日曜日, 5月 11, 2025
ホームコラム《映画探偵団》40 つくばセンタービルを展望する

《映画探偵団》40 つくばセンタービルを展望する

【コラム・冠木新市】「今日、真に躍動している中心的存在は科学と政治である。アートと建築は端の方に追いやられ、あたかも余分なもののように感じられる」(世界的建築家・アレッサンドロ・メンディーニ)

世界的な建築写真家・二川幸夫が「つくばセンタービル」にほれ込み、完成から10年後に全40ページの写真集『GA69』(1993年刊)を出版した。18~19ページに見開きで、ノバホール側から見たセンター広場とホテルの全貌が写しだされている。そして、ページ真ん中の奥の方にポツンと小さな「展望塔」が見える。

中心市街地の松見公園に立つ高さ44.4メートルの展望塔は、菊竹清訓の設計で1976年6月1日に開設された。外観から地元では「栓抜き」と呼ばれていたが、展望塔という素っ気ない名称になり、40数年前のつくばの雰囲気をよく伝えている。

この塔に登ると、筑波山とつくばセンター地区が一望できる。不思議なのは、センター地区のセンタービルに視線が向いてしまうことだ。展望塔が出来てから7年後、1983年6月10日に完成した高さ44.85メートルのセンタービル。この2つは一直線でつながっている。同じ時期の6月に完成、ほぼ同じ高さ、素っ気ない名称から、設計者・磯崎新は展望塔をリスペクトして、センタービルを構成したことが理解できる。

『GA69』には、メンディーニが文を寄せている。「何世紀もの歴史が凝縮した未來主義的エジプトスタイルが、たった一つの広場の回りに集められて、建築史の百科事典的シンボルになっている。それは俯瞰(ふかん)的な広い視野の中で作り上げた『信念』のユートピアと言うべきもので、そのユートピアは、現代の不安定さと混沌から類型的、様式的、制度的に保証する限りなく権威ある流れに反するものである」。

市川崑監督『おはん』の2人で1人

私がつくば市に越してきたのは1993年。写真集刊行と同じ年である。センタービルと展望塔の間に、デパートの映画館、新刊書店、レンタルビデオ店、図書館、美術館、喫茶店、古民家、市民ギャラリー、プラネタリウムなどが集まっていて感激しきりだった。

なかでも、展望塔近くに何軒も連なる古本屋街には何度となく通ったものだ。この2つの建築を結ぶ空間は、歴史と未來の物語が輝くアートゾーンだと思った。いや今でも思っている。

センタービルが出来た翌年、『おはん』(市川崑監督)という映画が公開された。古道具屋の幸吉(石坂浩二)が、ほとんど自己主張しない女房おはん(吉永小百合)と嫌いになったのでもないのに別れ、上昇志向で気の強い芸者おかよ(大原麗子)と一緒になる。しかし、ふとした拍子におはんと寄りが戻り、ラストではおかよと暮らすことになる。一人の男性が二人の女性の間を行ったり来たりする話である。

どちらの女性を好むかは人によるが、市川監督は二人合わせて一人の女性として描いた。地味ながら渋い作品に仕上がっていた。センタービルと展望塔の間を歩くと2つの建築物が一体であると感じられ、この作品がよみがえってくる。

破壊されようとしている壁と階段

今、センタービル広場の一角が破壊されようとしている。ホテル側にエスカレーターを設置するために、階段を造り替えてしまうからだ。そのため、展望塔に向いた壁が取り壊される。だが、その壁には人間の目の形をしたデザインが施されてあるのだ。広場中心にある噴水を見るこの目の形が無惨にも壊されてしまう。

ほかにも、「広場窓ガラス全部の取り替えが決まっているよ」とある人が教えてくれた。初耳だった。オープンハウスの説明会では聞かなかったからだ。つくば市は予算が余り、使いみちに困っているのだろうか。無駄遣いをして文化財を改造するのはよした方がよい。

あと2年でセンタービルは40周年を迎えるが、『GA69』を携えてつくばを訪れる建築愛好家がいたら、あまりの改造ぶりを見て涙を浮かべるに違いない。展望塔は、つくば市役所と市議と科学と政治を優先する市民の行為をジッと見ている。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

