火曜日, 5月 20, 2025
ホームつくば日本写真協会新人賞受賞、田川基成さん つくばで「海の記憶」展

日本写真協会新人賞受賞、田川基成さん つくばで「海の記憶」展

今年、日本写真協会新人賞を受賞した田川基成さん(37)による写真展「海の記憶」が、10月7日からつくば市天久保のギャラリーYで始まる。田川さんは長崎県出身。受賞作品である故郷、長崎の島々の暮らしを4年にわたり記録した作品群「見果てぬ海」から、同名の写真集収録作品を含む18点が展示される。

同新人賞は将来を期待される有能な新人写真家に贈られる。受賞理由として「『見果てぬ海』は、大航海時代にポルトガル人やスペイン人がキリスト教を伝えた記録から、隠れキリシタンの歴史を掘り起こし、長崎の風景、豊かな海、人々など様々な視点で捉えており、単なる一地方の記録に収まらない。スケールの大きな作品」などと評された。

田川さんは、同テーマの展示を全国5都道府県で開催してきた。県内では初めての開催となる。「海の記憶」に込めた思いについて「長崎自体が持つ歴史、行為、物語、それらを包み込んでいるのが海」「写真は見る人の記憶を呼び起こすメディア。見る人、土地によって感じ方は変わる。会場で、何かを感じてもらえたら」と話す。

初めて訪ねた五島列島から故郷の島を眺める(同)

魔法がかかる

ないだ群青の海。水平線に浮かぶ島影を、雲間から差す光が照らす− 

30歳を迎えた田川さんが、初めて訪ねた長崎県沖の五島列島から、本土に近い自身が育った島を見た日の写真だ。子どもの頃に故郷から見ていたのは、遠く西の海に浮かぶ五島の島々。大人になり、初めてその地に立つと、子どもの頃は知り得なかった海の向こうに広がる「もう一つの世界」を感じ、不思議な気持ちになったという。

写真集「見果てぬ海」には、田川さんが長崎の島々を旅し、出会い直した風景が収められる。新緑の山が包むグラウンドで聖母マリアを囲む人々、部屋の隅に積まれた布団に差す夕日、豊富な海の幸が並ぶ食卓、漁港に立つ男性。どれも島では日常の光景だ。

田川さんは、長崎県西海市の離島・松島で海に親しみ15歳まで過ごした。長崎には600を超える島がある。一帯は、16世紀に欧州から伝わったキリスト教が時代を超え地域に根付く。しかし、その土地の特殊性のみを強調しない。淡々と並ぶ、田川さんの目を通した日々の光景が見る者を惹きつける。その理由は「写真の魔法」だと話す。

「いい光をとらえた写真には魔法がかかる。見慣れた光景が現実から離れていく。現実だけど、幻のよう。僕はそれが『写真の魔法』だと思っている」

五島市福江島の5月第2日曜日に行われる聖母祭(同)

旅人にしか見えないものがある

幼少期、田川さんは海で釣りをし、父の船で海を行き来した。中学校へは町営の船で通学した。高校は本土の長崎市内へ進学。島を離れ下宿した。その後、北海道での大学時代、東京での社会人生活を経て昨年12月に九州に戻った。今は福岡県で、妻、2人の娘と海辺の町で暮らしている。

これまで南米を1年間旅するなど世界50カ国以上を訪ねた。旅することで世界を知り、思考を深めた。「旅人にしか見えないものがある。僕はそれを写真に撮っている」と話す。

30歳で始めた故郷の撮影も「旅」にこだわった。多くの島、長く複雑な海岸線を持つ長崎は移動に制約が多い。「ここなら国外と同様の旅ができる」と感じたという。東京を拠点に1、2週間の滞在を繰り返す「旅」は4年に及んだ。「過ぎ去る一瞬、その場所で2、3日しか見えない景色。長崎に住んでいたら、絶対に撮れない写真」だった。

「海の移動」という視点

故郷で再発見したのが「海の移動」という視点だ。東北出身の知人の言葉を引き合いに出す。

「その人は『長崎の島は、険しい山を越えなければ次の村に行けず、大変』と話していた。でも、それは陸を中心にした見方。島の人は山を越えずに海から行く。長崎には、船で渡る方が早い場所がたくさんある」

