火曜日, 12月 23, 2025
ホームつくば2050年、食料リスクのない農業生産技術開発の方向性探る 筑波大など呼び掛け

2050年、食料リスクのない農業生産技術開発の方向性探る 筑波大など呼び掛け

2050年に向け、増加する世界人口を賄う農業生産技術はどの方向に進むべきなのかー。技術開発の方向性を探るオンラインシンポジウム「2050年、食料リスクのない豊かな社会を目指して」が、筑波大学(つくば市天王台)が代表機関を務める「作物サイバー強靭化コンソーシアム」の呼び掛けで22日、開催された。

プロジェクトマネージャーを務める同大生命環境系の大澤良教授は「2050年、世界人口は97億人に達し、現在の1.7倍の食料が必要とされる。これに対して代用食を検討する方向もあるが、多くの人は今程度の豊かな食生活の維持を望んでいるのではないか」とし、「食料生産に対する研究者としての我々の責任・方向性は、科学技術によって豊かな生活を保障することだと思う」と話した。

オンラインシンポジウムは内閣府のムーンショット型農林水産研究開発事業として開催された。同事業は、日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来の延長にない大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となり関係省庁が一体となって推進する制度だ。

農林水産研究分野では「2050年までに、未利用の生物機能のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」を目標に、2020年度から10の開発事業が始まっている。そのひとつが「サイバーフィジカルシステムを利用した作物強靭化による食料リスクゼロの実現」だ。野生植物などが持つ生物機能を活用して環境適応力の高い作物を迅速かつ自在に開発できるように、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたサイバーフィジカルシステムを使い、目的に応じて作物を迅速にデザインしてリリースできる技術開発を目指している。

世界では増加する人口を賄うため農業利用が困難な条件にある土地での作付けや、気候変動による降水量の変化や温暖化ストレスにも耐える品種が求められている。しかし現在作付けられている品種は栽培化の過程で、環境の変化に適応する多くの機能を失ってしまっている。

劣悪な環境でも栽培できる強靭な作物の開発が急務だが、現在の育種には、その実現を阻む3つの問題がある。野生植物などの持つ強靭なストレス耐性を利用できていない、多数の遺伝子を一度に改良できない、目的に応じて作物を迅速にデザインできない。

シンポジウムでは3つの問題に取り組む課題責任者から、研究内容が紹介された。「作物強靱化」を担当する東京大学農学生命科学研究科の藤原徹教授からは、野生植物などが有するストレス耐性遺伝子の情報を集積し、ストレス耐性作物のデザインに利用する内容が紹介された。たとえば雨が少ない地域で育つ植物の遺伝子を利用して、水分が不足しても育つ品種を作り出すなどだ。

「ゲノム・ダイナミック改変」を担当する京都大学農学研究科の安井康夫助教からは、野生植物などの未利用生物の利用を可能とするための遺伝子を明らかにし、また多数の遺伝子を同時に改変するためにゲノム編集技術の高度化や新規染色体操作技術の開発などを進めると紹介された。

「デジタル作物デザイン」を担当する農研機構作物研究部門の宇賀優作グループ長からは、見た目で品種を選ぶ従来の育種と異なり、遺伝子発現などの様々な分子情報や環境情報も用いて、目的の利用に合わせて作物をデザインする技術の開発について説明があった。この技術が完成すれば、個別の栽培環境に最適な品種を短期間に育種できるとのことだ。

またシンポジウムでは、特別講演として同プロジェクトに関連する社会的背景の話題提供がされた。京都大学工学研究科の藤森真一郎准教授からは気候変動と食糧安全保障の関係について、東京大学農学生命科学研究科の八木信行教授からは食料供給の拡大と地球環境保全の両立に向けて、ゲノム編集による品種開発会社パイオニアエコサイエンス及びサナテックシードの竹下達夫会長からは近未来の農業経営と種苗業並びにアグリビジネスについて講演が行われた。

シンポジウムには全国から413人の参加があり、終了後に行われたアンケートの多くは今後も定期的に情報発信を行うことを求める内容だった。また「先進的な内容が興味深かった」「勉強になった」とのコメントも寄せられた。(如月啓)

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県立高不足「つくばエリアは新たな事態に」 市民団体が学習会

人口増加が続くつくば市やTX沿線に県立高校の学級増や新設を求めている市民団体「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」(片岡英明代表)の学習会が21日、同市役所コミュニティ棟で開かれ、片岡代表が「最近の受験事情について」と題して基調報告した。 県教育庁が県高校審議会に示した資料で、2033年度のつくばエリア(つくば市など4市)の中学卒業見込者数が25年度の4393人より226人増えて4619人になり、日立エリア(日立市など3市)と水戸エリア(水戸市など4市)を合わせた4425人を上回ると推計され、さらに38年度にはつくば市1市だけで中学卒業見込者が3392人と見込まれ、日立エリアと水戸エリアを合わせた3429人に匹敵する推計値が出されていることについて(8月27日付)、「つくばエリアは新たな事態に直面している。このままではさらに重大な事態になる。県立高校の緊急な定員拡大と本格的な対応が必要」だなどと話した。 つくばエリアの県立高校は、学級数で比較すると25年度はすでに県平均より17学級(定員680人分)不足しており、今後も県立高校の定員が変わらないと、子供の数がさらに増える33年度はさらに深刻になるとした。 改善した高校はプラスに ここ数年の受験事情については、つくば市は生徒数が増加する中、県立高校の定員不足に加えて土浦一高の付属中設置による定員削減の影響で、市外の高校に通学する生徒が多く、通学に苦労している。土浦市の生徒は、つくば市から土浦市内の高校への流入と土浦一の定員削減で、志願者数が多い高校が毎年変わるなど進路決定に迷いがみられ、土浦一高を受験するのを控えている。牛久市は進学志向が強いまちだが、土浦の高校から牛久市内の高校への回帰がみられるーなどと昨今の傾向を話した。 一方で、①2024年度に定員を1学級(40人)増やした牛久栄進高校は地元牛久市とつくば市からの入学者が増えた ②25年度に普通科を新設したつくばサイエンス高校は入学者が増え、地元のつくば市内の中学校からも入学者が増えた ③筑波高校は今年度、つくばサイエンス高の普通科設置で入学者数が減ったと考えられるが、地域とつながる小規模多面高校として学校づくりをしているーなどと分析し、「26年の募集定員の発表で、期待していた竹園高校の定員増は実現しなかったが、改善した部分は確実にプラスになっているので、改善が必要だと県に要望していきたい」などと話した。 「当時者として不安しかない」 学習会には小中学生の子供をもつ父母らも参加した。都内からつくば市に転居してきたという母親は「都内から来て、つくばは高校の通学費が月3万円くらいかかると聞き、こんなに通学費が高いんだと驚いた。公立高校は行きやすいところにあることが重要なのに、当事者として不安しかない」などと語った。中学生と高校生の子供をもつ土浦市の母親は「つくばに高校の選択肢が少ないことで、つくばの生徒が土浦や牛久に流れていて、土浦の生徒は、土浦一高と二高は、つくばの出来る子が行くところだと思うようになっている。近い高校に行ける仕組みをつくってほしい」と訴えた。 PTAの活動で、隣のつくばみらい市で開かれた会合に参加したというつくば市の父親は「(会合に)つくばみらい市の小田川浩市長も参加していて、小田川市長から『市立高校をつくりたい』という話を聞いた。つくばみらいには伊奈高校があり、市役所に入ってくる卒業生がすごくいい子だから、地元で地元の子を育てたいということだった。そうしたこともいいのではないか」などと話した。(鈴木宏子)

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