世界の物語を絵で表現 上渕翔さん つくばで個展

つくば市在住の画家、上渕翔さんの個展「紡がれる物語」が16日から、つくば市千現、二の宮公園前にあるギャラリーネオ/センシュウで始まる。日本書紀や万葉集、グリム童話、マザーグースなど、世界各地の物語から着想を得た新作を含む絵画作品約30点を展示する。会場には移動式のスロープが用意され、必要に応じて設置される。「つくばで開いている絵画教室の生徒や知人に、日常的に車いすを利用している人たちがいる。つくばでの個展開催は4年ぶり。ぜひ、多くの方に足を運んでいただき、私が受け継いだ物語を、作品を通じて見た方に伝えられたら」と、来場を呼びかける。 展示のタイトルにもなる作品「紡がれる物語」は、濃紺のマントを羽織ったうつむく女性を木製の板に描いた作品だ。開いたマントの内側には、雲から落ちる雨、雲間に浮かぶ満月、その上空に舞う3羽のツバメが描かれている。この作品は、江戸時代に活躍した石の収集家で鉱物学者・木内石亭による、日本で最初の石の専門書「雲根志(うんこんし)」からヒントを得た。木内が同書に記した石の一つに、羽を開いたツバメに似た「石燕(いしつばめ)」という二枚貝の化石がある。当時の人々はこの石を、ツバメが石になったものと考えた。雷風雨に打たれるとツバメとなって空を飛び、雨が乾くと再び石に戻ると信じたという。石燕は、安産のお守りとしても利用されていたことから、女性を表す満月と共に、雨とツバメを描き込んだ。 「三匹のこねこ、てぶくろなくして」は、イギリスに古くから伝わる童謡「マザーグース」の一つをもとにした作品だ。手袋をなくして怒られた三匹の猫が、見つけたごほうびにパイを食べる話で、回転する木製の歯車に描くことで、リズミカルに展開する物語を表現した。 中央に金箔の帯をあしらった「終わりから生まれる」は、古事記や日本書紀に記される、食物の起源に関する神話をモチーフに描いた。神話では、命を落とした女神の亡きがらから、稲やヒエ、蚕、小豆、牛馬など、人の暮らしに不可欠な食べ物が生まれる話が記されている。その他に、土砂崩れの原因を、地中に潜んだ法螺貝(ほらがい)によるものだとする伝説「法螺抜け」をもとにした「貝が夜空の夢をみる」、かつてあった信仰の場所を木々が覆う「眠る島」などが展示される。 スロープ設置、気軽に声をかけて 「作物の起源を記した神話は、アジアやアメリカ大陸などにもあることが知られている。さまざまな物語を読んで感じるのが、東も西も人は同じ感覚を持っているということ。当時の人が、なぜそう考え、信じたのか興味がある」と上渕さん。「昔の人の想像力を、絵という形でアウトプットした。私が受け継いだものを、見た方にも受け継いでもらえたらいいと思っている。いろいろな物語を絵に込めている。毎日在廊する予定。是非、説明させていただきたい」と述べ、「会場には、移動式のスロープがある。車いすの方だけでなく、ベビーカーの方や足の弱い方にも必要なもの。すぐに取り付けられるので、気軽に声をかけてほしい」と話す。 熊本県出身の上渕さんは、2007年に筑波大学芸術専門学群洋画コースを卒業。現在は、つくばを拠点に個展の開催や、全国各地で開かれる合同作品展への参加を通じて作品を発表している。2021年には水戸市備前町の常陽史料館で、木製の板や丸太などに描いた58作品を展示する個展を開いた。(柴田大輔) ◆上渕翔個展「紡がれる物語」は16日(金)~6月1日(日)、つくば市千現1-23-4-101、ギャリーネオ/センシュウで開催。開館は金・土・日曜のみ(月~木は休館)。開館時間は正午から午後7時まで。入場無料。問い合わせはギャラリーネオ/センシュウのメール(sen.jotarotomoda@gmail.com)へ。

