金曜日, 6月 5, 2026
ホームコラムあの子は冷蔵庫に住んでいる 《短いお話し》2

あの子は冷蔵庫に住んでいる 《短いお話し》2

【ノベル・伊東葎花】

あの子は冷蔵庫に住んでいる。

きっと暑いのが苦手なんだ。

冷蔵庫に住んでいるけれど、中の物を食べたりしない。

ただ静かに、息を潜めているんだ。

最初の出会いは春休み。

プリンを食べようと冷蔵庫を開けたとき、あの子がいたんだ。

イチゴ模様のタッパーの上に、ちょこんと座っていた。

つぶらな瞳の可愛い女の子。

思わず見とれていたら「早く閉めなさい」とママに叱られた。

あの子は、ぼくにしか見えない。

パパが冷蔵庫から出したビールの缶に、あの子がうっかりくっついてきてしまったことがある。

水滴と一緒に張り付いて、冷蔵庫から出てしまったんだ。

パパは何も気にせずに、テレビを見ながらビールを飲んだ。

ぼくはそうっとあの子を手のひらに乗せて、冷蔵庫に戻してあげた。

あの子はホッとした顔で、お礼代わりに小さくウインクをした。

あの子はいろんな所にいる。

たまごの上、ジャムの瓶、お肉のパック、ヨーグルトの上。

あの子を見たくて冷蔵庫を開けていたら、やっぱりママに叱られた。

「早く閉めなさい」

五月を過ぎて気温が上がると、冷蔵庫はぎゅうぎゅう詰めになる。

あの子はコロコロ場所を変え、それでもちゃんと座っていた。

ある夜、すごい雷が鳴って、町中の電気が消えた。停電だ。

ぼくは何をおいてもあの子のことが心配だった。

「ママ、停電になったら、冷蔵庫の中は大丈夫かな」

「大丈夫よ。このくらいで腐ったりしないわ」

ママはそう言ったけど、ぼくは心配でたまらなかった。

真っ暗な中で怖がっていないかな。

溶けていなくなったらどうしよう。

しばらくして、電気がついた。たぶん3分くらいだったと思うけど、ぼくにはすごく長い時間に感じた。

真っ先に冷蔵庫を開けると……あの子がいなかった。

どこにもいない。まさか本当に溶けてしまったのかな。

「早く閉めなさい」とママに言われても、ぼくはしばらく動けなかった。

それからは、冷蔵庫を開けるたびに悲しくなった。

あの子がいない。あの子が消えた。

季節は夏に向かっているのに、ぼくの心は氷河期だ。

汗ばむ季節が来て、学校から帰ると「アイスがあるよ」とママが言った。

手を洗って冷凍室を開けると、ひんやりした空気の中につぶらな瞳が見えた。

あの子だ。あの子がいた。

氷の妖精みたいな白いドレスを着て、アイスの蓋にちゃっかり座っている。

そうか。夏が来る前に、冷凍室に移動したんだね。

「きみは本当に暑がりだね」

嬉しくなって何度も何度も冷凍室を開けていたら、やっぱりママに叱られた。

「早く閉めなさい」

あの子に小さく手を振ると、すました顔で無視された。

冷たいなあ~。(作家)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

2 コメント

2 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

粘土で作る風景《続・平熱日記》193

【コラム・斉藤裕之】6月初旬から長野県千曲市にある「art cocoon(アート・コクーン) みらい」で2回目となる個展を開く。作品は日々淡々と描き続けていたものをお見せするほかないが、初日にアーティスト・トークなるものがある。「平熱日記」というタイトルが示す通り、特に熱く語るほどのこともないし、そのあたりはギャラリーのオーナーであるかおりさんにお任せしておけば、うまくリードしてくれるから心配はしていない。それよりも、「何か実演を!」と頼まれて、はたと困った。 当然のことながら、私のスマホはAIさんが「よかれ」と思い、やたら絵を描く動画を見せたがるのだが、これ見よがしなスキルやテクニックの画像は正直苦手。しかし、ピカソが実際に絵を描いている動画が出てきたときには、正直感激した。というか、「そこから描くのね…」という意外な発見も。 私の場合は小さな画面に向かって、人様にお見せするのがむしろ憚(はばか)られるほどのチマチマした描きっぷりだし…。しかし、ここで駄々をこねるわけにもいかないので、粘土をこねることにした。題して「粘土で作る風景」。そうそう、そのころ家に絵を描きに来ていた子供たちが使っていた一番やっすい紙粘土で、小さな牛久シャトーをこさえて描いてみたのが最初。 粘土で作ったシャトーは大ざっぱで形もゆるゆる。しかし面白いことに、それを俯瞰(ふかん)で絵にしてみると不思議なリアリティーが感じられた。それから、友人の家や東京タワー、学校、電車…、粘土の模型とそれを描いた絵は気が付けば結構な数になっていた。 なぜ粘土で作る「風景」としたのか。これはなにも粘土で山や川などのジオラマの様な風景を作るという意味ではない。例えば粘土で作った電車を描くと、その電車を描いている周りに大地のように広がる風景が絵の中に感じられてくるところがミソ。あまり好きな言葉ではないが、俗に「絵画空間」といわれたりする。 だから実演では、恐らく電車を描いているのと同じか、それ以上に電車以外の背景と呼ばれる部分に手を入れる時間が長くなると思う。 「みらい」に向けて出発! さて、高校時代のある朋友。当時はトッポいあんちゃんだったが、彼が個展の情報をネットで同級生に回してくれたおかげで、関東各地から、遠くは滋賀県からも、わざわざ会場に足を運んでくれるというではないか。ということで、彼に感謝の意味も込めて、同級生のために故郷にちなんだアレを粘土で作って描くとしようか。もちろん、信州にちなんだアレは作って描こうと思っているけど…。 作り置いた手製の額に小さな絵を収めていくと、ちょうど煩悩の数ほどになった。あとは、いつも使っている牛乳パックのパレットと安物の筆、絵具、それから粘土も忘れずに車に積んで、さあ、信州千曲、「みらい」に向けて出発!(画家) <斉藤裕之「平熱日記 in 千曲」展>・日時・6月6日~28日の金・土・日・月・場所:art cocoon みらい(長野県千曲市土口378-1)