「海」の視点は、以前に訪ねたブラジル、ポルトガルでの出会いともつながる。大西洋を挟んだ両国で引かれたのは、海を見渡す入り江の斜面に広がる街だった。平地が少なく、斜面に家が密集する長崎と同じ視点でつくられた街であると気がつくと、「どうしてこんな斜面に人が住まなければならないのか?」という長崎市に感じていた疑問が解けた気がした。各地に通じるのは、交易で栄えたポルトガル人がつくったということ。彼らが見ていたのは、海の向こうの世界だった。

五島市福江島(同)

500年前の大航海時代の最中、ポルトガルの港から帆船で海へと出た人々がいる。長い航海を経てブラジルのリオ・デ・ジャネイロや長崎となる入り江と出会った時、「彼らは祖国の風景を思い出し喜んだのではないか」と田川さんは想像する。また、ポルトガルにある地名と同名の土地が現在のブラジルにもあることを知ると、「もう帰ることのない故郷を思うポルトガル移民が名づけたのかもしれない」と思いを寄せる。

移民への思いは、15歳で故郷の島を離れ、他の土地で暮らしてきた田川さん自身の記憶と結び付く物語でもある。

つくばでの展示と同時開催するのが、東京・新宿区にあるオルトメディウム(Alt_Medium)での写真展「サッポロ スノースケープ(SAPPORO SNOWSCAPE)」。田川さんが学生時代の6年間を過ごした札幌を撮影した新作だ。大学入学前、18歳で初めて立った札幌で目にしたのが一面の雪景色。長崎との違いに「外国のよう」だと感じた。撮影は、今後、数年かけ北海道全域を対象に進めていく。長崎と北海道。見る人は、ふたつの展示を通じて新たな視点と出会うかもしれない。(柴田大輔)

◆写真展「海の記憶」は10月7日(金)〜16日(日)、つくば市天久保1-8-6 グリーン天久保201、ギャラリーYで開催。開館時間は午前11時から午後7時、最終日のみ午後5時まで。入場料300円。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

2 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

2 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

2つのユニバーサルデザイン《デザインを考える》20

【コラム・三橋俊雄】ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、障がいの有無などに関わらず、できるだけ多くの人が利用しやすいように道具や環境をデザインすることですが、一方で、障がい者の多様な声に耳を傾け、彼らの個別ニーズに対応したデザインを行うことも必要です。今回は、京都で出会った「歩くことができないKさん」と「手首が回らないAさん」のためのデザインについてご紹介します。 Kさんのための「空飛ぶ座布団」 Kさんは脳性麻痺で、四肢のうち自由に動かせるのは左手のみ。バーセルインデックス(食事、移乗、トイレ動作、入浴、歩行など10項目の日常生活動作の能力を点数化する評価方法)では40点以下という、生活の大部分が要介護の状態で、毎日朝晩と隔日の昼間にヘルパーのサービスを受けています。屋外での移動は電動車椅子ですが、その車椅子に乗るまでの準備工程も、ほとんどをヘルパーに頼らなければなりません。また、室内での姿勢は「アヒル座り(内股座り)」しかできません。 このようなKさんに対し、自力で室内の移動ができるための福祉用具デザインを試みました。彼の移動能力を調べると、乗り移ることができる高さは19センチ、降りる時に11センチを超えると怖い、乗った時の姿勢のズレを防止する凸部が必要、乗り降りのためのブレーキが必要など、試作モデルでの使用実験を繰り返し、写真(上)のような「空飛ぶ座布団」のデザインになりました。 Kさんからは「おかげで、ヘルパーなしでも1人で乗り降りができ、うろうろすることができるようになった」とのことで、Kさんの望みをひとつ叶(かな)えられたと思いました。 Aさんのための食事補助具 脳性麻痺のAさんは、車イスで移動したり、杖を用いれば歩行も可能な学生でしたが、左手は筋肉が硬直し、手首が外側を向いたまま、手のひらを返すことができませんでした。 そのAさんの「両手を使ってみそ汁を飲みたい」という要望に応えるため、左手でお椀(わん)を口に運ぶことができる食事補助具のデザインに挑戦しました。 上肢の可動状態を把握し、左掌が下向きのままミソ汁椀を口に運ぶことができるモデルを、①お椀の持ち上げやすさ、②お椀の口元への近づけやすさ、③握りやすさ、④お椀を置いたときの安定性、⑤総合的な使いやすさなどの視点から検討し、写真(下)の補助具にたどり着きました。 健常者にとっては使いやすくても、障がい者にとっては使えなかったり、使いにくかったりする道具や環境がたくさんあります。障がい者のためのデザインがもっと増えてこそ、真のユニバーサルデザインの社会が実現するのではないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)

