産業技術総合研究所(産総研)の発明した「湿度変動電池」が、電子回路を安定して駆動できるまでの出力向上に成功した。人間拡張研究センターの駒崎友亮主任研究員が22日、同つくば中央事業所に新型電池を組み込んだワイヤレスセンサーを持ち込んでお披露目した。
湿度変動電池は昼夜の湿度変化を利用して発電を行う。濃度を変えた2種の塩化リチウム水溶液を膜で仕切ると、空気に接した開放側と底部の密閉側に電極ができる。開放側からの水蒸気の発散・吸収により湿度が変化することで、水溶液間に濃度差が生じ電力を生み出す原理による。
太陽光発電のような大出力は得られないが、暗所でも使用でき電池交換の手間もかからない。このため、道路下部工の暗がりに監視装置を設置してインフラモニタリングを行うなどの際、発電素子に使えそうと有望視された。産総研が2021年に発明し、開発に取り組んできた。

研究チームが今回開発した電池は、一辺が35ミリの正方形で厚さ5ミリ、重量5グラムの軽量サイズ。水溶液を仕切る部材にセラミック固体電解質膜を使ったのが大きな改良点だ。
ポリマー系陽イオン交換膜を使った従来型の電池は発電出力が小さく、電子回路を動かすまでに至らなかった。膜を通し水が移動し自己放電が起こってしまうため、濃度差が減少し電圧が低下してしまった。
新たに目を付けたセラミック固体電解質膜は、EV車への搭載競争が起こっている全固体電池に用いられる注目の先端材料。水を透過せず自己放電もないとみられた。
実験では、4時間ごとに湿度30%と90%を繰り返す環境下で、膜面積1平方センチ当たり436マイクロワットの最大出力が得られた。従来型の68倍に相当する値だ。コストの問題があるが、これで実用化に展望が開けた。
新開発の湿度変動電池を屋外に設置して発電出力を計測すると、昼夜の温度差を利用して3カ月以上継続して発電し、最大出力は348マイクロワット、平均出力は17.5マイクロワットだった。この平均出力は、省電力なセンサーや無線通信モジュールを間欠的に駆動させることが可能な値だった。
研究チームは湿度変動電池を電源とするワイヤレスセンサーも開発した。これを屋外に設置しデータを取得すると、2.5ボルトから2.8ボルトに到達したバッテリー電圧は4カ月以上、安定して動作した。世界で初めての駆動の成功例という。
しかし、インフラモニタリングなどへの社会実装を考えると「劣化が起こり数カ月しか持たないようでは実用化にはまだまだ。5年、10年交換なしで使えるよう耐久性向上の研究が必要になる」と駒崎主任研究員。電解質膜については、全固体電池の普及次第で大きなコストダウンが期待できるということだ。(相澤冬樹)