日曜日, 12月 14, 2025
ホームコラム市民派つくば市長 市民運動に敗北《吾妻カガミ》124

市民派つくば市長 市民運動に敗北《吾妻カガミ》124

【コラム・坂本栄】つくばセンター広場改修は五十嵐市政の注目施策でしたが、市民グループの反対キャンペーンによって撤回に追い込まれました。市民運動の延長で市長になった五十嵐さんが市民運動に敗北したこの流れ、市政の原点を忘れてしまったことが敗因だったようです。

3改修案の1つを取り下げ

センター広場改修計画のポイントは、エスカレーターを2基設置する(うち1基は途中で取り下げ)、広場を囲む外壁の一部を造り変える、ノバホールとセンタービル間の外階段をスロープ化する―など、ここをデザインした著名設計者・磯崎新氏の意匠をあちこちいじるほか、利用者の安全を軽視するものでした。

これに対し、学園都市のシンボル的な構造物に傷を付けるなと、市民グループ「つくばセンター研究会」が猛反対。市は結局、広場に手を入れるのを諦めました。詳しくは「…改修計画を大幅見直し」(2021年12月7日掲載)をご覧ください。

つくば駅側のセンター地区を改修する計画は、ゾーンA:センター広場改修(上記2パラ目参照)、ゾーンB:ノバホールやイノベーションプラザ改修(市民活動施設の整備)、ゾーンC:センタービル1階改修(まちづくり会社による貸室などの整備)―の3本柱で構成されています。

改修プランの3分の1に当たる「ゾーンA:センター広場改修」案は、策定作業上のミスだったことになります。

センター地区改修は市民の意見を聴く必要がある「大型事業」ではないという理屈を掲げて、市が執行部主導で策定した改修事業の問題点については、本コラムでも何度か取り上げました。例えばコラム112「…つくば市政 揺らぐその原点」(2021年8月2日掲載)では、以下のように指摘しました。

「広く意見を聴いて施策を進めるという五十嵐市政の基本がお留守になり、事業の策定作業がオープンになっていないと、市民グループから批判されています。五十嵐さんは執行部主導で施策を進めた前市長を批判する運動を繰り広げ、その勢いに乗って市長になった人です。その原点ともいうべきところを突かれるという、おかしな展開になってきました」

企画立案の早い段階で原点に戻っていれば、A+B+C中のAを止めるといった恥ずかしいことにならなかったでしょう。市政運営の原点を忘れたことが失政につながりました。

3セクの「まちづくりごっこ」

ゾーンCのセンタービル1階改修も危うさを抱えています。記事「まちづくり会社 3億円調達にメド…」(2021年12月17日掲載)を読んで、改修後に貸室業などを行うこの会社の資金調達手法を知り、その複雑な手順に驚きました。

政府系金融機関と地元銀行にファンド(投資資金)を設けてもらい、そのファンドにまちづくり会社が発行する返済順位が劣る社債を引き受けてもらう(おカネを貸してもらう)という、込み入った手法です。

まちづくり会社(市が筆頭株主の第3セクター)は増資とか銀行借入といったシンプルな手法をどうして使わなかったのでしょうか? 他の株主や銀行から収支に問題があると思われ、ごく普通のやり方で資金が調達できなかったため、経営リスク承知のファンドに劣後債を引き受けてもらったのでしょうか?

センタービルが建つ吾妻1丁目は市の超一等地です。私はコラム87「つくばセンタービル再生の問題点」(2020年8月3日掲載)で、市は区分所有権を大手開発企業に売り払い、駅周辺を活性化するビジネスゾーンに整備してもらったらどうかと書いたことがあります。

まちづくり会社によるセンタービル1階改修(小貸室、小会議室、共同区画、喫茶室などを細々と配置)は、「まちづくりごっこ」ではないでしょうか。地価が高い区画の利用法としてはもったいない気がします。(経済ジャーナリスト)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

