第106回全国高校野球茨城大会が6日開幕した。霞ケ浦、土浦日大、常総学院の名監督から熱い話を聞かせてもらった。2019年から始まった県南強豪チームの監督インタビューは今年で6回目を迎える。
1回目は霞ケ浦の髙橋祐二監督。霞ケ浦は、昨秋は鹿島学園に、今春はつくば秀英にそれぞれ準々決勝で敗れた。また、昨夏は後にプロ入りした木村優人投手を擁し、土浦日大との決勝戦では8回終了時点まで3対0で勝っていたものの、9回に逆転負けを喫した。今夏を迎えるにあたり心境を語ってもらった。
冷静であればしのげた
ーまず去年の決勝戦のことを聞かせてください。
高橋 決勝戦で先発したエースの木村優人は兄2人(翔太=東洋大―日本通運、英二)が決勝戦の延長15回、9対10で土浦日大に負けたのを小学6年生の時に現場で見ていたのです。兄のリベンジを果たすべく三兄弟で一番下の優人が向かっていって、3対0で9回を迎えて、あと1イニングだったのですがね。
9回のマウンドに上がるときにキャッチャーの安藤早駆(千葉商科大1年)を呼んで、7番バッターから始まる下位は変化球を連投して、上位になったら真っ直ぐ中心で行くよう指示をしたのですが、真逆になってしまった。
ほかにも一死一塁から出したフォアボール…。
二死一、二塁からの守備体系の指示を仕切れなかったのも悔やまれます。3対2で勝っていて二死一、二塁。バッター4番。一塁線と三塁線をガッチリ詰めて、一二塁間、三遊間を抜かれるのは良しとする。外野は深く守らせておいて一塁ランナーを返さない守備体系をするという定石通りの守り方をしていなくて、三塁線を抜かれて同点に追いつかれました。定石通りに守っていればサードゴロで試合終了だったということは反省すべき点だなと思います。ベンチでもっと冷静にいろんな指示をしなくてはならないんですが、木村への気持ちの切り替えの指示や励ますのに必死で、守備体系の指示が回りませんでした。冷静であればしのげたので悔やまれます。
木村は大会中にデッドボールを受けて本調子でない部分がありながらも、彼なりに頑張って勝負所は一生懸命に投げてくれました。決勝も悪いながらも8イニングを4安打無失点です。あとアウト3つだったんですけどね。
ーありがとうございます。木村君はその後、U-18日本代表に選出され、千葉ロッテからドラフト3位指名されプロ入りを果たしましたが、連絡はありますか。
高橋 今日のゲーム(6月28日)で登板予定だったんですが、雨で流れて来週先発しますとさっき連絡がありました。5月17日のイースタンリーグで初登板の時に見たときには着実に良くなっていました。体もびっくりするくらいでかくなっていて、5カ月で9キロも増量していました。3食しっかり食べて、暇さえあれば何か食べろと言われているみたいですが、臀部や足の太さは別人のようになっていますね。
春は谷底にあった
ー新チームのことについて伺います。春は準々決勝でつくば秀英に敗れました。振り返って所感などをお聞かせください。
高橋 春はチーム状態が心身共に疲弊していましたので勝ち上がれる状態ではなかったです。
ーどういうことですか。中心選手が引っ張っていけていないとか。
高橋 今年のチームは強力なリーダーシップを執れる選手が不在で、選手同士で気持ちを高め合ったり励まし合ったりという感じではなくおとなしい選手が多いのです。
チームの一体感とか、秋から冬の反省を生かしたきめ細かい野球をやっていく領域に達していませんでした。上手い下手じゃなくて、準備とか思考力を大事にしていってこそ初めてチームが出来上がるはずなのに、大事なところを無意識なまま感覚で野球をしているので、春の大会はその谷底にあった状態です。
最後の夏に賭ける想いを爆発させてほしい
ー最近はどうなんですか。
高橋 私が夏の大会モードにするために気持ちを乗せていくように仕向けたら多少は上がっていくのですが、良い日もあれば、一転して気分が乗ってない悪い日もある。夏まで残りわずかなのに危機感を覚えています。
ー1年生から出場している羽成朔太郎選手や雲井脩斗選手がチームを引っ張っていっているのではないのですか。
高橋 昨年の中心選手だった木村と新保玖和(仙台大1年)が抜けた分、羽成と雲井が去年よりも良くなればそれだけでカバーできるのですが正直言って物足りません。もう少し最後の夏に賭ける想いを爆発させて、夏にはチームを精神的にも技術的にも牽引して欲しい。出来なくてもいいから一生懸命に頑張って欲しい。彼らには期待しています。
試合つくれる投手が3人
ー今年のピッチャー陣はどうですか。
高橋 飛び抜けて良いプロ注目という選手はいませんが、左腕の市村才樹(2年)をはじめとして試合をつくれる投手が3人います。あと、何人かをベンチに入れる予定です。
ー春に背番号1だった乾健斗投手はベンチに入って来ますか。
高橋 怪我明けですが復調してきました。市村、乾、眞仲唯歩は確定です。眞仲はサード兼任。投手陣にはマウンド上で打者に向かっていく闘争心を見せてくれることを期待しています。
1点の重みをずっと説いてきた
ー今年のチームの特徴としては一言で表すと…。
高橋 先ほど話したことと正反対になりますが、今年はチームの団結力で束になって戦います。突出した選手がいない分、一つにまとまって戦うしかありません。だからこそ、最後の最後で団結力を発揮できるよう、3年生には期待しています。チームを引っ張って欲しいと思っています。それから、1点の大切さや重みのことを1年間ずっと選手に説いているのですが、これだけ時間を割いたので、この1点で負けてしまうんだということを真剣に感じ取って、夏にはチームが大化けしてくれるのではないかと、願望混じりですが感じています(笑)。
良いピッチャーは飛ばなくなる
ー閑話休題。今年から高校野球の金属バットに反発力を抑える新基準が導入されました。導入後どうですか。
高橋 良いピッチャーになればなるほどボールが飛ばなくなるので打つのは厳しくなると思います。フライになったら絶対に伸びませんので、ライナーで放り込むしかありません。
ーしっかりとコンタクトすれば前のバットと変わらないという話も聞きますが。
高橋 芯で捉えれば飛びますが、詰まったら終わりです。先っぽであればまだ可能性はありますが。泳ぎながら前でさばく場合は可能性があります。ただし、木製バットの場合はインサイドアウトで引きつけて打つため、前で先っぽで打つというのは正反対なので、選手が将来木製バットでやる場合とは益々違う打ち方になるでしょうね。
ー最後に、夏に向けての意気込みをお聞かせ願います。
初戦から一戦一戦勝利を積み重ねて、去年の雪辱を果たしたい。そして甲子園で初めて校歌を歌うことが目標です。勝ちにこだわるというよりも、俯瞰(ふかん)して冷静に、時に無欲に選手の可能性を信じる。意外とこういう肩の力が抜けた方が結果は付いてくるのかもしれないなって最近感じています。(聞き手・伊達康)
続く