【コラム・原拓真】最新のデータによれば、介護が必要になる主な原因の第2位は脳卒中で16.1%(第1位が認知症で16.6%)となっており、特に介護度が重い人の原因としては脳卒中が主原因になります。脳卒中は①脳梗塞②脳出血③くも膜下出血の3症状を合わせた呼び方です。
一番多いのは脳梗塞
その中で一番頻度が高いのが脳梗塞です。脳梗塞は、脳血管の閉塞により脳を構成する神経細胞が血流不足に陥り、最終的に死に至ってしまう疾患です。つまり脳組織に血流が供給されていない時間をいかに短縮するかが治療の最重要ポイントになります。
急性期脳梗塞に対する再灌流(さいかんりゅう)を目的とした治療として、2005年に血栓溶解療法(rt-PA静注)、2010年からカテーテルによる血栓回収療法が日本で認可され、現在までに10数年経過していますが、脳梗塞発症早期に病院にたどり着けないと、こうした最新の治療は受けられません。
今回は、最新のガイドラインを基に、適切な治療を受けるためのポイントを解説いたします。
血栓を溶解する療法
脳血管内で血管閉塞の原因になっている血栓を溶かす薬剤を点滴で投与する治療です(図1)。血栓溶解療法(rt-PA静注)は以下の条件で実施可能です。①発症から4.5時間以内、もしくは発症時刻が不明でもMRI画像所見で発症早期であると判断される場合、かつ②治療適応のチェックリストに禁忌項目がない場合。
ただし、症状が軽微な場合には投与に伴う脳出血リスク(約6%)と治療効果を天秤にかけて判断します。時間の制約がある治療ですので、いち早く病院に来院してもらうことが最も重要です。
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血栓を回収する療法
血管が血栓などで閉塞している部位に、直接カテーテルの細い管を誘導し、様々な機器を使用して機械的に血栓を回収してくる治療です(図2)。こちらは、現在も最新のエビデンスが日々更新されている状況ですが、簡単にまとめると以下の条件で実施可能です。①発症から24時間以内の内頚動脈または中大脳動脈近位部閉塞、もしくは②その他の頭蓋内血管の閉塞の場合は画像・臨床初見に応じる。
こちらの治療も、血栓溶解療法同様に6%前後の脳出血リスクがあります。治療適応の時間的制約は血栓溶解療法と比して軽いものの、脳血流再開までの時間経過が機能予後に影響することは明らかです。
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急性期治療の現状
脳梗塞急性期治療は進歩し、その効果も明白ですが、実際に急性期治療を受けられた患者さんが脳梗塞患者さん全体の10%を上回ることは、当院のデータ上も無く、早期に来院していれば急性期治療が可能だったと考えられ、悔やまれるケースは今も数多く存在します。それは、つくば市内のみならず茨城県、ひいては日本全体の問題です。
治療法の進歩は相当なレベルに達していますが、最大の問題は脳梗塞患者さんをどのように早期発見し搬送してもらうかです。ベストな治療をすべての患者さんが受けられるように、現在県内で始まっている取り組みがあります。
患者搬送ネットワーク
上記のような急性期治療を実施できる病院は県内でも限られてきます。救急受け入れ患者数も各病院で限界があり、急性期脳卒中治療の質向上には各地域でのネットワーク構築が欠かせません。当院や県内の脳梗塞急性期治療が可能な病院の多くでは、県の協力のもと数年前より医師間でのスマートフォンを用いた患者情報共有アプリを使用しています(図3)。
従来であれば患者さんの情報は電話でやり取りするしかなく、情報の精度は著しく低下していました。しかし、こうしたICTツールの使用で他院の患者さんの画像所見も瞬時に確認可能となり、脳梗塞急性期治療が可能かどうか、急いで搬送すべきかどうかの判断がしやすくなっています。
県内に多く存在する医師少数地域であっても、こうした遠隔連携アプリなどを使用することで、脳梗塞急性期治療へのより迅速なアクセスが可能になりつつあります。こうしたICTツールの導入は「医師の働き方改革」の問題の解決にも貢献しており、今後の医療には欠かせません。
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早期発見と早い救急要請が大事
しかし、最終的に重要なのは「第一発見者が脳卒中と疑って119を押せるか?」です。脳卒中治療の質向上には早期発見が欠かせません。我々医療者は今後も様々なツール、機会を利用して一般の方々に向けて、脳卒中早期発見に必要な知識の情報発信を続けていくことが求められていると思います。
脳卒中患者さんを救うキーパーソンは我々ではなく、一番身近におられるご家族や友人など皆さん自身です。私たちみんなが脳卒中診療チームです。今後もより良い脳卒中診療を目指してご理解、ご協力をお願いします。(筑波メディカルセンター 脳神経外科診療科長)