54 コメント

54 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

小美玉市にある「ぺんてる」の主力工場《日本一の湖のほとりにある街の話》35

【コラム・若田部哲】土浦市教育委員会に配属されて十年余り。児童の絵画コンクールなどにも関わる中で、近年、絵に親しむ子供が減っているという現実を痛感しています。背景には、娯楽の多様化や、カリキュラム・習い事の忙しさといった子供側の事情に加え、正解のない芸術を教える難しさという、大人側の都合もあるのかもしれません。加えて、当世を席巻する「タイパ・コスパ」志向とこの分野の相性の悪さも、無関係ではないでしょう。 しかし、自らのさまざまな感情を、絵の具をはじめとする多様な媒体に託して表現するという営みは、ラスコーやアルタミラの壁画を持ち出すまでもなく、極めて普遍的で、人間の根源的な喜びに満ちています。そうした「表現」の衰退を、寂しく思いつつ眺めていました。 今回は、その「表現の力」を支える現場のひとつ、小美玉市のぺんてる小美玉工場を、同社研究開発本部長の名須川さんに案内していただきました。クレヨンでおなじみの「ぺんてる」。多様な文房具を通して日本の教育を支えてきた同社の国内最大の生産拠点が、1964年に稼働を開始したこの工場です。 現在まで続くベストセラー、サインペンの生産拠点として、東京ドーム1.5個分の敷地に設立された工場では、創業当初、100人で1日1万本を製造していたところ、現在ではわずか2人で1日6万本を生産しているとのこと。サインペンに加え、ボールペンやクレヨンなど主力製品の多くが、ここで作られています。 文房具でも画材でもなく「表現具」 最初に案内されたのは、ロングセラーであるサインペンの製造ライン。1980年代製の武骨な組立機はいまも現役で稼働し、流れるような動きで次々と製品を生み出していました。隣の最新式ボールペン「エナージェル」のラインには、自社開発の組立機が整然と並び、部品が驚くほどの速さで形になっていきます。こうした機械の多くを自社内で作っている点も、同社の大きな強みだといいます。 続いて向かったのは、クレヨンの製造現場。顔料と油が混じった独特の香りが満ち、美術を学んでいた学生の頃の記憶がふとよみがえりました。3台の大きな円盤状の装置が止まることなく回転し、そのたびに1本1本、クレヨンが生まれていきます。 ドロドロに溶けたクレヨンの原料が型に下から注ぎ込まれ、一周する間に冷えて固まり落ちてくる様に、思わず目はくぎ付けに。色を切り替える際には機械を徹底的に洗浄する必要があるため、同じ色を1〜2日かけて作り続けるのだといいます。さらに、色を製造する順番も厳密に決められており、約12日で12色が一巡する仕組みになっているとのこと。こうして、ベストセラーの「ぺんてるくれよん12色セット」の出来上がりです。 最新機器と歴史ある重厚な機械が並び立つ空間で、人の感情を伝えるための多彩な道具が今日も生まれ続けています。「これからも『表現の力』を信じて、文房具でも画材でもなく、『表現具』を作り続けていきます」。穏やかにそう語る名須川さんの表情に、これからも表現の灯が消えることはないという、確かな希望を感じた取材でした。(土浦市職員) <注> 本コラムは周長日本一の湖、霞ヶ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。 ⇒これまで紹介した場所はこちら