筑波大が4連覇 天皇杯県代表決定戦

第28回茨城県サッカー選手権兼天皇杯JFA第105回全日本サッカー選手権県代表決定戦は10日、ひたちなか市新光町の市総合運動公園陸上競技場で開催され、筑波大学蹴球部が流通経済大学体育局サッカー部を1-0で破り、大会4連覇を達成した。筑波大は天皇杯本戦への出場を決めた。 第28回茨城県サッカー選手権大会兼天皇杯JFA第105回全日本サッカー選手権大会茨城県代表決定戦(10日、ひたちなか市総合運動公園陸上競技場)筑波大蹴球部 1-0 流通経済大体育局サッカー部前半0-0後半1-0 関東大学リーグでは無敗で首位(5月6日現在)を走る筑波大と、無勝で下位に沈む流経大が、天皇杯県予選決勝で顔を合わせた。 今季のチームについて、筑波大の小井土正亮監督は「加藤玄がJ1名古屋、諏訪間幸成が横浜F・マリノスに入団するなど4年生の層が薄くなり、厳しいシーズンになった。だが今季初スタメンの選手や一般入部の選手らが頑張り、新戦力が台頭してきている」と、手応えを感じている。 それでも両チームの力には、順位通りの明確な差があるわけではない。事実、4月12日の対戦では1-1の引き分けに終わっている。「今日も難しい戦いになることは想定内だった。先に押し込まれるピンチはあったが、一人一人が責任持って戦ってくれて守りきれた」と小井土監督。 前半は流経大が、サイドを使ったスケールの大きな攻撃と、2ラインをきれいに並べたコンパクトな守備で筑波大を圧倒した。流れが変わったのは後半明けの選手交代から。筑波大はピッチコンディションを考慮した2トップの形を止め、FW内野航太郎とMF清水大翔の1トップ1シャドーといういつもの形に戻した。 得点が生まれたのは後半23分。右サイドでのパス交換で敵陣深くへボールを運ぶと、攻撃参加していたDF布施克真からMF清水大翔へ横パスが通る。清水がワンタッチで前へはたくと、相手守備の裏をうかがっていたMF廣井蘭人が、左足でのシュートをゴール左隅に決めた。廣井はそのまま右コーナー付近へ走り、膝スライディングで喜びをアピール。駆け寄ってきたチームメートにもみくちゃにされた。 「狙っていた形。センターバックとサイドバックの間が空くことはスカウティングで分かっていた。清水のパスで決まったようなもの。彼はほかの人とは違う感覚を持っている。トンと優しく置いてくれた。自分はどこを狙うというわけはなく、ふかさないよう当てることを意識した」と廣井のコメント。アシストの清水は「顔を上げたいいタイミングで布施から横パスが来て、フリーだったのでうまく抑えながら足元に出せた」と振り返った。 これで天皇杯本戦への出場を決めた筑波大。初戦は5月25日、埼玉県大宮市のNACK5スタジアムでRB大宮アルディージャと対戦する。勝てば2回戦は6月11日で相手はV・ファーレン長崎。7月16日の3回戦では鹿島アントラーズが予想される。「天皇杯は毎年楽しみにしている大会。1試合でも多くやりたい。プレッシャーもあるが茨城の代表として立ち向かっていき、新しい歴史を作りたい」と小井土監督。廣井は、帝京長岡高の先輩の谷内田哲平が大宮にいるので「対戦するのがめちゃくちゃ楽しみ。行けるところまで行きたい」とモチベーションを高めている。(池田充雄)

