【コラム・浅井和幸】自分が正当に評価されていないとき、不安が大きいとき、公平でないとき、何か問題があるとき、人は不満を口にします。人の生活も心も単純ではないですから、いろいろな理由が絡み合って不満は募るものです。
口を突いて出てくる不満は、正当性が前面に出ます。わがままではなく、自分の不満には正当性があると主張します。もっとわがままにふるまいたい、えこひいきされたい、褒められたい―なんていう願望は前面に出せませんし、本人も気づいていないことが多いものです。不満をまともに受けて解決しても、事態がさらに悪化することがあります。
長男「昨日の夜も、弟の方がハンバーグ大きかったじゃないか。ずるいよ。いつも自分ばっかりがまんしている。不公平だよ」
母親「ごめんね。気づかなかった。これからは同じ大きさにするから、いつまでも前のことばかり言わないで、そのときに言いなさい」
それほど不思議な会話ではないですよね。これで問題なく分かったと、お互いが気持ちよく過ごせていればよいのですが、それでは納得できないと、長男が暴れるようであれば、公平な解決を急がずに、長男が思っていること、聞いてほしいことに焦点を当てることが大切です。
長男は、昨夜のことやいつも(過去)のことを言っています。対する母親の回答は、今後のことです。長男はこれだけがまんしているのだから、偉い自分をほめてほしい、認めてほしい、という願望を持っているかもしれませんが、母親は解決方法の話をしています。
母親は、長男が嫌な思いをしているのだから、早く解決してあげたいという気持ちになります。この部分にずれが生じ、長男は自分の言っていることを無視されたという感覚になります。
その問題解決が不満を増やす?
この感覚のずれは、会話が成立していないことで判別します。もう一つが、長男が客観的な公平を求めているのであれば、自分の方が大きいときは、喜ばないで弟に分け与えているはずです。それが普段から見られないのであれば、自分が大きなハンバーグを食べたいという気持ちを伝えたいと捉えるべきでしょう。人は自分の得るものを小さく、他人が得るものを大きく感じてしまうものです。
同じことは、大人の会社内での場面でもよく見かけます。自分(A氏)の方が仕事をこなしているのに給料が低いとか、同じ職場のB氏がミスをするからいつも自分がフォローしていて迷惑だとか。問題解決をするには、A氏の仕事を減らす、あるいは給料を上げる、B氏と職場を離す、B氏のミスを別の人にフォローさせる、B氏がミスをしない対策をする―などが考えられます。
ですが、その対策を提案したところで、A氏が満足しないこともあるでしょう。さらにはA氏がミスをしたときに、周りもフォローしているから、お互い様だと説得をしたら逆効果でしょう。不満に対する問題解決自体が不満を増やすかもしれないことを、頭の片隅に入れておいて損はないですよ。(精神保健福祉士)