学校給食に異物混入 つくば市の中学校

つくば市は19日、市内の中学校で16日に出された学校給食に異物が混入していたと発表した。教員が食べた鶏肉のトマト煮にホチキスの針が混入していた。 市教育局健康教育課によると、16日午後0時50分ごろ、市立中学校の職員室で、教員が鶏肉のトマト煮を食べた際、口の中に違和感を感じ、異物を吐き出したところ、長さ1センチくらいのホチキスの針一つが混入していた。教員にけがなどはないという。発見時、生徒のほとんどが給食を食べ終わっていた。 鶏肉のトマト煮は同日、つくばほがらか給食センター谷田部で調理され、幼稚園4園、小学校6校、中学校3校の3317人に提供された。異物が混入していた給食は職員室で配膳されたものだという。同校や他校などから、ほかに異物混入の報告はない。 発見後、同校のほか、給食センター、食材納入業者それぞれ、異物混入の経緯などを調査したが、現時点で混入経路は不明。 同給食センターは16日、保護者にお詫びの通知を出した。

群馬に5連敗 茨城アストロプラネッツ

プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツは18日、土浦市川口のJ:COMスタジアム土浦で群馬ダイヤモンドペガサスと戦い、1-4で敗れた。今季初の土浦開催となった。茨城の通算成績は5勝10敗で東地区3位。今季の群馬戦の戦績は0勝5敗となった。 【ルートインBCリーグ2025公式戦】(5月18日、J:COMスタジアム土浦)茨城アストロプラネッツ-群馬ダイヤモンドペガサス群馬 000001210 4茨城 001000000 1 試合は3回に茨城が先制。先頭の9番・原田京雅と続く1番・山本仁が右前へ連続安打、2番・高田龍の送りバントで1死一・二塁とすると、3番・原海聖が右翼へ犠牲フライを放ち1点を奪った。「ノースリーだったが四球を狙わず振っていけと指示し、しっかりと外野まで運んでくれた」と巽真吾監督。「打ったのはちょっと浮いたチェンジアップ。相手投手は入れてくると思い、甘い球を見逃さずとフルスイングすることを意識した」と原。 投手は金韓根が先発し、5回83球を投げて無失点。立ち上がりは低めの球を見極められ走者を出したが、途中から組み立てを変え、高めのボールからストライクになる変化球でカウントをかせぎ、後半はテンポの良い投球でフライアウトに打ち取った。5回表には内野安打と四球で1死一・二塁のピンチを作るが、相手の送りバントを自ら処理し三塁封殺に成功。「捕手は一塁を指示したが自分の判断で三塁に投げた。ここで走者を残すと単打でも1点を許すことになる。絶対に三塁を踏ませたくなかった」との振り返り。 6回以降は4人の投手が1イニングずつ投げたが、2番手の三浦遼大は替わりばなの初球で本塁打を浴び、3人目の川端啓新は四球と送りバントの一塁悪送球で無死一・二塁とされ、単打と内野ゴロで2点を失った。4人目の斉藤淳斗は3安打に野手のファンブルが重なり1失点。5人目の太田大和は1安打2四球で1死満塁のピンチを迎えたものの、6-4-3の併殺で切り抜けた。 攻撃でも茨城は小さなミスが目立った。1回は山本が四球から足を生かして一死三塁の好機をつくり、原の右飛にタッチアップを狙ったが、ポテンヒットになったことで本塁突入に失敗。5回には四球で出塁した山本が牽制球から挟殺に遭い、次打者の高田龍が右前打を放ったため、ここで山本が生きていればと惜しまれる結果になった。 9回には6番・草場悠が四球を選び、8番・三池裕翔が中前打と盗塁で2死二・三塁、一発が出れば同点という見せ場を作った。打席に立った原田はバットを折るアクシデントもありながらフルカウントまで粘ったが、最後は遊飛に倒れ、「ボールを見極めることはできたが、投手の気迫に負けて外野へ運ぶことができなかった」との無念の敗戦となった。 「群馬戦はここ数試合接戦が続いているが、四球と失策が重なるとか、チャンスであと1本が出ないなど、いずれも勝てそうなゲームを少しの差で負けている。投手と野手がかみ合う試合をつくり、チームが一体感を持って勝利を目指したい」と巽監督はリベンジを誓う。(池田充雄)

