土曜日, 10月 24, 2020
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創作版画の草分け 永瀬義郎展 つくばの古書店

【池田充雄】県西出身で大正・昭和期に活躍した版画家、永瀬義郎の作品展「創作版画の草分け 永瀬義郎展」が、つくば市吾妻の古書店、ブックセンター・キャンパスで開かれている。展示作品は版画や絵皿など14点。一部は額装されて店頭に飾られている。ほかに表紙画を描いた雑誌や著書、画集なども展示している。

永瀬は1891(明治24)年、現在の桜川市入野に生まれた。県立土浦中学校を卒業後、白馬会洋画研究所を経て東京美術学校彫刻科に入学。ムンクの作品に影響を受け、版画制作を始める。1912(大正元)年、詩人、日夏耿之介や西條八十らが創刊した文芸同人誌「聖盃」(後に「仮面」と改題)に参加。表紙画や口絵を手掛けたほか、小説や戯曲、詩なども発表した。

同人誌「仮面」より、永瀬が表紙を描いたもの

創作版画に対する考え方は「仮面」1914(大正3)年9月号掲載の評論「現今の版画に就いて」に詳しい。当時、自画自刻の版画作品が増えてはいたが「皆装飾的趣味の遊技的産物に過ぎず、版画の独立した芸術としての価値を発揮している者は一人もない」と嘆き、一方で長谷川潔に対しては「白と黒の調和を基礎として簡潔にして偉大な印象」と讃え、広島新太郎については「刀のテクニックにも他の人と違った切れ味」があり「従来の版画と違った近代思想に触れた氏の個性のひらめき」が認められると述べた。

1916(大正5)年、永瀬・長谷川・広島の3人は本邦初の版画結社「日本版画倶楽部」を結成したが、翌々年には長谷川がフランスへ活動拠点を移し、自然消滅した。後に広島は晃甫の名で日本画家として名声を高め、永瀬は山本鼎らが創立した日本創作版画協会に活動の場を移していく。

1922(大正11)年に永瀬は技法書「版画を作る人へ」を上梓。当時の美術書としては異例のベストセラーになり、棟方志功や谷中安規ら多くの版画家に影響を与えたほか、多様な分野の芸術家に斬新な発想の転換をもたらしたという。今展では旧版と新版を展示しており、旧版の方は木版刷りの口絵が殊に美しい。

もう1冊の著書は1977(昭和52)年刊行の自伝「放浪貴族」。谷中安規や宇野浩二ら画人・文人との交遊が興味深い。土浦出身の随筆家で劇作家の高田保も登場する。永瀬は1923(大正12)年の関東大震災の後、東京の子どもたちを人形芝居で慰めようと高田に呼び掛け、坪内逍遙、島崎藤村、北原白秋、武者小路実篤らに援助を仰いだ。宇野宅では永瀬が人形を操って「舌切り雀」のひと踊りを披露し、高田が口笛で伴奏をつけたという。

永瀬は1929年(昭和4年)から7年間の渡仏を経て、帰国後も戦中・戦後を通して精力的に活動した。晩年はシルクスクリーンを改良した独創的な版画技法「ナガセプリント73」を駆使し、代表作「もの想う天使」や「女とこども」など、愛と幻想に満ちた作品を発表し続けた。

再評価の契機に

展示作品の一つ

「今回の展示は戦後が中心だが、戦前の作品の方が評価は高く、特に初期の木版画はかなり斬新。『版画を作る人へ』の口絵などを見ると、その良さがよく分かる」とブックセンター・キャンパス店主の岡田富朗さん。

今展の開催意図については「盟友の長谷川潔は世界的に有名だが、永瀬はいま一つ評価が低い。日本で最初に版画の展覧会を開いたすごい人なのに、今は知る人が少ない。版画のほか油絵や文章などマルチな才能を発揮したことも、日本では逆に軽視されやすい傾向がある」と話し、再評価の契機としたい考えだという。

◆同展は30日まで。会場のブックセンターキャンパスは同市吾妻3-10-12。営業時間は午前10時~午後4時。現在は不定休、来店前の電話確認が確実。電話029-851-8100(同店)。

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