サンタにふんし ごみ拾い TX万博記念公園駅周辺で障害者ら

クリスマスを前に、サンタクロースにふんした知的障害者らが12日、つくばエクスプレス(TX)万博記念公園駅周辺でごみ拾いをした。 同駅近くに立地する障害者の就労支援施設「さくら学園」(NPO明豊会運営、飯島喜代志代表)に通所する障害者ら約25人で、障害者を知ってもらい地域とのつながりをつくろうと、7年前の2018年12月から毎月1回、同駅周辺でごみ拾いを続けている。 この日はクリスマスシーズンにちなんで、赤い上着とズボンを着用、赤い帽子をかぶり、白いひげを付けて駅周辺を歩きながら清掃。TX高架下の生け垣、駅前のバス停、空き地、マンションの生け垣などに落ちていたビニール袋、ティシュペーパー、たばこの空き箱、紙コップ、空き缶などを拾い集めた。 守谷市から通所する高田建太さん(20)は「順調にきれいになった」と話し、つくば市内から通所する山下靖紘さん(34)は「楽しい」などと話していた。12日は強風注意報が出され、つくば市は最大風速7メートルと強風だったため、通常の半分のコースの約500メートルを、20分ほどかけて歩いた。 さくら学園広報の鈴木芽未さんは「障害者が外に出ることは大事。どんな人が通っているか地域に知ってもらい、地域との接点になれば」と話していた。 同施設にはつくば市内のほか周辺市町村から約30人の知的障害者や精神障害者、身体障害者らが通っている。ゴムのバリ取りなど会社から受注を受けた作業のほか、不要のパソコンを回収し希少金属をリサイクルする作業(2024年1月24日付)、機織り機を使った手織り、オリジナルトートバッグの製作(22年3月26日付)など、独自にさまざまな作業に取り組んでいる。(鈴木宏子)

ソプラノ歌手招き 歌ってフレイル予防を つくばのコーラスサークル

健康を維持するためのコーラスサークル「マウントつくばエコー」(伊藤雄二代表)が今年5月に結成され、国内外で活躍するソプラノ歌手で二期会会員のひらやすかつこさんを都内から招き、ボイストレーニングとコーラスの講座が開催されている。 音楽を楽しむと同時に、大きな声を出すことによって、加齢で心身が老い衰える「フレイル」(虚弱状態)を予防し、健康を維持することを目的としている。歌唱のうまさを競うものでなく、それぞれが楽しく歌うというのがモットーだ。 講座は月1回、同市並木の並木交流センターで催され、ひらやすさんが毎回、呼吸、発声、歌唱方法などを指導する。呼吸は、持参したストローを用い、ゆっくり深く息を吸った後、ストローを使って、吸った時間の倍の時間を掛けてゆっくり吐き出す。声帯と周辺筋肉の「声筋」を鍛えるほか、肺機能を向上させ、副交感神経を優位にすることでストレスの軽減や不安の緩和などの効果があるという。「声筋を鍛えることは認知症予防につながる。日常生活に音楽を取り入れるために、とても良い練習になる」とひらやすさんは言う。 現在会員は15人で、ほとんど欠席者は出ず、毎回毎回を楽しみに通っているという。練習では「埴生(はにゅう)の宿」「ふるさと」「オー・ソレ・ミオ」などをレパートリーとしている。 代表の伊藤さんが、都内でひらやすさんの講座を受講し、「つくばでもぜひやってみたい」と相談したのがきっかけ。伊藤さんが会員を募集しスタートした。 ひらやすさんは、武蔵野音楽大学を卒業後、ドイツ、イタリア、オーストリアなどに3度国費留学。ニューヨークのカーネギーホールで催された日米親善ソリスト公演にも出演した。現在は声楽家にとどまらず、臨床心理療法士、心理カウンセラーと幅広く活躍している。音楽と健康をテーマに、都内で開かれている「ときめきサロン」などの講師を務めているほか、老人ホームなどでも音楽教室を開いている。 ひらやすさんは「つくばは2018年頃から訪れているが、自然が豊かでとても気に入っている街。毎月来るのが楽しみになっている。楽しく歌えば健康になる。どんな形でもどんなジャンルでも歌うことは良いことで、歌うことが日常になってくれれば」と語る。「年を重ねると声帯が固くなり、高い声などが出にくくなる。しかしトレーニングによって改善することが出来る」と言い、「サークルでも、コーラスだけでなく、一人一人に歌ってもらうことで効果を高める指導をしている」と話す。 代表の伊藤さんは、大手半導体メーカー、インテルを退職後「テニスやゴルフ、カードゲームなど趣味に生きていた」が、ひらやすさんとの出会いによって新しい世界が広がったという。「会員のみんなが熱心で、歌うことによって健康になってもらえれば」「現在も会員募集中で、20人ぐらいに増やしたい。将来は旅行などしながら移動コンサートも出来たら」と語る。(榎田智司) ◆マウントつくばエコーのひらやすかつこさんの講座は、毎月第2木曜日午前9時30分~午後1時、つくば市並木4-2-1、並木交流センター音楽室で開催。会費は月2000円。問い合わせは伊藤さん(電話080-1241-5733、メールyuji3itoh@gmail.com)へ。