難民支える自治体ネットワークに加入 つくば市 全国19番目

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が進める国際キャンペーン「難民を支える自治体ネットワーク」に18日、つくば市が加入した。自治体が難民への連帯と貢献を表明することを通して難民支援の輪を広げていく取り組みで、国内では東京都、広島市、札幌市などに続いて19番目、北関東の自治体では初の加入となる。世界では59カ国309自治体目。 同日、つくば駅前のつくばセンター広場などで開かれた科学と国際交流のイベント「つくばフェスティバル2025」会場で同ネットワークの加入署名式が催され、五十嵐立青つくば市長と桒原(くわはら)妙子UNHCR駐日首席副代表代行が同ネットワークの賛同表明文に署名した。 五十嵐市長は「世界に難民は1億2000万人いる。日本の人口と同じ。(難民の)状況は厳しくなっている。ウクライナ、ガザ、世界各地で大変なことが起きていて、奪われてはいけない命が奪われている。つくばにも避難してこられたり移ってこられた方がいる。だからこそ我々自治体は、連帯し国際社会の一員として支えていく責務がある。我々に何ができるか、まずは知ること。その先に何ができるか、皆さんと共に歩みを進めたい」と話した。「分断が進んでいる社会で、自治体としてメッセージを出していこうという意思表示」だという。 桒原代表代行は「つくば市が北関東で初めて参加してくださることは本当に心強い。つくば市はSDGs(国連の持続可能な開発目標)など地球規模の課題に積極的に取り組んでいる全国でも先進的な自治体。つくば市ならではの柔軟で創造的な取り組みを通じて、難民支援の輪が地域から自分ごととして広がっていくことに期待したい」と述べた。 2023年10月、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官が、ウクライナから避難してきた学生や留学生などと意見交換するため筑波大学やつくば市役所を訪れたことがきっかけになった(23年10月20日付)。つくば市がSDGsに積極的に取り組んでいたり、不平等や格差是正に取り組むOECDの先進的市長(チャンピオンメイヤー)に選ばれていることなどから、UNHCR駐日事務所が同市に自治体ネットワークへの加入を呼び掛けた。 加入にあたって同市は「いろいろな機会をとらえてまず知っていただくことが一歩」(五十嵐市長)だとして、17、18日の2日間つくば駅周辺で開かれたつくばフェスティバルで、UNHCRの難民支援の仕事などを紹介するブーズを出展した。市中央図書館では1日から30日まで、UNHCR駐日事務所の協力で平和、共生、多様性などに関する同館所蔵図書を紹介する「難民のものがたり展」を開催している。 つくば市では現在、147の国と地域出身の外国人1万4251人が暮らしている。そのうち難民や戦争などからの避難者が何人いるかは不明。 他の加入自治体の取り組みとしては、UNHCR駐日事務所と連携して、難民問題を知るための独自イベントの開催や学校などでの出張授業、難民支援のための寄付の呼び掛け、大学の奨学金制度の導入や企業の雇用支援、母国を離れ難民キャンプなどで生活している難民を第三国が受け入れる「第三国定住」などを通じた難民の受け入れなどが行われているという。(鈴木宏子)