【コラム・海老原信一】自宅玄関を出て右側、小さな庭の隅にある花壇に樹高2メートル弱のキンカンが植えてある。冬から春にかけてのこの時季、多くはないが黄色い実を付けてくれている。このキンカン、実は2代目。1代目は母親が存命中に鉢植えにしていたものを花壇へ地植えにして育てていたが、母の没後5年目ぐらいに元気がなくなり、枯れてしまった。
面倒見の悪い息子のせいかなと責任を感じて掘り起こしてみると、息子のせいばかりでないと判明。鉢植え時に絡み合った根の処理をあまりせず、そのまま植え付けたようで、複雑に絡み合ってしまい根が枯れてしまった様子。仕方がないと諦めたが、ある理由から新しく植えようと思い始めた。
ある理由とは、母親は網をかぶせて許さなかったが、ヒヨドリが実をついばみ、アゲハチョウが産卵しその幼虫が葉を食べると知ったから。母の没後、その楽しみを知った息子は彼らのなすがままにさせ楽しんでいたわけで、「新しく植えるか」との結論に。ホームセンターへ出向き、接ぎ木した部分が直径2センチ程の鉢植えを求め、1代目がいた場所へ、根の状態に気を付けながら地植えした。
それから7年ほど経つだろうか。2センチほどだった部分が10センチぐらいまで太くなり、かなりたくましい様相をしている。その割に樹高が2メートル弱なのは、小まめにせんていし、伸び過ぎないように抑えてきたから。
朝、玄関を出ると、キンカンの葉が揺れる。水道の凍結防止カバーを外しながら見ると、ヒヨドリが小さく泣きながら近くの電線へと飛び去る。キンカンの樹下には、半分ほどつつかれた実がいくつか落ちている。黒い糞(ふん)も落ちている。そのころにはナンテンの赤い実は無くなっている。
そして、キンカンが食べごろになるという寸法。よくしたものだと感心する。たまには息子も一つ二つ食べてみる。今年のキンカンはとても甘みが強い。結実の時季が暖かかったせいだろうか。
イモムシ=新幹線
この実が無くなり暑くなり始めると、次の白い小さな花が付き出す。そうなると次の客人がやって来る。アゲハチョウだ。カラタチやキンカンなどの柑橘(かんきつ)類が食草らしく、柔らかそうな葉の先に、金色の1ミリにも満たない卵を産み付ける。しばらくすると、見た目が小鳥の小さな糞のような幼虫が生まれる。結構な数が葉についている。
糞のような幼虫が葉を食べ続け、気付くと、黒っぽかった体色が緑色に代わり、太さ1センチぐらい、長さ4センチぐらいのイモムシが。我が家では「新幹線」と名付け、毎朝楽しんでいる。それらがいつの間にか見えなくなる。羽化に備え、サナギになるため目立たない場所へ移動するのだ。
どこへ? そう思いながら探すが見つからない。ある朝、羽化した個体に気付く。そこは雨戸の敷居の下陰。薄暗い場所に、羽化直後のアゲハチョウが美しく輝いている。幼虫の数からすれば、もっと成虫の姿があってもいいはずだが、厳しい自然界なのだろうか。だからこそ「きれいだな」との思いが強くなる。(写真家)






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