オフシーズンの新商品に「焼き芋ボール」
焼き芋の移動販売を昨年12月から始めた筑波大大学院1年の金龍泰さん(24)と同大4年の田邉渓太さん(23)が、焼き芋を使った新商品を販売している。金さんは工学システム、田邉さんは物理学を専攻する理系学生だ。
25、26日につくばセンタービル1階の貸オフィスco-en(コーエン)=同市吾妻=で開催されている同市上郷地区の物産展「EAT and kamiGO(イートアンドカミゴー)」で販売中。
「焼き芋を焼く温度は高すぎても低すぎてもダメ。ちょうどいい焦げ感を出すのも難しい」と、金さんが焼き芋作りの奥深さを語る。
金さんは昨年12月に田邉さんと、同市上郷でブルーベリーの観光農園やカフェを運営する「アオニサイファーム」(青木真矢代表)の事業の一環として「阿吽(あうん)の焼き芋屋」を始めた。市内を中心に県内外のイベントなどで、改良した軽バンを使った焼き芋の移動販売を手掛ける。
今回の物産展では、焼き芋のオフシーズンに向けた新商品として、すりつぶした焼き芋に片栗粉を練り込み、一口サイズに丸めて油で揚げた「焼き芋ボール」を考案した。焼き芋の風味を生かしつつ「外はカリッと、中はもっちり。サクッと食べられる」ように意識した。
「使用するのは上郷の農家さんが作る芋。美味しいものを作ることで、私たちの食を支える農家さんの魅力を伝えていきたい」と2人は思いを語る。
焼き芋販売は「アオニサイファーム」の事業だが、金さんと田邉さんが収支計画を立て、売り上げの中で経費を賄っている。「青木さんには好きにやっていいと言ってもらっている。困った時に相談に乗ってくれる」
「選挙割」「つくばクエスト」を企画
金さんと田邉さんは、若年層の投票率向上を目的に活動する学生団体「ドットジェイピーつくば支部」(現在は同水戸支部に統合)のメンバーとして、投票すると提携する店舗で割引を受けることができる「選挙割」や、街歩きイベント「つくばクエスト」などの企画に携わってきた。
その後も、地元の農家や飲食店に協力して食品開発をするなど、地域と関わる活動に力を注いできた。その中で出会ったのが、情報誌の作成などを通じて農業の魅力を発信している「アオニサイファーム」の青木代表だった。地元の上郷や周辺地域で作られるサツマイモを使った焼き芋販売は、青木さんから誘われスタートさせた。
焼き方のパターンを実験
「普通の焼き芋じゃダメ、こだわりたいと思った」と話す金さんは「夜通し焼いて、美味しい焼き方を研究した」と販売に向けた努力を振り返る。田邉さんは「あえて意識はしていないが、いろいろな焼き方のパターンを実験しているのは理系的かもしれない。自分たちにとって焼き芋作りは初めての世界。知らない分野だからこその面白さがある」と話す。
改良した軽バンで各地のイベントに出店すると、「おいしい、あまい。焼き芋の質がいい」という声を掛けられた。田邉さんは「その声は僕らにとってもうれしいし、農家さんに伝えると喜んでくれる。僕らの焼き方がよかったというよりも、農家さんの力だと思っている。農家さんが買い手から意見を聞くことは難しいかもしれない。わたしたちが伝えられるといい」と、生産者と消費者の媒介者としての役目があると話す。「行った先で売れるかわからない難しさがあるし、コンビニやスーパーで売っている安い焼き芋との値段の差をお客さんにどう納得してもらえるか。見せ方を含めて考えていかなければ」と今後の課題も浮かんできた。
地域の魅力発信したい
金さんは「これまでに(選挙割など)イベントを企画はしてきたが、作るのは生産者の方に頼ってきた。焼き芋は初めて自分が作る側に立つ機会。ものづくりの奥深さにも気付かされた。農家のことを伝えるという意味での焼き芋。そのためにも一番美味しいものを作っていきたい」と今後について思いを語る。
田邉さんは「僕は宮崎出身。つくばに来て地域に関わる中で、自分たちなりに面白いと感じる地域の魅力がある。魅力的な方たちとの出会いもあった。大学にいると、つくばは学生の街、研究の街というイメージが先行していたが、一歩外に出ると田園があり、素朴な風景が広がっている。そのコントラストに魅力を感じる。活動を通じて多くの方と出会い、それぞれの価値観や、地域のことを知る機会になった。地域の魅力の発信と、実際にお客さんが来るためにはどうするかを考えていきたい」と話す。
2人に声を掛けた青木さんは「2人は地域を盛り上げようと意欲的。自分たちで考える姿を見守りながら、焼き芋をきっかけにさらに活動を展開していけたら。つくばの中心地域と農村部を繋いでいきたい。いろいろな人が関わることで、地域がさらに盛り上がっていくと思う」と話す。(柴田大輔)
◆「阿吽の焼き芋屋」の出店予定は公式インスタグラム「阿吽の焼き芋屋」へ。