水曜日, 11月 13, 2024
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ブリキの缶、物語のはじまり《続・平熱日記》169

【コラム・斉藤裕之】必要に迫られて2階にちょっと手を入れることになった。2部屋に仕切られていた壁を抜いて一続きの部屋にする。そう聞くと大変そうだが、SDGsを先取りした我が家の壁はビスで留められた針葉樹合板でできているので、インパクトドライバーで作業すること小1時間、あっさりと壁は取り払われた。

それはそうと、部屋の隅に積み上げられた透明の衣装ケースや中身のよくわからない段ボールをどうしたものか。

捨てるもの、だれかに使ってもらえそうなもの、とりあえず保留…。もう何年も開けたことがないということは、全て処分してしまっても多分困らないのだが…。しかし、これまでに何度も同じようなことが繰り返されて、目の前の衣類や段ボールの中身は生き残ってきたはずだ。

ある段ボールにはカセットテープ、それから年賀状や手紙の入った箱。それから捨てられないのが、子供たちの描いた絵、ノート、賞状など。そんな子供たちの思い出の箱から、ブリキの缶を見つけた。開けてみると、特に何ということはない小さな人形やシール、キャラクターのカードなどが入っている。

若いころ住んでいた東京の西の街に、「ブリキ缶」というカフェがあった。文字通りアンティークの缶が飾ってある小さなカフェで、同じ通りには古着屋や古書店などもあって、田舎者の私が当時のカウンターカルチャーに出会った場所だ。確かに、ブリキの缶はキッチュなデザインや色が時間と共に古びていく感じがなんともいえない味となって、鑑賞に値するオブジェとなりうるし、今でも出かけた先でお土産物を選ぶときなどは意外に缶のデザインに引かれて買ってしまう自分がいる。

手紙、裁縫道具、領収書、写真

ドラマや映画では、この手の缶の中身が重要な手掛かりになったり、お宝が隠されているシーンを見かける。多分、ブリキの缶は何かをしまっておくのに「ちょうどいい」のだ。大きさといい素材といい、それから少し安っぽいところとか。

もし缶がなかったら、お宝も思い出も秘密も埋めたり隠したりできなかったかもしれない。そして、ブリキの缶は物語の始まり、きっかけにはもってこいの小道具。昔はいただいたクッキーを食べた後の缶やノリの缶なんかは何かの入れ物にしてとっておいたものだ。

というか、何かの入れ物になるかもしれないと思って捨てられないでいたというか。するとそのうち、ちょうどいいものがちょうどいい缶に収まる。手紙、裁縫道具、領収書、写真…。私も何かサプライズなものを缶にしまっておこうか、宝の地図とか…。おや、この缶は? 台所の棚にある赤い缶を開けたら、古い落花生が出てきた。

ひと続きになった部屋には低くなった陽の光が差し込んで心地よい。子供たちの思い出の缶はそのまま元の箱に戻すことにした。(画家)

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