木曜日, 4月 3, 2025
ホームつくばカイメンの自衛手段でフジツボ付着を防ぐ 世界大会に挑む筑波大学生サークル

カイメンの自衛手段でフジツボ付着を防ぐ 世界大会に挑む筑波大学生サークル

生物学と工学の学際的研究分野である「合成生物学」を用いて、地球温暖化の問題を解決しようとする学生サークルが筑波大学(つくば市天王台)で活動している。4月に発足した「iGEM TSUKUBA(アイジェムつくば)」、生物学類2年の吉本賢一郎さんが代表を務める。

iGEMはマサチューセッツ工科大学(MIT、米国マサチューセッツ州)で毎年11月に行われる合成生物学の世界大会。世界中から約300チーム、約6000人の学生が集まり、研究成果を発表する。日本からは東京大学(東京)、京都大学(京都)、早稲田大学(東京)などが毎年参加しているという。これに筑波大学チームとして参加しようと、今年度から一般学生団体として立ち上がったのがアイジェムつくばだ。

iGEM TSUKUBAのミーティングのようす=同

同サークルが研究対象にしているのは、海洋生物のカイメン。主に海の岩などに付着して生息する動物で、これらは自分を守るための物質を藻類などの微生物に作らせている。この物質を、船底などに付着するフジツボの阻害に使えないかというテーマだ。

代表の吉本さんは「海に浮かぶ船の底にフジツボなどの生物が付着すると、重量や運航時の抵抗が増す。その結果、燃料の消費量を非常に大きくしてしまうが、除去にもコストがかかり問題になってきた」と話す。付着を阻害する薬剤が用いられてきたものの、自然環境の汚染などへの懸念から規制が強まりつつあるという。

これに対し、カイメンなどの「生物が作り出す物質」を微生物に合成させることによって、新たな生物由来の付着阻害剤を実用化することを試みていると話す。吉本さんによれば、生物由来であるために環境への悪影響が極めて少ないと考えられ、環境負荷を減らせる可能性がある。

「資金集めに苦労」

生物学類の学生の中で、昨年の1月ごろ「iGEM」に参加するチームを作ろうという計画ができた。当時、大学一年生だった吉本さんもその計画に参加していた。アイジェムつくばとして行うテーマを決めるとき、吉本さんは「授業の課題」から生物由来の付着阻害剤を着想した。

「科学概論」という新入生向けの授業で、生物由来の物質が生活の役に立っている例の紹介があった。その際に出された「授業では紹介していない例を挙げる」という課題を調べていく中で、一部の海洋生物がフジツボなどの付着を阻害する物質を体内で合成していることを知った。吉本さんは「生物が作り出している物質が、他の生物の『発生』を阻害することがあるのか」と興味深く思ったと話す。

同サークルには現在、約30人が所属している。多くは2年生で、生物学類や生物資源学類の学生が多い。4つのチームに分かれており、研究だけでなく、高校生への教育活動なども行っているという。

千葉県立千葉中学校(千葉市)では教育活動を行った=同

実験やそのまとめ、アメリカで開催される大会への参加など、資金も必要だ。それらの資金の獲得も、団体の活動として行っている。そうした役割を担う「総合運営班」のリーダーを務める石川風太さん(生物学類2年)は「やはり資金集めには苦労している。始まったばかりの団体だが、年間200万円ほどの予算が必要だ。企業の支援や、研究助成の獲得など、裏方も仕事が多い」と話す。

吉本さんは「iGEMは1年を通して、テーマを決め取り組む。1年というスパンは短くもあるが、大会では、研究成果に対するフィードバックや論文の執筆支援もあり、とても意義があるものだと思う。将来的には本格的な実用化に向けて頑張っていけたらと思う」と意気込みを話した。(山口和紀)