人類救済と日常生活の話《映画探偵団》95

【コラム・冠木新市】フランシス・フォード・コッポラ監督は、ベトナム戦争を描いた大作映画『地獄の黙示録』(1979)の撮影で数々のトラブルに悩まされていたとき、フェデリコ・フェリーニ監督の映画『8 1/2』(1963)を見て心を慰めていたという。世界映画史の上位に常にランクされる同イタリア映画は、日本では東京オリンピック(1964)の翌年、アートシアター系の劇場で公開され、難解な作品として話題になった。 この映画は、車の中にガスが充満してきて、必死に脱出を試みる映画監督グイド(マルチェロ・マストロヤンニ)の悪夢シーンから始まる。そして、ラストシーンはグイドが準備中だった「原子力戦争で生き残った人々が地球脱出をはかる」内容の映画をクランクインするシーンだ。 つまり、このドラマは「人類救済」をテーマにした映画作りに取り組む、一監督の苦労を描いたもので、彼の作品創造の秘密を解明している。しかし、創造の秘密といっても、それは技術上のことではなく、作品を完成させる上での自信、インスピレーションなど、グイドの内面に焦点が当てられている。 温泉療養所やホテルで暮らすグイドの内面に湧いてくるのは、亡くなった両親、自分の少年時代の追憶、そして妻、浮気相手、理想の女性クラウディアに関する夢など、準備中の映画とは関係ないことばかりだ。「人類救済」という大テーマに取り組みながらも、日常生活では妻や浮気相手の女性、過去の出来事との間で混乱するグイドの姿が浮き彫りにされる。 ユニークなのはその表現方法だ。前半では追憶や夢のシーンと現実シーンとの移行が明瞭だが、後半になるとそれらの境目が曖昧になる。グイドと妻のいる現実の場面に妄想の浮気相手が出てきて、妻と仲良く踊りだす。リアルな人物描写と相まって、グイドの混とんたる内面を表現する絶妙な効果をあげている。今では理解できる表現だが、1965年当時、日本の観客は混乱の極致だった。 人生は祭りだ 共に生きよう ラストシーンの直前で、日常生活と仕事に疲れ切ったグイドが、記者会見の席上でピストル自殺をはかる幻想にとらわれる。そして制作を中止、セットが破壊されてゆくその瞬間、突然、グイドはインスピレーションを受ける。「混乱を整理するのではなく、あるがままを受け入れること…それは愛だ。人生は祭りだ。共に生きよう!」と。 ラストシーンは映画史に残る名場面だ。宇宙船発射場セットの幕を引くと、階段からどっと白い服を着た人たちが降りてくる。現実の映画関係者や夢や追憶に登場した人物である。人々は輪になって踊りだす。現実と夢、内面と外面世界が融合した瞬間だ。その輪にグイドはもめていた妻と加わる。人類救済と日常生活は個人の内面で深く結びついている。 今年諸事情で開催を延期したイベントを、来年の開催に向けて準備中である。誰でも経験すると思うが、種々のトラブルはつきものである。ふと『8 1/2』を見たくなったのは、そのためか。だが、悩みながらも混乱する世界の救済と結び付いていると信じて取り組んでいる。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家) <お知らせ> 物語観光:つくつくつくばの七不思議セミナー(参加費無料)・日時:12月13日(土)午前10時半~・場所:カピオ中会議室・内容:映画『サイコドン』上映、出演者の話、唄、踊りなど