展開に力を入れており、2024年12月にはマレーシア政府系機関と7億円規模のサイバニクス製品導入契約を結び、同国に建設される東南アジア最大級のリハビリ施設「国立神経ロボット・サイバニクス・リハビリテーションセンター」に、異なる3タイプのHAL 65台を納入した。また、昨年11月には、国際協力機構(JICA)によるウクライナ復興支援の一環として、ロシアによる軍事侵攻が続く同国で負傷した市民らの機能回復訓練を目的に、HALを46台納入すると発表している。
山海社長は海外活動について「新しい領域の開拓は非常に重要」であるとし、「日本が直面する社会課題には、高齢化など世界に先んじていることがある。社会課題の解決は、税金を使い公的機関が取り組んできた分野。しかし、社会の変化が加速する中で、公的機関の力だけでは全てをカバーできない難しい状況が生まれている。課題解決のためには新しい経済のサイクルを発想しなければいけない。日本の経験を生かした解決方法をつくり出し、各国と相互に情報共有しながら社会変革をスピードアップしていけるよう、まずはアジアから開拓している」と話す。
今回の台湾とのパートナーシップ協定締結については「台湾も高齢化が進む国の一つ。日本でつくり上げてきた技術が、高齢化により台湾で起きている課題に直接介入し、支援できるような構造をつくることで、台湾の中の高齢化問題の解決にもつなげていきたいと考えている」とし、「早い段階で、社会課題の解決策を産業として各国の社会に導入することで、それが日本にとっての輸出産業に仕上げていくことができる。日本が世界に貢献できる新たな取り組みにしたい」考えを述べた。(柴田大輔)