土曜日, 7月 19, 2025
ホームつくば障害当事者がつくばで問う やまゆり園事件で見えてきたものと見えないもの

障害当事者がつくばで問う やまゆり園事件で見えてきたものと見えないもの

【川端舞】障害者入所施設「津久井やまゆり園」(神奈川県相模原市)で殺傷事件を起こした植松聖被告と面会を重ねているノンフィクション作家の渡辺一史さんが15日、つくば市吾妻、吾妻交流センターで講演した。残忍な事件を起こした被告の異常性が話されるとともに、異常性が作られた背景にある障害者施設の実態も言及された。

渡辺さんは、筋ジストロフィーという難病当事者の地域生活を描き、昨年映画化もされたノンフィクション小説「こんな夜更けにバナナかよ」の著者。これまで13回、植松被告と面会してきた。その中で見えてきた植松被告の人間像を語ってもらおうと、当事者による障害者支援団体「つくば自立生活センター ほにゃら(川島映利奈代表)」が講演会を企画し、約40人が参加した。

事件後、それぞれの思い語り合う

同センターは、どんなに重い障害があっても入所施設ではなく地域で暮らしていける社会を目指して、地域で暮らしている障害者を支援したり、一般の人たちに障害者への理解を広めるために様々なイベントを開催している。やまゆり園事件の直後には、障害者や支援者を集めて犠牲者を追悼し、それぞれの思いを語り合う集会を開いた。センターの事務局長で自身も重度身体障害をもつ斉藤新吾さんは当時「『意思疎通のとれない障害者は安楽死させるべきだ』という植松被告の考えは極端だが、障害者は必要のない存在であるという考えは、無意識のうちに誰もが持ちうるものだと思う」と語った。

それから約3年後の2019年、同センターは、「こんな夜更けにバナナかよ」が映画化されたのをきっかけに、渡辺さんに「なぜ人と人は支え合うのか―『障害』から考える」をテーマに講演を依頼した。その中で渡辺さんはやまゆり園事件にも触れ「『障害者は生きている価値があるのか』という質問は、一見するとデリカシーのないものだが、インターネットの掲示板には多くの人が同じようなことを書いている」と指摘した。

渡辺さんが植松被告と面会を重ねていることを知った同センターは、植松被告の公判が開かれている今、被告がどのような人間なのかを知り、今後同様の事件を起こさせない、障害があってもなくても一緒に生きていける社会をつくるヒントを考えたいと、渡辺さんの講演会を企画した。

なぜ事件を起こしたのか

この殺傷事件が世の中に衝撃を与えた理由の一つに、被告がその施設に3年以上勤務していた元職員だったことがある。これまでの渡辺さんの取材によると、やまゆり園に就職した頃の被告は入所者のことを「かわいい」と言っており、将来は特別支援学校の教員になりたいという希望を持っていた。そのためのステップアップとして障害者施設の職員になったという経緯もあったという。

そのような志を持った青年が、なぜ障害者殺傷事件を起こしたのか。脱法ハーブや大麻を常用したことによる精神障害があったと弁護人は主張している。また、障害者への差別意識は多くの人が持っていても、それを「人を殺傷する」という具体的な行動に移すのには大きな隔たりがある。「被告がそこを越えてしまった原因がまだ理解できない」と渡辺さんは語った。

園内の環境も影響

一方、被告の中に「安楽死思想」が形成された背景には、彼が働いていた津久井やまゆり園内の環境も影響を与えたのではないかと渡辺さんは指摘する。去年6月にNHKで放送されたやまゆり園の元利用者についての報道を機に、やまゆり園の実情が問題視されるようになったといわれる。その利用者は、やまゆり園時代は「突発的な行動もあり、見守りが難しい」という理由で、車いすに長時間拘束されていたが、事件後、別の施設に移り、拘束を解かれた生活をするうちに、リハビリにより歩けるようになったほか、地域の資源回収の仕事までできるようになったそうだ。

また、渡辺さんが元利用者家族から聞き取った話では「居室が集まっているユニットはおしっこ臭かった」「毎日風呂に入れてもらっているはずなのに、フケも臭いもすごい」「部屋が施錠されていたのではないか」など園の実情に数々の疑問が聞かれた。そのような園の状況が、被告の「安楽死思想」に影響を与えたのではないかと渡辺さんは考える。その上で、渡辺さんはこれまでの取材の中で他の施設についての惨状を聞いてきた経験から、「津久井やまゆり園が特別なのではなく、同じようなことは他の入所施設でも起こりうる」と、入所施設の限界を指摘した。