ナイトクルージング あわや詐欺!?《続・平熱日記》180

【コラム・斉藤裕之】東京 夢の島からナイトクルージング。よほどのことがない限りこういったお誘いはお断りするが、次女の結婚を祝っての企画とあっては喜んではせ参じるしかない。 この催しを提案してくれたのは長女の義父母。つまり、次女からすれば姉の義理のお父さんお母さんということになる。一般的にこういう関係性の場合、それほど親しく付き合うことがないと思われるが、次女と姉の義父母はとても仲がよく、誕生日や年中行事を共にする。 さて、当日は桜が一気に咲いたと思ったら真冬の寒さ。しまいかけたダウンジャケットを引っ張り出して、新木場駅から夢の島マリーナへ。いや~、世の中にはお金持ちがこんなにいらっしゃるんですねえ。マリーナに並ぶ大小様々の豪華なヨットやクルーザーを見ての率直な感想。 ところが、ここで気になる情報が飛び込んでくる。詳細は抜きにして、食べ物付きのプランを予約したのだけれど、ちょっとした手違いがあったらしく、出航がやや遅れるとのこと。そこで通されたのは、このマリーナのオーナーズルーム。さすがにお金持ちのたまり場感。とりあえずそこで待機。 しかし、待てど暮らせど、出航の案内がない。小一時間が経ったころ、オーナーズルームの営業が終了したと告げられ、追い出されるようだ。船主に連絡を取るも音信不通。一同待ちくたびれるし腹は減るし、イライラが募ってきたころ、誰ともなく「これは詐欺にあったんじゃないか?」と、つぶやいた。 というか、こうなったら新木場まで戻って、居酒屋で一杯やるかと動き出そうとしたそのとき…船長現る。 夜の東京の明るさに驚いた 多分、何とかして食べ物を手配していたのだろうと推測されたが、船長の言い訳は天候の回復を待っていたとか。それにしても、ここは一言言わずにはいられないと誰もが思っていたところに、義母の「めでたい日だから…」という慈悲深い一言で、なんとか平静を保つ。 ともあれ、無事に出航。とにかく寒い夜だったが、3歳の孫は初めての経験に大満足。雨も上がって、東京の夜景、そしてライトアップされた満開の桜が、次女夫妻の門出を祝っているかのよう。もちろん、新婚の2人も感慨ひとしおの様子。 一方、夜の東京の明るさに改めて驚いた。ウォーターフロントに林立するタワーマンションのきらびやかなこと。次々に現れる橋や東京タワー、スカイツリーも煌々(こうこう)と輝いている。世間で米が高いとかガソリンや電気代が値上げとかで騒いでいるのが、うそのようにさえ感じられる。 2日前まで、山口の山の中で、夜が明ける前の暗闇の中をパクと散歩していたことを思い出して、余計に別の国のことのようにも思えた。 帰りは、みんなと別れて独り東京駅に向かう電車に乗った。結構遅い時間になっていたが、夢の国からの客で電車は満員だった。(画家)

純利益87%増、増収増益に 筑波銀行25年3月期決算

筑波銀行(本店・土浦市、生田雅彦頭取)は9日、2024年度3月期決算(連結)を発表した。1年間の純利益は41億300万円で、前年と比べ87%の大幅増となり、増収増益となった。生田頭取は「(ゼロ金利やマイナス金利から)『金利ある世界』で、プラス要因の方が大きかった」などと話した。 経常収益は前年とほぼ横ばいの411億2600円。株式などの売却益は減少したが、貸出金利息や預け金利息が増加し資金運用収益が増加した。 経常費用は前年比19億7500万円減の366億4900万円。「ここ3年間のうち先の2年間は大口(取引先)の(信用状況が悪化し)ランクダウンにより(貸し倒れに備える)与信コストがかかっていたが特殊要因が無くなった」とした。 単体の預金残高は2兆6343億円、預かり資産残高は3693億円、貸出金残高は2兆1160億円と、いずれも過去最大となった。預金は個人や法人預金のほか公金預金が増加した。預かり資産は投資信託が前年比129億円増加し、生命保険も100億円増加した。貸出金は、原料コストの上昇や人手不足など厳しい環境にある地元中小企業に対する資金繰り支援などに注力したほか、住宅ローンはTX沿線の資金需要に積極的に対応し7%の伸びとなった。 トランプ関税の影響について生田頭取は「(取引先の)ヒヤリングが終わり、急激にどうこうというところは無かったが、影響が懸念されるところが散見された。今後さらにひざ詰めでヒヤリングし、当行で何ができるか情報提供したい」などと話した。