所属クラブの垣根超え写真展開催 土浦市民ギャラリー 高齢化で発表の場減少

所属している写真クラブの垣根を越え、写真愛好家なら誰でも参加できる企画展「形のない集団の写真展」が2日から、土浦駅前の土浦市民ギャラリー(同市大和町)で開かれている。4回目の開催で、20人の作品100点が展示されている。 土浦には写真クラブが20団体ほどあり、数十年の歴史をもつクラブも多いが、写真愛好家と指導者の高齢化のためクラブが減少、解散するところも出てきた。それぞれの写真展も会員の減少で開催が困難になり、愛好家の発表の場がなくなってきたことなどから、誰でも参加出来る写真展を企画することになった。 土浦市在住の写真家、高木紀英さん(74)が「何とかしたい」という使命感をもち企画した。知り合いの写真愛好家に声を掛け、4年前、開催にこぎつけた。「苦労しているという気持ちよりも、好きなことをしているという感じの方が大きかった」と高木さんは振り返る。4年前は、出展者10人、展示作品50点だったが、年々参加者が増え、現在は2倍に輪が広がった。写真展は高木さんが会長となり運営する。しかし会としての活動は写真展開催以外一切なく、組織化することもないという。 2日から開かれている写真展には、スナップ写真、風景、花などの作品が、カラーやモノクロで展示されている。大きさやテーマに縛りはないが、額装のマットは白に統一した。 高木会長は、モノクロの「凛」という作品を展示する。ほかに、人の足をアップしたり、平安時代から伝わる菊結びなどをとらえたり、感性に訴える作品が並ぶ。副会長の吉田亘好さんは、若者の街、東京・下北沢で出会った出来事や物象をクローズアップして捉えた作品を展示する。また建物だけをさまざまな角度で撮った北見隆久さんの写真や、写真が一つ一つ物語になっている吉原世都子さんの作品など、それぞれが個性豊かで自由な世界を表現している。吉原さんは「個展を開くなどとても出来ないので、この企画はとてもありがたい」と語る。 高木会長は「写真愛好家の高齢化が進み70代後半から80代の方が多い。しかし今回は40代の方が2人参加し、作品を作っている感じがとても良いと言っていた」と語り、昨今、写真がSNSで発表されていることに触れ「SNSでは直接顔を合わせて会話することが出来ないが、写真展では語り合うことが出来るなど良い面もある。一方、写真展に展示する作品は、プリントして額に入れなければならないという作業があるが、SNSにはそれがない。これからの写真展にどういう未来があるのか全く先が読めない」などと話した。 ◆「形のない集団の写真展」は6月2日(火)~7日(日)まで、土浦市大和町1-1、アルカス土浦(市立図書館)1階、土浦市民ギャラリーで開催。開館時間は午前10時~午後6時。入場無料。問い合わせは北見隆久さん(電話080-1043-7551)へ。