講演会の参加者の一人は「私自身、知的障害の子どもを育てている母親として、この事件にはあまり関わりたくなかったが、事件の本質には被告自身の問題だけでなく、社会全体の問題があり、このまま終わりにしてはいけないと感じた」と話した。

5月の全国集会でもテーマに

今年5月30、31日に、つくば国際会議場でDPI(障害者インターナショナル)日本会議の全国集会が開催される。DPI日本会議とは、現在130カ国以上が加盟し、障害のある人の権利の保護と社会参加の機会平等を目的に活動をしている国際 NGOの日本国内組織である。2日間で全国から多くの障害者が集まる。2日目にはやまゆり園事件の裁判についても取り上げる予定である。この集会の実行委員会をつくば自立生活センターも担っている。

同センターは「3月16日にこの裁判の判決が予定されているが、3カ月程度のスピード判決はこの事件の何を浮き彫りにするのか。検証すべき重要な問題を闇に葬り去ってしまうことにならないか。障害者への差別や偏見を助長したりしないのか。様々な立場から問う機会にしたい」としている。

大規模の入所施設では限界

【記者のつぶやき】入所施設の場合、どうしても一人の職員が担当する入所者の数が多くなってしまい、入所者一人一人に丁寧な個別対応は難しい。被告が「意思疎通のとれない障害者」と称した被害者の方々も、一人一人、時間をかけて向き合えば、身振りや表情など、言葉以外の方法でコミュニケーションをとろうとしていたはずである。彼らが伝えようとしている想いを、周囲が丁寧に受け取れるようになるためには、大規模の入所施設では限界がある。入所施設の限界が浮き彫りになった今こそ、入所施設ではなく、在宅で障害者一人一人と関係性を作りながら支援することに重点を移すべきであろう。

➡障害者自立センターほにゃらの過去記事はこちら

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

幼稚園の給食に異物混入 つくば市

つくば市は18日、市内の市立幼稚園に同日提供された給食に、長さ5ミリくらい、太さ1ミリくらいの金属片と見られる異物が混入していたと発表した。18日時点で健康被害の報告はなく、他校から同様の異物混入の報告もないという。 市教育局健康教育課によると、同日午前11時30分ごろ、給食の配膳をしていた同幼稚園の配膳員が、給食のデザート「レモンゼリー入りフルーツナタデココ」を配膳中、異物が混入していることに気付いた。 デザートは同日、市ほがらか給食センター谷田部で他のメニューと合わせて調理され、市立幼稚園4園、小学校6校、中学校3校に計3317食が提供された。デザートは調理前、フルーツの黄桃とパイナップル、ナタデココ、レモンゼリーがそれぞれ別々のパウチ袋に入っており、給食センターで混ぜて、各校に提供された。 異物混入を受け、市は幼稚園4園と小中学校9校に対し、デザートの提供を停止するよう連絡。小中学校は間に合って停止できたが、他の幼稚園で園児3人がすでに食べてしまっていた。18日までに3人に体調不良などはないという。提供を停止したデザートは廃棄処分とした。 異物の混入経路については18日午後、給食センター、幼稚園、食材納入業者それぞれで混入経路を調査し、幼稚園では保健所による立ち入り調査が行われたが、同日時点で混入経路は不明という。市は22日以降、検査を行い成分を分析する。保護者に対しては18日付でお詫びの通知文を出したとしている。

