月曜日, 7月 8, 2024
ホームコラム金魚を見て老境を知る《看取り医者は見た!》22

金魚を見て老境を知る《看取り医者は見た!》22

【コラム・平野国美】10年ほど前、治子さんと初めてお会いしたときは、夫の介護の最中でした。足腰の痛みに耐えながら、最期まで夫君に尽くされました。そして今度は、患者さんとして再会しました。見た目はあのころとほとんど変わらないのですが、足を少し引きずって歩かれていました。

「今度は私がお世話になります。申し訳ございません」。性格が真面目なので、人の世話はするが、世話されるのは申し訳ないと思うようです。遠方に住む家族が介護サービスを受けるよう説得しましたが「人様のお世話になるなんて…」と言われ、困っていました。

最近は体の衰えもあり、時々、転倒するようです。転んだ痛み以上に、精神的な苦痛を感じるようです。そして、最近は頭も少しぼんやりとしてきたようです。10年ほど前、御主人の介護をしていたころは、しっかりとされており、診察のいい間に紅茶をいれてもらったものでした。

今日もそのころと同じように「紅茶を入れますね」と、台所に向かったのですが、10分ほどしても戻ってきません。台所をのぞいてみると、ぼんやりと立ち尽くしています。「治子さん」と声をかけると、「せんせい、私、一体何をしに台所にきたのかしら」と言うのです。慰めながら椅子に座らせると「なんでこんなになってしまったのかな?」と、1時間も2時間も泣き続けるのです。

自分の老いを理解する知性

私は帰るわけにもいかず、治子さんと向かい合っていると、その肩越しに金魚の水槽を見つけました。水槽の中の1匹の金魚が腹を水面に向けたまま浮いています。微動だにしないので、死んでいるのかと思ったのですが、突然、動き出して、姿勢を立て直そうとしました。

「生きているのか」と眺めていると、また、船が転覆したように、腹を水面に出して浮いてしまうのです。何だろうと、スマホに「金魚、逆さま」と入力して調べると、「転覆病」「原因は魚の浮袋の機能不全」「便秘による腸の膨満または加齢によるもの」など、いろいろ出てきました。

どうやら、人間でいう「体調不良」「寝たきり」に近いものと思われます。いつの間にか、治子さんも、水槽の中を心配そうに見ています。「転覆病っていうんですって」と、今知ったばかりのことを聞かせると、「そうですか。私だけじゃないんですね、苦しんでいるのは」とうなずかれました。

老境(ろうきょう)と言う言葉があります。人生の晩年に差し掛かった老人の境遇や心境といった意味です。しかしこの言葉には、もっと深い意味があると思うのです。

老境に入るとは、その方のこれまでの生き方や心境を表現していると思います。確かに、治子さんは認知症の影が見え始めています。しかし、転覆する金魚の姿を見て、自分の老いを理解する奥深さ、知性がある気がするのです。その後、2人で小1時間ほど老境の話をしました。(訪問診療医師)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

