日曜日, 12月 21, 2025
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センタービルと『大菩薩峠』《映画探偵団》49

【コラム・冠木新市】11月3日(文化の日)、第1回 「つくばセンタービル謎解きツアー」を開催した。参加者は20~80代の10名。案内役は私が務め、ノバホール入口から2階センターの周囲をめぐって1階に降り、「中心」「異界」「水の精」「反転」「廃墟」「にわ」「鋸(のこぎり)状の柱」「モンロー」をキーワードに8つの光景を語り歩いた。

野外劇場の「廃墟」では、30年間、TVのSFヒーローが戦ってきたことを説明。すると、そばで戦隊ヒーロー物の撮影が行われていて、こちらが用意したゲストのようだった。8地点の「不連続の連続」ともいえる光景を語るうちに、ああこれは『大菩薩峠』の世界に似ているなと思った。

片岡千恵蔵主演『大菩薩峠』

小学1年の時、東映の片岡千恵蔵主演『大菩薩峠』(1957)を見て、主人公たちの善悪を超えた妖しい雰囲気が記憶に残った。中学1年の時、国語の女性教師が「私は中里介山著の『大菩薩峠』だけは最後まで読み切れなかったのよね」と言った。

その日、早速古本屋に行き、角川文庫版の原作を買い読み始めた。全巻読破と意気込んだが、11巻で挫折した。大学のころ、春陽堂文庫版が出た時も挑戦してみたが、駄目だった。代わりに解説評論本を何冊も読み、話の展開はあらかた予想がついた。映画で描かれていたのは前半部分のみである。

物語は、机竜之助が大菩薩峠で老巡礼を切り捨てる理由なき殺人から始まる。そして御岳神社の奉納試合で相手を打ち殺し、その妻お浜を連れ江戸へ出奔する。試合相手の弟は兄の仇の竜之助を追う。つまり、最初は仇討ち物語なのだが、徐々に竜之助の場面は減少し、脇役と思われた登場人物たちが活躍する群像劇になってくる。

さらに物語が進むと、旗本の駒井甚三郎が蒸気船を建造し南海の孤島に乗り出し、植民地をつくる話。顔に大やけどを負ったお大尽の娘お銀様が胆吹(いぶき)山麓に王国を建設する話。与八という無垢な男が寺子屋をつくり子どもたちを教育する話。幇間の金助が外国人向けに日本の芸能文化を見せる「帝国芸娼院」をつくる話など、海・山・里・町のユートピアづくりの物語へと変容していく。

そのうえ、後半では夢と現実が入り乱れ摩訶不思議な世界となる。幻想の小動物ピグミーが突然現れたり、歴史上の人物が時空を超え出現したり、一度死んだ男が幽霊とも現実ともつかぬ姿で出てきたりする。また、作者の介山が百姓弥之助として顔を出し、『大菩薩峠』の解説をする。夢と現実の比重は一体となって、いつの時代の話だか曖昧模糊(あいまいもこ)となり、幻想小説と化してしまうのだ。

今年、3年半かかり新聞小説を読むように、ちくま文庫版全20巻を読了した。そして、これまで読了できなかった原因が理解できた。それは主人公や物語の中心を探る読み方をしていたからだ。当初の主人公竜之助は最後には亡霊の存在となる。つまり、この物語は誰もが主人公で、中心が不在の伽藍堂(がらんどう)のような小説なのである。

「長編小説にも似た複雑な構成」

「この建物の場合は、直接的で、ほとんど具象的な引用で終始しているのは、長編小説にも似た複雑な構成をもつために、細部すなわち断片が、勝手に強い喚起力を発してもらう必要があったからである」(磯崎新編著『建築のパフォーマンス』)

謎解きツアーで一番受けたのは、ホテル最上階の「目のデザイン」がノバホール入口の三角窓に映り込み、キリスト教三位一体の父と子と聖霊を表す「プロビデンスの目」になることを紹介したときだった。この神の目はセンター広場の何もない空間を見つめている。仕掛けに満ちたセンタービルは、私にとって読みごたえのある長編小説なのである。サイコドン ハ トコヤンサノ。(脚本家)

<つくばセンタービル謎解きツアー参加者募集>
▽内容:センタービルに隠された建築の謎を解きながらビルを回る
▽日時:第3回 11月23日(火)ゲストと取材あり、第4回12月4日(土)、第5回12月12日(日)、各回午後1時から約1時間、参加費無料
▽定員:10名、小中高生大歓迎
▽要予約:090-5579-5726(冠木)

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