クモの巣とメジロ《鳥撮り三昧》3

【コラム・海老原信一】クモの巣とメジロにいったいどんな関係があるって言うのかしら?そんな疑問が浮かんでくれたら、話し手としてはこの先の展開がしやすくなります。 10年以上も前になりますが、相も変わらず重めの機材をセットした三脚を担いで林道を「鳥さんヤーイ」と念じながらテクテクと。少し視界が開けた所に出たので三脚を下ろし、一息深く呼吸。目の前の風景に視線を向けていました。 すると、樹間を1羽のメジロが飛びぬけようと左手から右手へ。直後にはその姿が見えるはずと見ていたが、「あれ、出てこないぞ、どうして?」。途中で止まるような飛び方ではなかったのですが…。 不思議に思い、少し立ち位置を移動してみる。ありゃー、何てことだぁ~。こんなことってあるのかぁ~。なんとそこには、クモの巣に引っ掛かり、羽をばたつかせながらもがくメジロの姿が。鳥は見かけよりずっと軽量とは言うものの、この光景には驚くばかりでした。 こちらが手を出せるような場所ではないので、ハラハラしながら見守る以外には手だてなし。30秒(私の感覚的な時間)ぐらいしたところでクモの糸が切れたらしく、かの鳥は無事飛び去って行きました。体長11~12センチぐらい。体重も10グラムちょい程のメジロですから、クモの糸にからめとられたのも納得と、後から思うのでした。 羽に糸がへばり付いてしまい、飛行が困難になっていたらと思い、そうならなかったことに一安心した顛末(てんまつ)でした。(残念ながら写真はありません) 花と鳥、どっちが主役? 写真展開催時、持参したポストカードの一枚をご覧になった方の「花と鳥とどっちが主役?」の質問に一瞬戸惑いました。一呼吸おいて「確かに言われる通りかもしれないですね」。花の蜜に上からアタックするメジロ、歓迎するかのごとき妖艶な赤い花(上の写真は花と鳥の取合わせは同じですが別のものです)。 鳥を主役に撮ったつもりの私には、思いもよらない感想をいただいた訳です。人々の風雅をめでる心持ちを思えば、花と鳥はよい組み合わせと言えます。花鳥風月といった言葉もありますから、花と鳥、どっちが主役でもよいのかな。 その経験が、後々の鳥を撮影する際の心構えに大きく影響しています。誰かの一言が新しい発見となったり、自身の指針となったりって、「やっぱりあるんだなあ」と思います。耳や目をもう少しだけ動かしてみようかな。心も体も動くかもしれないから。(写真家)

土浦三 水戸葵陵に逆転負け【高校野球茨城’25】

第107回全国高校野球選手権茨城大会は18日、3球場で3回戦6試合が行われた。J:COMスタジアム土浦の第2試合では土浦三が水戸葵陵と対戦し、9回に逆転され2-3で敗れた。 18日 3回戦 第2試合 J:COMスタジアム土浦水戸葵陵 000000012 3土 浦 三 000000200 2 序盤は緊迫した投手戦が繰り広げられたが、土浦三が最後に力尽きた。「接戦を予想していて、2点ビハインドくらいまでは想定内だった。だから0-0で来たのは上出来。しかしミスからピンチを招き、全体のあせりにつながった。選手たちには5回後のグラウンド整備の時間に『受け身ではなく捨て身で行こう』と声掛けしていた」と竹内達郎監督の振り返り。 土浦三はこの日も2回戦と同様、左右のダブルエースを早いイニングで継投した。先発は左の池田翔。「後ろにもいい投手が控えているので、後を考えず1イニング1イニング全力で行く意識で投げた」と池田。3回まで散発3安打ではあったが、四球や暴投などで毎回走者を三塁まで進めてしまい、球数がかさんできたため、4回からは右の黒田広将がマウンドに上がった。 「うちは守備のチーム。打たれてもバックには頼れる仲間がいっぱいいる。ここまで1戦1勝で、遠くを見据えるのではなく目の前の1試合1試合を全力で戦ってきた」と黒田。4回は野手の送球ミス、7回には四球で走者を一人ずつ出すものの、ノーヒットのピッチングを続けてきた。 打線は相手投手の丁寧なピッチングを打ちあぐね、6回までわずか1ヒット。だが7回裏、待望の得点機が土浦三に訪れた。2死から3番・鈴木大芽が左前打、4番・黒田が右翼への二塁打。ここで相手投手が交替したが、代打の葉梨叶悠が死球で満塁とし、6番・星典蔵が左翼への二塁打を放って2点を先制した。「得意のまっすぐが来たら思い切り振ろうと思っていたら、インコースの一番打ちやすいところに来た。チームに勢いを付け、流れを持ってこれるバッティングができてうれしい」と星。 8回表には水戸葵陵が逆襲。3番打者の単打と4番打者の二塁打で1点を返し、5番打者は死球で無死一・二塁。だがここからの黒田がすごかった。6番打者を三球三振、7番打者には左前に打たれるが打球が浅いため走者はホームを狙えず満塁に。8番打者は三ゴロで本塁封殺、9番打者を三振でこの回を乗り切った。「同点までOKと言われていたが、同点にするとあせってしまうと思い、何としてもこの1点で抑えようと。自分の最大の武器であるコントロールを生かし、外を突くまっすぐと落とすスプリットを投げ分けた」と黒田。 だが9回を戦う余力は黒田に残っていなかった。順調に2死までは来たものの、3番打者に2ストライクからボール球を連発し歩かせてしまう。4番打者に左翼への適時二塁打、5番打者には左前適時打を許し、ついに逆転された。「脚がつっていたが責任感でマウンドを守らないとと思っていた。交替したときもまだ裏がある、あきらめないという気持ちだった」と黒田。竹内監督は「チームをここまで連れてきてくれたのは黒田の功績。最大の賛辞でねぎらいたい。あと一歩のところで勝利に導けず、監督として申し訳ない」と無念の表情を浮かべた。 霞ケ浦は下妻一に完封勝ち 18日の土浦、つくば地区の高校の試合結果は、J:COMスタジアム土浦の第1試合で霞ケ浦が下妻一に6-0と完封勝ちを収めた。 18日 3回戦 第1試合 J:COMスタジアム土浦霞ケ浦 000102003 6下妻一 000000000 0

