ホーム コラム 《続・平熱日記》63 我流養生訓

《続・平熱日記》63 我流養生訓

【コラム・斉藤裕之】玄関から上がって「?」。何か踏んだな。よく見ると大きな犬の歯。フーちゃんの歯。

フーちゃんはこの家を建てた次の年の春にやってきた。だから満17歳。歯も何本か失ったが、今は目も耳もほとんど利かないのだろう。呼んでもあらぬ方向を見つめたり、帰宅しても気づかずに寝ていたりする。おむつもするようになった。

それでも、とにかく食欲は旺盛なのだが足腰が弱っているので、食べている間にだんだんと手足がハの字に開いていってしまう。しまいには全開脚して、すっかり這いつくばったまま、それでも食べ続ける。

ひょいと尻尾を持って引っ張り上げて、足が開かないように私の足を両の後ろ脚の外側に添えてやると、なんとか姿勢を保ちながら、えさの入った洗面器を空にする。

洗濯物干しスクワット

実は私も、今年になってどうも左の膝に違和感を覚える。余談だが、こういうときにちょっと人に聞いてみるのはよいとして、最近ではSNSで体調が悪いだの、病院に行きましたとか、家族がどうしたとか呟くのはどうかと思う。

どこの家にも、具合の悪いことは一つや二つあるものだ。世の中がそんな投稿で溢れてはかなわない。私の場合、これまでケガなどの経験は人より多いと思っていて、大概(たいがい)自分流に対処してきた。

しかし今回は違う。明らかに経年劣化。それから確実に運動不足。だからといって、ウォーキングやジムに通うのはどうも。本来は、水汲みや雑巾がけなど、日々の暮らしの中に肉体労働がバランスよく入っているのが理想なのだが、生憎(あいにく)そこまで不便な暮らしでもない。そこで、私が毎朝密かに始めたのが、名付けて「洗濯物干しスクワット」である。

洗濯はもう十数年来私の役目。娘たちがいたころとは違い、夫婦2人の洗濯物は実にシンプルで、下着や靴下は洗濯ばさみが十(とお)も付いた小さな物干しハンガーで十分だ。

そのハンガーは床から60センチほどの高さにぶら下げてある。まずはカミさんの下着を持ってゆっくりしゃがむ。足は肩幅。一番きついところでキープして、洗濯ばさみでとめる。ゆっくり立ち上がって次は私のパンツ。そして靴下…。都合10回ワンセット。ポイントは呼吸法と膝を締めて開かないこと。すぐそばで寝ているカミさんに気付かれないこと。これだけで意外に効く。ライバルは三浦雄一郎、目指すは千代の富士の肩というところか。

抜けた愛犬の歯と私の歯

それから、フーちゃんの抜けた歯は、いつか描くこともあろうかと集められたガラクタどもと一緒に、アトリエの机の上に置いた。その横には自然に抜けてしまった私の歯も並んでいる。まさかこれを描くことはないが、生え変わることを願って放り投げることもないし。

さて今年も定期検診に行ってきた。何も問題はなかった。気がかりなのはやはり膝だ。そこで、洗濯物干しスクワットに加えて、台所仕事にもひと工夫して下半身を鍛えようと思う。今日から夕飯は「中腰料理」である。コラーゲンの有無はともかくも、シェフの膝はプルプルである。(画家)

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