◇アイジェムつくばのHPはこちら

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

29年春に「まち開き」 研究学園駅南の大規模開発 大和ハウス工業

6月の本格着工前に安全祈願 大和ハウス工業(本社・大阪市)は、つくばエクスプレス(TX)研究学園駅の南側隣接地(つくば市研究学園南2丁目)で進めている大規模複合開発「つくば学園南プロジェクト」の本格着工を前に2日、総面積15.5ヘクタールの用地内で安全祈願祭を行った。本格工事は6月から始まり、2029年春に「まち開き」を予定している。 同用地は日本自動車研究所(JARI)が保有していたが、23年12月、大和ハウスが142億円で取得した。同社によると、総戸数602戸の分譲マンションのほか、中高一貫校「茗渓学園」や学習塾「思学舎グループ」などの教育施設、スーパーマーケット「カスミ」などの商業施設、研究機関などの事業施設が入る。開発費は総額650億円。 全用地の3割は茗渓学園 研究学園駅から徒歩9分の場所に建つ分譲マンションは地上15階建て。6月に着工し、27年7月完成の予定。間取りは2LDK~4LDKから成り、ワーキングルーム、パーティーラウンジ、筑波山が望める屋上デッキなどの共用エリアを設ける。 開発の目玉は、旧東京教育大や筑波大学のOB組織「茗渓会」が経営する茗渓学園(つくば市稲荷前)が移転してくること。大和ハウスは同学園誘致のために、全敷地の28%に相当する4.3ヘクタールを確保した。同学園は帰国子女や留学生が多く寄宿舎が充実し、国際色が強いのが特徴。26年夏から新校舎建設に入り、学園創立50周年に当たる29年の春に新校舎に移る。 中央に3000平米の広場 安全祈願の神事が終わった後、五十嵐立青つくば市長の祝辞のほか、大和ハウスの村田誉之副社長、八友明彦茨城支店長、茗渓学園の宮崎淳校長・理事から説明があった。五十嵐市長は「市内の駅前に、このようにまとまった土地は残されていない。しかも、15.5ヘクタールと広く、人気がある研究学園駅から徒歩圏。この開発は駅南だけでなく、市全体のまちづくりにつながる」と、歓迎した。 大和ハウス側は「この規模の複合施設開発は当社でも最大規模。弊社、つくば市、筑波大学の産官学で開発し、29年春にオープンしたい」(村田副社長)、「商業施設と茗渓学園の間に3000平方メートルの広場を設ける。市民が集う場所として利用してもらいたい」(八友茨城支店長)などと述べた。 宮崎校長は「私学の良否を決めるのは、クオリティ(学校の質)、コスト(授業の経費)、アクセス(通学の利便性)の3つだが、新学園は駅から徒歩5分のところに位置し、アクセスは申し分ない。移転情報がすでに広く伝わり、これまで1500人で推移してきた学生数が最近では1600人に増えた。これを機に寄宿舎の収容力を増やし、1室2人から個室にする。学内の設備も大学並みに整える」と、意欲を見せた。(坂本栄)

「茨城いいね」って思えるチームに 新代表が抱負 アストロプラネッツ

知事を表敬訪問 5日の開幕戦を前に、プロ野球の独立リーグ、BCリーグに所属する「茨城アストロプラネッツ」(球団事務所・笠間市)新球団代表の小谷野宗靖社長らが2日、県庁を訪れ、大井川和彦知事を表敬訪問した。小谷野代表は「選手にチャレンジする土台をつくって、NPB(日本プロ野球)入りの夢をかなえるサポートをしてあげたい。野球だけじゃなく生活指導、感謝、気遣いも大事。私たちが見本になって『茨城いいね』って思えるチームになりたい」と抱負を語った。 同球団は昨年12月2日、茨城県民球団から、スポーツプロモーションやアスリート支援などを展開する「ケーダッシュセカンド」(東京都新宿区、小谷野社長)に事業譲渡された。 2日は小谷野新代表のほか、河西知之球団代表代理、秋川正佳選手、山田大河投手の4人が県庁を訪れた。 大井川知事は「(茨城アストロプラネッツは)これまでにもNPBに選手を送り出している。(ドジャースの)大谷の活躍もあり、野球人気がある。茨城県のプロ球団として活躍を期待している。頑張って下さい」とエールを送った。 今季から加わった土浦市出身の秋川正佳選手(常総学院ー駒澤大学)は「茨城で生まれて野球に感謝し、野球を通して夢と希望を与えたい。フルスイング、長打力が持ち味でホームラン王、日本一を取り、NPB入りを目指す」と意気込みを語り、かすみがうら市出身の山田大河投手(霞ケ浦高校)は「すべての球種で勝負できるので最優秀防御率を獲得したい」と力を込めた。 今年は3月4日から14日まで宮古島でキャンプを行い、その後は笠間でオープン戦を行った。開幕戦は5日にノーブルホーム水戸で栃木ゴールデンブレーブスと対戦する。 茨城アストロプラネッツは、飲食、農業、福祉事業などを展開するアドバンフォースグループの茨城県民球団が2017年に創設。19年にBCリーグに参入し、5年連続で選手がNPBにドラフト指名されるなど実績を残した。一方コロナ禍の2020年以降、観客動員数が減少し、その後もコロナ前の水準に戻すことができず、昨年12月、事業譲渡された。(高橋浩一)