つくば国際 3回戦突破ならず【高校野球茨城’25】

第107回全国高校野球選手権茨城大会は18日、3回戦が行われた。笠間市民球場の第2試合ではつくば国際がCシードの水戸啓明と対戦し5回コールド11ー0で敗れた。つくば国際は2回戦で佐和を3ー2で下し接戦を制したが、3回戦突破はならなかった。 18日 3回戦 第2試合 笠間市民球場つくば国際 00000 0水 戸 啓明 3143× 11 強豪の水戸啓明を相手に先取点が欲しいつくば国際は、初回1死後、矢口大聖が水戸啓明先発の柿崎大地からセンター前ヒットで出塁するが、続く成嶋蓮はサード併殺打に倒れる。 その裏つくば国際は先発の小野颯斗が2四死球と2つのエラーが絡み3失点。「先取点を与えないことを考えて投げた」(小野)が、捕手の成嶋蓮主将が「エラーでリズムをつかめなかった」と語る通り、2回にも1失点、3回にも3失点した。小野は7点リードされた3回2死1、2塁で交代。捕手の成嶋蓮が投手としてリリーフし、小野が捕手に入った。しかし成嶋蓮も流れを止められず失点を重ねた。 成嶋は4回にも水戸啓明の松原康介、宇佐美琉生にタイムリーヒットを打たれ3失点。4回2死3塁となったところで、本来エースだったが、けがでショートに入っていた津留崎隼人が自ら志願してリリーフし、四球を出すも次の打者を三振に仕留めた。 水戸啓明は5回から2番手としてプロ注目の好投手、中山優人が今大会初登板すると、この回つくば国際先頭の三浦咲都が内野安打で出塁するも、続く鷺沼舜、布施維士が三振、最後は川口翔大がショートゴロに倒れた。つくば国際は水戸啓明の柿崎大地ー中山優人の投手リレーの前に3安打完封負けを喫した。 先発した小野颯斗は「2回戦と違って自分のピッチングが出来ず、ストライク、変化球も入らなかった。リズムがつかめなかったし、エラーがあった時に抑える気持ちを強く出したが、結果抑えられなかった。もっと試合をやりたかったが相手が上手だった」と話し「最後にこのメンバーで出来て楽しめた。自分はつくば国際で野球をやりいろんな面で変わり成長出来て良かった」と高校での野球生活を振り返った。 成嶋蓮主将は「先取点を取って逃げ切りたかったが、初回のエラーで流れをつかめず大量失点になってしまった。投手としては思い通りに投げられた」とし「先輩、後輩関係なくみんなでコミュニケーションを取って仲の良いチームだった。明後日から兵庫県淡路島で開催される女子高校野球全国大会に出場する部員もスタンドで熱い声援を送ってくれた。部員以外にもサポートをしてくれた人たちに感謝したい。辛い時期もあったけど最後までこの仲間と戦えて良かった」と話した。  つくば国際の伊藤徹監督は「初回から固さがあり、力を出し切れなかったのが残念だった。強豪相手に勢いを持ってこられなかった。先発の小野に関しては自信を持って投げてくれれば良かったが、そこが強豪校相手という意識が強かった」と述べる一方「2回戦で勝てなければ水戸啓明と戦えなかったので、水戸啓明と戦えたことは彼らをほめたい。そこでもう少し力を出せるような指導が出来るようにするのが私の課題」と話した。引退する3年生には「部員が少ない中、いろんな思いをしながらここまでやってくれてありがとう」と感謝の言葉を述べた。(高橋浩一)