【コラム・三橋俊雄】江戸時代、大阪の儒学者 広瀬旭荘(ぎょくそう、1807~1863)は「九桂草堂(きゅうけいそうどう)随筆」で、「京の人は細成り(細かく倹約である)、大坂の人は貧なり、江戸の人は夸(か)なり(実を捨てて名を得る)」と、また、滝沢馬琴(1767~1848)も「大坂人の気質は、京四分に江戸六分、倹は京に学び、活は江戸に習う」と述べており、毎日の生活の中でモノを使い切る「しまつ」という気質は、京都人の特質であると言われてきました。
今回は、記憶の中の「京の暮らし」調査(2001)において、府内の高齢者115人、上京・中京・下京区の中学生の親211人から「しまつ」の事例についてお伺いした、その一部をご紹介します。
(1)米のとぎ汁のしまつ(野菜などのあく抜き/茶わんを洗う/シーツなどののり付け/お花や野菜にやる)
(2)水のしまつ(流し水はしない/お米を洗ったり菜っぱを洗ったりした水は「上バケツ」にため、「下バケツ」に移して雑巾洗いや庭にまくなど、もう一度活用する/牛乳の瓶を洗った後の水は植木にまく/洗濯のすすぎ水や風呂の残り湯は水洗トイレに使う/夕立の時、とゆ(とよ)の水をバケツにためておき、最初の水は夕方の水まきに使い、水がきれいになってきたら雑巾がけ用に使う)
(3)食材のしまつ(残ったご飯をのりにする/使ったお茶の葉でつくだ煮をつくる/糠(ぬか)で体を洗う/米糠を袋に入れて拭き掃除に使う/お茶の葉を畳にまいて掃除をする/出しがらの昆布や花かつおとじゃこで佃煮をつくる/卵の殻で茶碗やポット、ビンを洗う/コーヒー豆を乾かし脱臭剤として下駄箱に入れる/ネギを使う時、根っこは植えて、芽が出たら食べる/米ぬかで柱や板の間を磨く/焼き魚の骨はお湯やお茶でスープにする)
(4)着物や布のしまつ(着物の残りで前掛けや座布団を作る/長じゅばんをさいてはたきを作る/着なくなったTシャツなどを小さく切って油汚れした鍋や換気扇、靴みがきなどに使う/セーターをほどいて洗い、蒸気でのばして編み替える/衣類は人目によほどでない限り繕って着る/亡くなった方の着物を傘の生地に使い、片見分けとしてお配りする/浴衣など木綿の古布で赤ちゃんのおしめを作る)
(5)紙のしまつ(使用後の障子紙を他の用途に使う/和菓子をのせた懐紙はもう一度、テーブルを拭くなどに使う/デパートの包み紙や裏の白いチラシ、パンフレットなどはとじて計算帳やメモ帳にする/カレンダーの裏は子どものお絵かき用に/新聞紙をぬらし細かくちぎって「通り庭(玄関から奥の庭まで続く土間)」の掃除に使う)
(6)その他(髪の毛を残しておいて針山の中身にする/割り箸やかまぼこの板は取っておく)、など。
上記の「上バケツ」は「あか(銅製)」のバケツで、内側に錫(すず)メッキがしてありました。また、京都では「掃除は白足袋を履いてする」「道路の掃除は一掃きだけ隣の家にくいこむように掃く」「お茶、お菓子、座布団などはお客様用を用意しておく」など、「しまつ」と同時に、言わず語らずの京都ならではの約束事も多くありました。(ソーシャルデザイナー)