4 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

4 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

初回の失点響く 土浦湖北、牛久栄進に敗れる【高校野球茨城’24】

第106回全国高校野球茨城大会は2日目の7日、J:COMスタジアム土浦での第2試合で、土浦湖北が牛久栄進と対戦し7-9で敗れた。2020年の独自大会では4校優勝の一角を占めた強豪校が、1回戦で早くも姿を消すことになった。 土浦湖北は立ち上がりの乱れが尾を引いた。1回表は2四球と3失策により無安打のまま3失点。3回表には1安打と2失策で1死満塁とされ、次打者の三塁ゴロはベースに当たってバウンドが変わり2点適時打、その後もエラーと犠牲フライで1点ずつを失い、この時点で0-7と大きく引き離されてしまう。 反撃を開始したのは3回裏。9番 笹島琉星の左前打を皮切りに、1番 柿沼颯馬の四球と3番 真家陽大の右前打で1死満塁とすると、4番 来栖孝保の左前打と6番 奥畑優悟の左前二塁打などで4-7と追い上げた。 その後はともに2点ずつを加え、7回裏には逆転機が到来。2四死球と捕手の打撃妨害で2死満塁とし、打席には8番の船見勇飛。急きょベンチ入りが決まり、途中出場を果たした1年生だ。「1年で初めて大きい大会に出て緊張したが、守備機会や打席を経てだんだん楽にプレーできるようになってきた。この打席では粘っていけたらと思ったが、打ち損じてしまった」。結果は一塁ゴロで、チャンスを生かすことはできなかった。 8回裏には真家主将がこの日3本目のヒット。「変化球が外れたので直球にヤマを張り、ドンピシャだった」とのコメント通り、思い切りスイングすると打球は右越えの三塁打。2点差に追い上げるが、反撃もここまでだった。 「相手投手は手強く、点はそう取れないだろうと思ったが、よく追い上げてくれた」と土浦湖北の土佐一成監督。今年は3年生が4人しかいなかったが、「自分たちは元気とノリが持ち味」と話す真家主将を中心に、去年までの勢いを持続して頑張ってくれたという。「エラーは痛かったが、この悔しい気持ちを下級生が引き継ぎ、秋以降また頑張ってくれたら」と土佐監督は願っている。(池田充雄)

最後の夏を締めくくる つくば工科、取手松陽に敗退【高校野球茨城’24】

第106回全国高校野球茨城大会は2日目の7日、J:COMスタジアム土浦での第2試合で、つくば工科・つくばサイエンスの合同チームが取手松陽と対戦。0-8と7回コールドで負けを喫した。つくば工科としての大会出場はこの試合が最後となった。 昨年の校名変更により3年生5人はつくば工科、1・2年生6人はつくばサイエンスとして出場。ユニフォームも異なるが、上級生と下級生が気持ちを一つにして最後の夏に挑んだ。 初回は内外野の連携で相手走者をホームで刺殺するなど、これまでの練習の成果を発揮することができた。だが2回に三塁打にエラーがからんで1点を失うと、3回には3安打と四球押し出しや捕逸などで一挙5点を奪われ、試合の流れは相手に大きく傾いた。先発投手の矢口遼真は「ミスからリズムを崩してしまった。自分の力がなかった」と悔やむ。 その後は何とか一矢報いようと、5回には矢口が中前へチーム初ヒットを放つ。矢口は3回途中で浅田新にマウンドを譲っていたが、6回には自ら志願して再びマウンドへ。「浅田も疲れが見えてきたのと、最後はエースを背負っている自分が抑えなくては」との思いだったという。 7回には先頭打者の坂田悠真が右翼へチーム2本目のヒットを放ち、ベンチを鼓舞する。「ここで2点取らないとコールドになるので、絶対に打ってやると思い、アウトコースのまっすぐを叩いた。練習すれば成果が出ることを、プレーで後輩に見せられたと思う」と坂田主将。 佐藤将光監督は「エラーでの失点は痛かったが、いままでは5回コールドで負けていたところを、要所を締め7回まで粘り強く戦ってくれた。3年がヒットも打って次につなげ、1・2年に背中を見せてくれた」と選手を称えた。「今の3年は学校が変わることに加え、部員の少なさでも苦労してきた世代。それを乗り越えて頑張ってきたからこそ、こういう試合ができた」 カリキュラムが変わることで、3年生と1・2年生では練習時間にギャップができるなどの苦労もあった。だが3年生が遅くまで後輩の練習に付き合うことでカバーしてきたという。坂田主将は「チームをまとめるのは大変だったが、最終的にいいゲームができ、納得いくプレーも出せた。小学校から野球を始めたが、高校が一番楽しかった。後輩たちにも一生懸命やる楽しさを味わってほしい」と後を託した。(池田充雄)