あるだけ使っちゃう《続・気軽にSOS》160

【コラム・浅井和幸】小遣いをあるだけ使ってしまう。おやつをあるだけ食べてしまう。そのようなことで、子供のころに親に怒られた経験は誰にでもあると思います。ですが、大人になってもその癖(くせ)はなかなか治らない。 それどころか、優秀な人が集まっているはずの官僚制を俯瞰(ふかん)した法則で、パーキンソンの法則が70年ほど前に提唱されました。英国の官僚制の話らしいですが、予算や人や時間がある分だけ、官僚たちは増長していくという法則です。 具体的には2つの法則が提唱されました。第1法則:仕事の量は完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。第2法則:支出額は収入の額に達するまで膨張する。税金は、年度区切りの短期的な考え方、その年の収入は使い切るとの考えがあるからかもしれません。 私が法人や個人で対応している生活困窮者でも、短期的に物事を捉えて月の収入をその月で使ってしまい、数年に一度の車検やアパートの更新料、突発的な病院代が払えなくなる人がいます。また、毎日のガソリン代は工面できるけれど、家賃は払えなくなる人もいます。 さらに、月収をその月に使い切るだけでなく、給料の週払い・日払い、そして来月の収入を見越したクレジットカード払い、借金、給料の前払いになります。お金の計算は結構難しいもので、なかなか教育されない分野です。 まじめにやっていればよいというイメージだけで金銭収支を捉えている人も多いことでしょう。このように考え、借金は悪として受け入れない、上記とは反対の間違いにはまってしまっている人も多いはずです。財務諸表などの中の資産と負債の勉強まではなかなか手が出ないものですよね。 タイムパフォーマンス 話をパーキンソンの法則に戻して、皆さんも日々の動きに当てはめて考えてみてください。お金をあるだけ使っていないでしょうか。時間もあるだけ自分の意図しない使い方をしていないでしょうか。この法則の中では、1時間で終わる会議を2時間に設定すると、同じ内容で2時間使ってしまうとも言われているようです。 「タイパ」という言葉を使う方もいます。時間に対する満足度=タイムパフォーマンスの略です。映画や動画を3倍速で見る若者は、そこで浮いた3分の2の時間を何に使っているのでしょうか。もちろん、それが楽しい時間であればよいと思います。浮いた時間で、嫌な人のことや嫌な仕事のことを考え続けるよりはずっとよいでしょう。 短期・中長期的に、自分も周りも笑顔になれるような時間の使い方は何かと悩む時間をつくるとよいかもしれません。(精神保健福祉士)

成田山書道美術館を訪ねて《ふるほんや見聞記》3

【コラム・岡田富朗】このほど、大東文化大学教授で成田山書道美術館(千葉県成田市成田)の非常勤学芸員を務めている髙橋利郎さんを訪ね、お話を伺いました。同美術館の開館は1992年ですが、髙橋さんが学芸員に着任したのは1999年のことです。 着任したころの収蔵点数は約2000点程度で、古いものでも江戸時代の作品でした。その後、近現代の書道作品を収集している美術館が少ないことを踏まえ、いずれ近現代書家の作品が必要になると見越して、今日まで収集してきたそうです。 収集作品には、作家が資料として持っていた古筆など、貴重なものも含まれており、現在では収蔵点数が約7000点に増加しました。近現代書道の重要性を浮き彫りにしたコレクションは、同美術館の大きな特徴になっています。 代表的な作品としては、古写経手鑑『穂高』、青山杉雨の『書鬼』、小山やす子の『伊勢物語屏風』、貫名菘翁の『茶香酔趣』、赤羽雲庭の『凛厳』などが所蔵されています。「赤羽雲庭の『凛厳』はその美しさで有名で、急いで引き取りに行った」とのことです。 「書道の技術は身体的な経験を通じてこそ知り得る。機械で美しい文字を再現するのとは大きく意味が異なり、人の手の動きや字を書く技術が、プロセスとして作品を見る人に感じさせることができる。日本では学校で書道の授業があり、一度は書を書く経験をした人が多いからこそ、書を見て美しいと感じられる文化がある」 書道への造詣が深かった漱石 最近、書道がユネスコの無形文化遺産候補として正式に提案され、その重要性が認められました。書道は、芸術作品にとどまらず、生活美術として日常に深く結びついています。 髙橋さんは「書道が歌舞伎や能などの伝統文化のようになってしまうのは違う。より身近なものであり、各家庭にさりげなく飾ることが日常であるような、書道文化として日本に残っていってほしい」と話してくれました。 近年、前衛書と呼ばれる書家たちの中で、井上有一や篠田桃紅などの作品は、美術市場における草間彌生などの作品と同様、世界的に注目が高まっています。 最後に、夏目漱石の書道への造詣の深さを示す本として、漱石の代表作『草枕』を教えてくれました。この本では、文房四宝(ぶんぼうしほう=筆、すずり、紙、墨)について触れられています。最近、カナダのピアニスト・作曲家のグレン・グールドを扱ったラジオ番組で、彼も漱石の『草枕』を愛読していたことを知りました。(ブックセンター・キャンパス店主) ◆「幕末明治の下谷文人展」が4月26日~6月15日 、成田山書道美術館で開催されます。