【コラム・平野国美】コラム23「…今『老いるショック』」(7月20日掲載)を読まれた仏教関係者と話す機会がありました。「仏教の世界では老いを尊ぶ文化があり、大僧正は高齢の方が就任されることが多いです。昔ほどではありませんが、年上を敬う風潮は残っており、老いるショックは少ないと思います」とのことでした。
大僧正は僧侶階級制度における最高位の称号であり、仏教では修行と経験を積んだ年長僧侶が尊敬される存在です。実際、多くの宗派で調べてみると、大僧正は80代、90代を超えた方が就任するのが一般的です。
その方は「見た目が枯れることで独特の風格が出ます。説法時の低く掠(かす)れた声は、重要な教えを伝えているかのように、聞き手の注意を引きます。話される言葉には、ささいなことでも重大な意味があるように感じられ、聞き手を考えさせます。実際は分かりませんが…」とも述べていました。
僧侶は他の職種に比べて長寿であるとされ、その理由として、食習慣の徹底、瞑想(めいそう)、早寝早起き、腹式呼吸、日常の修業=適度な運動―などが挙げられます。また、老後の自分の存在が尊ばれる文化も、長寿に寄与しているのかもしれません。
生きる長さや量、そして質も
あらゆる病気のコントロールが長寿の一因であると考えられています。1935年の東京朝日新聞には「人生は五十年より短い日本人の命」とあり、平均寿命が男性44歳、女性46歳と書かれていました。
ところが、1959年の朝日新聞では、男性64.9歳、女性69.4歳と報じられ、寿命が延びた理由として、新薬の開発と治療方法の進歩が挙げられています。ガンや高血圧などによる死亡率は増加しているが、結核、心臓病、肝硬変などは減少し、厚生省は「女性は『人生70歳』を達成する見込み」と言っている、と。
健康と長寿を追求した結果、2024年の今、年金問題や少子高齢化問題が生じています。医学界や厚生労働省は引き続き寿命を延ばす努力を続けるでしょう。しかし、訪問診療の仕事で高齢者と接していると、彼らが必ずしも長寿を喜んでいないことに気づきます。理由は様々なのですが、生きる長さや量だけでなく、質も重視しなければなりません。(訪問診療医師)