大会初、女子部員がシートノック 土浦二、1回戦で敗れる【高校野球茨城’24】

第106回全国高校野球茨城大会初日の6日、開会式直後のノーブルスタジアム水戸で1回戦第1試合が行われた。土浦二高が下妻二高と対戦したが、投打で圧倒され6回コールド0-10で敗れた。試合前には土浦二高女子部員の小林こと(2年)がノッカーとしてベンチ入りし、茨城大会で初となるシートノックを務めた。  1 2 3 4 5 6 土浦二 0 0 0 0 0 0  0下妻二 0 3 0 3 3 1× 10(6回コールド) 試合は、土浦二高エースの鈴木晴人が先発したが、2回2死から四球を挟み4連打で3失点。4回にも3連打で3点追加され6点をリードされた。5回からは橋本真直、佐藤剛志が登板したが、押し出しを含み4つの四球でさらに3点を追加された。 打線は1年生で4番の竹内新世が2安打を放ち、一人気を吐くが、下妻二高先発の佐藤天馬に抑えられた。 土浦二高の相良真博監督は「9回までやりたかったが、5回で終わらなかったのは5回途中から再びマウンドに上がった鈴木のお陰」と鈴木の健闘をたたえた。 今大会、3年生部員は鈴木を含め3人のみ。エースで主将の鈴木晴人は「アウトコース中心でたまにインコースを使った。甘い球はいかなかったし自分の出せる力を出し、やれることはやった。相手の実力が上だった。自分はチームで一番頑張ったし自信を持ってやってきた。力を出し切ったので悔いはない」と話した。 「終わってから実感」 一方、茨城大会で女子部員として初めてシートノックを務めた小林は「緊張はなかったが終わってから実感が湧いた。9回までやりたかったが打たれて負けたのだから仕方ない。けが人も多かったができることはやれた。来年は9回まで戦えるのが目標」と語った。 小林は土浦二中に入り中学から野球を始めた。高校で辞めるつもりだったが相良監督から誘われ、野球を続ける決心をした。硬式球の難しさを感じながら野球を楽しんでいるという。地元の高校が参加しているPCリーグの試合に選手として出場している。(高橋浩一)

夏の高校野球茨城大会開幕 95校88チームが行進

第106回全国高校野球茨城大会が6日、水戸市のノーブルホームスタジアム水戸で開幕し、95校88チームの選手らが行進した。甲子園への切符を賭けた熱戦が27日まで繰り広げられる。 開会式は午前9時、大洗高校マーチングバンド部ブルーホークスの演奏が響き渡る中、水戸女子高校の生徒がプラカードを掲げ、昨年優勝の土浦日大を先頭に元気良く足並みそろえて入場した。スタンドからは大きな拍手が響き渡った。 県高校野球連盟の深谷靖会長は「チーム全員で困難を乗り越え、仲間と共に過ごす時間や互いに励まし合いながら成長する過程も大切。高校野球を通じて得られる経験は勝敗を通じて大きな財産になる。日々の練習の成果を存分に発揮して高校野球の魅力を発信してほしい。感謝の気持ちを忘れず全力でプレーしてほしい」と述べた。 選手宣誓は古河二高の池田魁主将が「高校野球のFマークに込められたファイト、フレンドシップ、フェアプレーの精神の下、私たちはこの晴れ舞台で最高のパフォーマンスをするために努力してきました。互いに支え合いながら友情を深め、多くの方たちに支えられて野球に打ち込めたことに感謝の気持ちでいっぱいです。私たち高校球児は野球が出来ることに感謝し、支えてくれる方々の思いを胸に精一杯、全力で白球を追い続けることを誓います」と力強く宣言した。 昨年の優勝校、土浦日大の中本佳吾主将は「いよいよ夏が来た。昨年の記録を塗り替えて、チームが一つになり茨城を制覇したい」、準優勝の霞ケ浦高校、市川晟太主将は「昨年悔しい負け方をしたので、その悔しさを胸にチーム一丸で、チーム力を発揮して甲子園で校歌を歌いたい」とそれぞれ意気込みを語った。 開会式の司会は鉾田一高3年の麻生さくらさんと水戸商業3年の長嶋美和さんが務めた。2人とも「最初はどうなるかと緊張したけど、2人力を合わせて頑張り、自分なりに上手く出来たし、いい経験になった」と話した。 プラカードを掲げた水戸女子高3年で生徒会長の菊池葉月さんは「昨年開会式をスタンドから見て興味が湧いた。観客が多く練習の時より緊張したけど練習通り出来て良かった。いい思い出が出来たしやり切った」と話した。 (高橋浩一)