「倒れる」練習《続・気軽にSOS》172

【コラム・浅井和幸】先日、ある支援のために駅前のロータリーを回り、目的地に向かいました。そのあたりは歩いている高齢者も多く、ゆっくりと左右を見ながらの運転です。その運転とは関係ない50メートルほど先で、高齢女性が倒れました。幸い、近くにいた数名の方が助けに入ったので、私はそれを確認して目的地に向かいました。 県内を動き回っていると、このような場面に時々出くわします。今回は偶然にも倒れる瞬間を見たのですが、その倒れ方がまっすぐ硬直したような倒れ方で、とても危険な印象が残りました。私は高齢福祉については勉強不足なので、現在どのような取り組みが行われているのか分かりませんが、「高齢者の倒れる練習」とネット検索しても、ほとんどが「転倒防止」についての内容でした。 このようなことは、子育て、不登校、ひきこもり、生活困窮、住宅確保要配慮者支援などでも似ています。危険なことが起こったあと、どう対応するかという支援を続けていると、「そもそも未然に防ぐことが大切だ」という考えに行きつきます。しかし、予防や防止を重視しすぎると、危険なことが起こったときにどうするかという視点が抜けてしまいます。 リスクから遠ざけすぎることは、リスクを回避する、乗り越える、やり直す、助けを求めるといった感覚を育ちにくくします。人は、汚いものや苦しいことなどから遠ざかりすぎることで、強すぎる痛みが実際に訪れたときに耐えられず、立ち直れなくなってしまうことがあります。 よりよい成長のため、その痛みは本人が耐えられる範囲に調整することが必要です。何でも一律に、苦しい経験をすれば強くなれるという考え方も、たまたまうまくいった人たちの勘違いなので注意が必要です。 「自分で起き上がってごらん」 私は人を雇っていくつかの事業を行っています。年齢も性別も背景も実力もさまざまです。その人の能力や成長段階に合った課題に向き合えるよう調整しなければならないと、日々悩んでいます。言葉で「危険だからやめた方がよい」と伝えるだけでは、本人が納得しない限り届かないことがあります。だからこそ、少しだけ怖い思いや苦しい思いを体験してもらうことも必要だと感じています。 子育てや支援をしている方から、「成功を経験して成長ができる支援のコツはなんですか」と質問されることがあります。私は「転んでもフォローできる環境を自分自身ができる限界と考えて支援をしてみてください」と答えます。 例えば、よちよち歩きの子どもであれば、転んでも大きなけがをしない環境を整え、すぐに支えられる距離にいることです。少し膝をすりむいても大丈夫な子なら、少し離れた場所から「自分で起き上がってごらん」と声をかけられる距離にいるのがよいでしょう。 危険を予防し回避することと同じくらい、危険への予想や耐性、立ち直る力を育てることも大切であると、私は声を大にして伝えたいのです。(精神保健福祉士)

道路冠水や倒木被害相次ぐ つくば、土浦 台風6号

大型の台風6号の接近に伴い、つくば、土浦市では3日、激しい雨と強風の影響で道路冠水や倒木などの被害が相次いだ。小中学校や幼稚園は休校となった。 26カ所で道路冠水や倒木など つくば つくば市では24時間で126.5ミリの降水量があり、午後1時に最大風速6.3メートルを観測した。この影響で、市内26カ所の道路で冠水や倒木などの被害が発生し、約1680軒で停電が発生した。 道路冠水は市内14カ所で発生、このうち今鹿島、水堀、下広岡、森の里、下広岡、春日4丁目など7カ所が一時通行止めになった。桜川に架かる同市小田、小田橋は水位上昇により通行止めになっている。 ほかに強風の影響で、面野井、天久保3丁目、桜2丁目、花畑1丁目など5カ所で倒木の被害があったほか、観音台1丁目で標識破損、上河原崎で木板の飛散、田中で照明破損などの被害があった。 このうち同市花畑1丁目では午後2時前、強風によりNTT筑波研究開発センタ敷地内の高さ20メートルほどの松が根っこから道路に倒れて、向かい側の集合住宅の駐車場上の電線に引っ掛かり、道路が通行止めになった。近くで犬のトリミングサロンを経営する30代女性は「トリミングでドライヤーを使っていたので大きな音は聞こえなかったが、バサッという音がして窓の外を見ると、松の木が倒れていた。ここに10年住んでいるがこんなことは初めて。(筑波研究開発センターの敷地境界には松並木があるので)ほかの松の木が倒れないか心配」などと話していた。 市は自主避難所を、市北部の働く婦人の家と、市南部の茎崎交流センターに2カ所開設、3人が一時的に茎崎交流センターを利用した。 民家1軒が床下浸水 土浦 土浦市では24時間で112.5ミリの降水量があり、午後1時40分、最大風速10.4メートルを観測した。この影響で、床下浸水が1軒、道路冠水や倒木による通行止めが4件、停電が522軒で発生した。 床下浸水は荒川沖東3丁目の民家1軒で発生。中貫、神立町、白鳥町では冠水により道路が一時通行止めになった。常名では倒木により通行止めが発生した。 同市では大雨警報と高齢者等避難が発令されたことにより、午前11時44分に災害対策本部を設置、土浦三中、土浦四中、都和南小、新治義務教育学校4カ所に避難所を開設した。2人が土浦四中の避難所を一時利用したという。